第22話 闇満ちる大地 四 死神
第五位階中位
闇が発生したのは、時刻的には昨日の夜。
進化した大海魔が死んだ時だ。
結界が壊れた原因が大海魔と関係あるかは分からないが、ルカナからは遺跡に何か仕掛けた様な情報は聞いていない。
ルカナはへんた……ちょっと趣味が特殊な子だが、お話しをしたら快く知りたい情報を吐い……吐いてくれた。
崩壊した城壁を越え、城へ侵入する。
今の今まで、遭遇したのはダモスの配下だけであり、死神連中は一度も見掛けていない。
どう考えても城の中で待ち伏せしている。
メイド達が散らばっていくのを尻目に、僕は以前図書館で見た遺跡の城内構図を思い起こす。
「ウルル、行くよ」
「ウォン」
親玉なら多分、一番広い場所、玉座の間にいるだろう。
◇
黒い靄は音をすら阻むらしく、穴だらけの城からは風の音すら聞こえない。
風に靡く銀髪を抑え、目の前にある錆びた大きな扉を見上げる。
——この先に、何かがいる。
しかし、内部から感じられる気配は微弱、それでありながら安定している。
死神達は月光をすら阻むこの闇を自在に見通せる筈だ、それはつまり、この先にいる何かが僕を待っていると言う事になる。
チラリと横目でウルルを確認すると、僕が声をかけるまでも無く、しっかりと準備を整えていたらしい。
ウルルのしなやかな銀毛は、僅かな月光から得た力を纏って燐光を放っている。
その光は黒い靄にも負けない輝きを持ち、僕はその銀毛をそっと撫でた。
これは予感。直感スキルか何かの影響だろう。
この門を潜ったら、おそらく引き返せない。
まるで地獄の門前に立たされたかの様な気分だ。
だが、それと同時に——
「ふふ♪」
——この先には未知がある。
未知の道が続いている。
それ程素晴らしい物は無い。
「……行こうか、ウルル」
「……ワフ」
……なんで呆れた様な答え方なのかな?
「むぅ……」
「ウォン!」
むむむぅ…………まぁ、良いか。
僕はそっと門に手を添えると、重厚な鋼の扉を押し開けた。
◇
最初に感じたのは風。
直前に自然の風を感じていたから分かったが、これは厳密には風では無い。
強烈な威圧によって周囲の魔力が押し出された為に起きた現象だ。
同時に視界が真っ暗に染まったのは、膨大な闇の魔力が玉座の間から溢れ出したからに他ならない。
されども、感じる気配は未だに微弱。
感知能力が高くなければ気付かない程度なのに、気付いたら気付いたでそれがヤバイ物であると理解できる。
果たして、濃密な魔力の奔流は直ぐに収まった。
玉座の間は晴れ渡り、どういう訳かその内部の全てを見通す事が出来る。
他の部屋と違い穴の一つも空いていないその空間は、今の風で埃が払われたらしい、綺麗な石の床と一段高い場所に作られた玉座が良く見える。
玉座は朽ち果て、横倒しにされている。
その横には、一体の死神が立っていた。
静かにはためく漆黒のローブは、裾が闇に溶けるかの様に広がっており、フードから覗く骸骨は、眼窩に青白い炎を灯して此方を見ている。
黒いローブの袖から伸びる骨の手には、死神の身の丈以上に巨大な大鎌の柄が握られている。
見た目自体は他の死神とあまり変わりがある様には見えない。
しかし、闇が晴れたからだろう。今まで感じる事の出来なかった気配、濃密な死の香りが、はっきりと感じられた。
『……異界より招かれし者』
唐突に聞こえた死神の声。
ただ声を掛けただけのそれにすら、強烈な死の力が混ざっている。
『盟約に従い、闇を乗り越えし資格者に死克の試練を与える』
闇を乗り越えし資格者? ……さっきの闇の奔流の事か。
チラリと横目でウルルを伺うと、ウルルは力なく地面に横たわっていた。
ステータス欄を確認すると、状態は気絶。体力のバーは九割も削られている。
スキルを発動していなかったら死んでたかもしれない。
対する僕の体力は、1割程度削られているだけであった。
『……鍵持つ者、金の神に仕える銀の巫女よ。死克を果たし、現界に定めらし十二の試練を越えよ、さすれば門は開かれるであろう』
とりあえず本を取り出し、ウルルを送還する。
試練を与えると言う事はつまり、この死神はアルネアの言う勝手な神と知り合いか、或いは天命とやらを与えられた存在なのだろう。
他にも様々な重要ワードが聞こえた。
先ず『金の神』。
これは以前のあれだろう。
更に『銀の巫女』。
これも妙だ、そもそも僕が銀髪選んだのは何と無くであり……何者かの介入があった訳では無い筈だ。
……何と無く銀髪が似合う様な気がして、何と無く碧眼にして…………。
まぁ、良いか。
他にも、『鍵を持つ者』、『現界に定めらし十二の試練』、『門は開かれる』と言う言葉。
そのままの意味で、鍵を持つ僕が現界の試練を越えると何処かの門が開かれると言う事だろう。
現状では何が何やらさっぱりである。
「……良く分からないけど……僕、君には勝てないと思うんだ……今はまだ」
最後の一言は、ちょっとした確認の為に付け足した。
鑑定結果は、正体もレベルも不明。
感じられる気配からも、力の総量は測る事が出来ない。
更に付け足すと、そもそも存在の有り様が違う気がする。
なので、小手調べに軽く見下す様な発言を織り交ぜてみた。
これに少しでも喜怒哀楽を表せば、少なくともそれが人に近い意思の形をしている事が分かる。
少なくともザイエは凄く呆れた様な諦めた様な顔をしていた。
『然り、然りとてそれは義体であればの事。死克は体に能わず心に能う、魂に銀と金色の加護を持つなれば死克を成すは容易かろう』
義体と言うには些か同化に過ぎるが。
そう言いつつ、死神は大鎌を構えた。
『義体』とか、『金色の加護』とか、色々と気になるワードが多過ぎるのだが、考えている暇は無いらしい。
僕はインベントリから蟹鎚を取り出し——
『資格者よ、死克を果たし——』
「っ!?」
——背後から聞こえた声の元へ振り抜いた。
『——我が神命を代行せよ』
大鎌は既に——
「……ぁ?」
——僕の心臓を貫いていた。




