第21話 闇満ちる大地 三 彼女達の事情
第五位階中位
吸血鬼達が得た情報によると、敵の本拠地は墓地の深部と遺跡北部の城跡地。
現在吸血鬼側で出せる戦力は、今この場にいる20名の先鋭メイドだけらしい。
敵は神出鬼没のリーパー系なので、吸血鬼になって間もない弱い娘や、美人さん改めアスフィンさんを守る為の戦力として、セバスさんとリアラがこの場に残るそうだ。
まぁ、貴種クラスのヴァンパイアが20名もいれば十分な戦力である。
それじゃあ出発しようか。
「ユキ、力になれなくてすまない、貴女の武運を祈っている」
「うん、アスフィン…………涎、出てるよ?」
「……お嬢様、失礼します」
「…………うぅ……」
赤面するアスフィンの口元に、リアラが何処からか取り出した可愛らしいレースのハンカチを添えた。
そんなに僕の血は美味しいか。
そして、リアラは先ず自分の口元を如何にかした方が良いと思うんだ。僕は。
「ユキ様、彼女等へは後程言い聞かせます故、御無礼をお赦しください」
「……セバスが謝る事ではないよ、二人と他数十名とは後で僕がお話ししておくから」
「お話し、で御座いますか……」
「うん、お話し」
「……リアラへは一層厳しくお願い致します」
「うむ、任された」
うん、厳しく、ね……うん、任せてよ。
セバスさん達の話しを聞くに、アスフィンが彼らの主人と言う訳では無い様である。
言うなれば客人だろうか? ……彼らの関係はやや複雑らしい。
◇
最初の目的地は城。死神の頭を潰す。
空には綺麗な月や星々の輝きが見て取れると言うのに、視線を下ろすとそれらの恩恵は闇に飲まれ、十数メートル先までしか見通す事が出来ない。
周辺一帯は闇の魔力で満たされている為、魔物が近寄ってくれば分かるが、遠ざかればその気配を追うのは困難と言わざるを得ない。
闇の力が死神に統制された物である為か、同じ闇の種族である吸血鬼の目を持ってしても……僕と同じくらいしか見えないらしい。
「さすが、じゅる…………サスガユキサマデスネ」
「全くで、じゅる…………マッタクデゴザイマス」
「くっ……これが真の吸血衝動ですか、じゅる……く、悔しいです」
「……」
彼女らの境遇に付いては、セバスさんから、態と汚い言葉を使って教えられている。
彼女らは『人間牧場』出身らしい。
血が美味い者同士、つまり、美形や健康体の人間を交配して作られたのが彼女らと言う事だ。
通常、人間牧場の家畜達の飼育は、穢れた血統と呼ばれる家畜の雌と吸血鬼の間に生まれた混血が行うらしい。
その混血は劣等種とみなされ、家畜の世話や、汚物の処理なんかを強要されているらしい。言うなれば貧民層……いや、奴隷と言ったところか。
混血が劣等種と呼ばれる理由は、実際にそれらが混血であると言う事が第一として上げられる。更に付け足すと、家畜の雌を使用するのが下位吸血鬼である事も理由の一つである。
殆どの下位吸血鬼は、吸血鬼の軍勢がその勢力を増す為、人間の奴隷やならず者、盗賊を鬼化させた者達であり、それらは概ね性欲が残っている。
それを処理する為に、味の悪い、見目が悪かったり病気をしている雌や、一番旬の時期を過ぎた見切り品を使っている。
それらが孕んで生まれた子供が、その体の頑強さ故に生き残り、労働力として消費されている。
稀に、下位吸血鬼が混血を使用する事もある様だが、政策として避妊を義務付けているらしい。
混血と転血の間には純血が生まれる可能性があるのが理由だとか。
……ただ、鬼化した連中は元がならず者だったせいで、それらの政策は概ね守られていないらしい。発生した純血の吸血鬼は戦闘奴隷として利用している様だ。
更にもう一件付け足すと、吸血鬼・貴種や吸血鬼・王の、悪食と呼ばれているお歴々が家畜や混血、転血を使用する事があるらしく、それで生まれた子供も、戦闘奴隷として利用しているとか。
