第18話 桃色兎と発情期
第五位階中位
次は、『アークズメイ』。
光が収まった時、目の前にいたのは一匹の竜だった。
大きさは僕の3倍くらい。
体格が良く、両手足の可動域は結構広そうだ。
そして、首が三つある。
中央の首はより竜らしい見た目だが、左右に生えている二つの首はどちらかと言うと蛇っぽい。
まぁ、あくまでも真ん中に比べると、なのでどの首も竜っぽいが。
おそらく左右の首は中央よりスペックが低いのだろう……多分。
そんなズメイ君は、六つの瞳で僕を見つめると左右の首が僕に近付き、長い舌で頬をペロッと舐めて来た。
すると、両腕がその蛇の頭を掴んで僕から遠ざけようとしたので、その両腕に手を添えて辞めさせる。
どうやら体の支配権は中央の首にあるらしい。
中央の首は表情を全く変えないが、その両腕は困った様に動きを止め、しばらく後に蛇頭を解放した。
蛇頭は解放された後、中央の首にシャーッと文句を言ってから僕に巻き付いて来くる。
なんとも言えない可愛さである。取り敢えず撫でる。
首はある程度伸縮するらしく、最初の目算よりも長く伸びて巻き付いて来たが、その伸びた部分は鱗の強度が落ちる様で蛇っぽさが増していた。
中央の首は表情こそ変わらないものの両腕が宙を上下していたので、僕は蛇頭を体に巻き付けたまま両腕を広げ中央の首を迎え入れる体勢をとる。
中央の首はしばらく動きを止めた後、おずおずと頭を近付けて来たので、そこへガバッと抱き付いた。
「よしよーし」
遠慮しなくても良いのだよ。
しばらく撫でていると、唐突に声が聞こえて来た。
『主、感謝』
どうやら中央の首から念話が来ているらしい。
伝わる情報が断片的で片言みたいになっている、おそらく念話のレベルが低いか慣れが必要なのだろう。
とにかく、三つの首が満足するまで撫でる。
◇
次、『ヴィーヴル』。
ヴィーヴルと言えば、翼のある蛇の事だ。
果たして、光の中から現れたのは想定通り、翼の生えた大蛇であった。
大蛇は風を纏い宙を舞っているが、翼はあまり羽ばたかせる事は無い。
その翼は竜翼では無く鳥の物に似ており、一対の翼と体表の色は、進化前が森に溶け込む蛇だった為か緑色。
高い知性を感じるその瞳は僕をじーっと見つめているが、特に巻き付いてくる気配はない。
「……」
「……」
「……よしよーし」
「……」
撫でられるのが嫌と言う訳では無い様である。
◇
次はサンディアだ。
変わっていないだろうが、取り敢えず召喚してみる。
召喚して現れたのは、見た目に殆ど変化が無いサンディア。
剣を引き抜きシュパッと天に掲げると、ひまわりの様な笑顔を浮かべた。
剣を振り回すのが好きらしい。
「はいはい、剣はしまってね。よしよーし」
「〜〜♪」
僕が撫で始めると、サンディアが僕を撫で始めた。
撫でると言うか摩ると言うか。背中や脇腹、胸元にお腹をこれでもかと言わんばかりに撫でさすって来る。
花が咲く様な顔でわしゃわしゃと摩ってくるので、止めてほしいとは言えない。
仕方がないのでやり返すと、サンディアは更に加速し、最早笑顔が満開と言えるレベルである。
摩り合いはサンディアが満足するまで続いた。
◇
次は、メロット。
メロットは、スキル欄に『獣化』と言うスキルが追加されていた。
これが表す事と言えば一つ。
……メロットは今人型をしている?