まぁ、ダンピールや戦闘奴隷については置いておこう。
上手くやればそれらは味方に出来るとだけ覚えておく。
彼女らの境遇は、言ってしまえば嗜好品。
人間牧場の家畜は、畜産物を得る為に採血と言う形を取っている。
しかし吸血鬼達の中には、グラスに注がれた血液よりも、直に牙を突き立て血を啜る方が良いと言う者が多くいるらしい。
それらの需要に応える為に用意されたのが、僕の周りで涎を垂らしている彼女らと言う事だ。
彼女らは家畜の中でも特に大事に育てられ、ストレスの少ない環境で最高の嗜好品として磨き上げられる。
最高の血統に、直に牙を突き立て血を啜る。
これがお歴々の嗜好である。
そして、王クラスや、一部の他より地位の高い貴種クラスに血を吸われた彼女らは、転血でありながら最低でも純血の吸血鬼と同格の力を持つ事になる。
しかし、彼女らは元が家畜である為家畜の教養しか持たず、扱いは戦闘奴隷か転血の性欲処理用に消費される。
……筈だった所を、リアラが拾って来たらしい。
セバスさんは、リアラが連れて来た、まだ人間と言えるそれに、何も言わず人としての教育を施した。
従者としての品格、生ける者としての強かさ、淑女の作法、戦闘の嗜み。
一級のメイドとして育て上げ、それがさる高貴な身分の吸血鬼の目に留まった。
その高貴な身分の吸血鬼と言うのが、『竜血鬼帝』。ヴァンディワル・ドラクル……の妹、『吸血鬼・女帝』
——リブラ・ドラクルである。
このリブラ・ドラクルが、少女達の味見を条件に強権を発動し、使用後の嗜好品はセバスさん預かりになったとの事。
……因みに、リブラの語源は『リ・ブラン』。
……白百合の事である。
これは、リブラ本人の口からセバスさん達に話された事実らしい。
そして、それの意味する事に気付いたのは、セバスさんだけ。
……リアラにはそれらの意味が分からず、『妾の晩餐会に参加せぬか? 今夜はそなたを招待するのじゃっ! ……ボソッ《食材として》』と言う言葉に騙されホイホイ着いて行きそうになった事があるらしい。
幸いな事に、リアラを慕う美少女メイド達が身を呈してリアラを庇った事で、彼女の無垢な心と体は守られた。
尚、一日中椅子に縛り付けられ、自分が拾って来た少女達が『お姉様だけはお許しくださいっ!』や『お、お姉様っ! 見ないで、見ないでくださいっ!』と泣き叫びながら百合百合されている所を見せ付けられたリアラの感想は、お腹を鳴らしながら『……ご飯まだ……ですか?』であったそうだ。
これには、寝取りプレイを大いに堪能したリブラサマも言葉を失い、次の瞬間には自らの手で自らの瞳を覆い隠して『綺麗過ぎて目玉が焼けるのじゃーっ!?』と、もがき苦しんだらしい。
美少女メイド達が自慢げに話していた。
セバスさん預かりの美少女達は、リブラ・ドラクルに味見された後、『竜血鬼帝』の娘の世話役として勤める事になった。
そして、セバスさんが離反して、今に繋がる。
セバスさんは離反する際、密かにリブラ・ドラクルの手助けがあったと言う事を、僕に念話で教えてくれた。
本人曰く『一晩寝所を共にした女子に情が沸くのは当然の事じゃ』と照れ隠ししながら言ったらしい。
まぁ、その真意は、セバスさんを逃す為であったのだろう。
「そろそろ城に到着する、各自散会して露払いを」
『了か、じゅる……リョウカイッ!!』
……とりあえず後で、全員お話しね。
◇
この世界の言語は、殆どが旧ルベリオン帝国語の派生であり、一部が古エルフ語、幾つか存在する文献には、古代獣人語として一緒くたにされている言語に、一部亜人種の言語、竜種が使っていたとされる文字などがある。
そんな中で、『リ・ブラン』と言う言葉が白百合と言う意味を持つのは、
——マレビトの言語のみなのだ。