勿論、獣で無いなら人型。と言う考え方は、ある意味暴論と言える。
そんなこんなで召喚したメロットは……人型をしていた。
髪の色は変わらず桃色。
髪の上にちょこんと生えた兎耳は、やる気なさげに垂れており、やや赤みの強い桃色の瞳も、耳同様やる気なさげに半目に開かれていた。
身長は僕と同じくらいで、髪の長さも同じくらい、しかし、その胸元は……巨大だった。
身長から計算するとあまりに巨大に過ぎる。
そのクッションは冗談みたいな大きさと——
「おっと、わぷ」
「……重い」
——柔らかさだった。
「……楽」
「……ふふぉふぁい」
「……擽ったい」
「……」
取り敢えず服を着せよう。
メロットに似合いそうなのは……『王の王権』シリーズかな。
換装を使ってメロットに装備を装着させると、急にふわりと体が浮き上がり、続いて何か柔らかい物に着地した。
換装の光が消えた時、その理由が判明した。
「……良い椅子」
「ふむ、玉座か」
どうやら玉座に自動的に座らせられた様だ。
『王の王権』シリーズは、右手側に剣、左手側に杖が浮かび、椅子の背後に旗が浮いていた。
豪華な玉座に深く座り込んでいるメロットは中々立派な堕落っぷりである。
「……よしよーし」
「……苦しゅうない」
左様で。
◇
さて、最後に、『ヒロインウルフ』の確認。
名前からリトルが無くなっただけなので、特に変化は無い様にも思えるが、一応確認しておく。
そんな軽い気持ちで召喚すると、出て来たのは美少女であった。
「ふむ……人型化が進行している」
「くぅーん」
狼耳の生えた美少女は、四つん這いで僕に近付くと、直ぐに擦り寄って来た。
コロリと転がってお腹を晒したので、氷白が怒るかと思ったが、氷白は氷白でルーベルとサンディア、メロットに躾をしていて手一杯らしく、此方に気付いていなかった。
取り敢えずお腹を摩りつつ、服を装着させる。
選んだのは……余りの『小悪鬼王』シリーズと『雪狼の毛皮鎧』。
かなりワイルドで露出が多いが、全裸よりはマシである。
ワイルドな狼ちゃんの見た目は、髪が金色、長さは腰まであり、それはサラサラとした良い毛並みだ。
瞳の色は青色で少しツリ目がち、身長はやや低いものの僕よりは高く、胸元は……まぁ本人が気にしない限り問題は無いだろう。敢えて言うなら手のひらに収まるリトルなサイズである。
狼ちゃんは何処と無くティアに似ているが、お腹を摩られて体をくねらせ喜ぶ様は、少々滑稽可愛い。
さて、名前はどうするか。と狼ちゃんを鑑定すると、其処には、いつの間にか名前らしき物が付いていた。
ミュリア ヒロインウルフ LV161 状態:発情
「……」
「くぅーん、はっはっ……う?」
「…………メロット」
メロットに声を掛けると、常態がダラダラのメロットは今までで最速の反応を見せて此方へ振り返ると、狼ちゃん改めミュリアを見てから桃色の瞳をキラッと光らせた。
なんの比喩でも無く桃色の瞳が光を纏い、強力な魅了能力が発動しミュリアに複数の状態異常が発生する。
即ち今のミュリアの状態は、魅了、催眠、服従、発情、発情、となった。
メロットに魅了されて尚僕に発情している。怖い……僕の魅力が。
メロットのスキル構成は魅了系に特化しており、主な魅了系に相当するスキルは、『誘引』『挑発』『誘惑』『魅了』『魅了魔法』『魅了の魔眼』『魅力』『催眠術』『催眠魔法』『催眠の魔眼』『幻影魔法』『使役』『命令』『指揮』『求心力』『威圧』『調教』『催淫』『催淫の魔眼』『淫気操作』『房中術』『性技』『甘言』、他。
……メロットに魅了されたが最後、人としての尊厳は踏み躙られる事だろう。これは素直に怖い。
と言うか……メロット、いつの間にか凄く強くなってるね。
ともあれ、今回メロットに使って貰うのは『淫気操作』。
簡単に言うと、発情を正気に戻すスキルである。
「……楽」
「……」
「……まぁ良いか」
発情状態を解除されて元に戻ったミュリアは、目から光が失われたままメロットの足置きになるのだった。
……それにしても、なんで発情してたんだろう?
発情の対象が僕と言う事は、雌の狼であるミュリアが、異種族の、それも見た目だけは同じ雌に見える僕の体に発情していたと言う事になる。
これはあまりに不自然だ。
ルーベルならあり得なくも無かったが、ルーベルの方は普通に甘えて来ていただけ、絵面が犯罪なだけで本質は至って健全だった。
対するミュリアはどうだろう。絵面は女の子同士のじゃれあいだが、その本質は不健全。
僕におかしな点が無い以上、ルーベルとミュリアに根本的な違いがあると言う事になる。
それはつまり……ミュリアは人間相手に生殖本能が刺激される性質を持っている。
…………人間と生殖出来ると言う考え方を持っている?
「ん?」
地面に座り込んで考え事をしていた僕の手に、突然、何かプルプルとした物がくっ付いた。
何かと思って手元を見ると、地面が盛り上がって僕の手を突いている。
「リッド……あぁ」
そうか、皆が揃ったのか。
色々と衝撃が多くて失念していた。
配下の全員を送還し、リッドに隔離状態を解除して貰う。
さて……地下墓地の攻略を考えようか。
僕は思考をさっさっと切り替えると、リビングへ向かった。




