第15話 黒幕の少女
第五位階中位
最初、桃花が沖の方を指差して、『あそこに何かあるわ』と言った。
僕には黒い点にしか見えなかったが、桃花がわざわざ教えて来たのだから無価値な物では無いだろう。と、『念力』や『念動』で魔力を湯水の様に使ってそれを引き寄せた。
それは近付くにつれて徐々にその正体が明らかになって行った。
最初に分かったのはマント。
視認できる範囲に入って、フヨフヨと漂っていたそれが黒いマントの様な物であると分かった。
僕が引っ張っていたのはマントの裾だった様だ。
そして、僕の魔力を知覚出来る範囲に入った事で、そのマントの下に人型の魔力がある事が分かった。
津波があった以上、一瞬、うわぁ……水死体? と思った僕は悪く無い筈だ。
直ぐに、それがまだ生きている事に気付いた僕は、それを水面から引き上げ、一気に浜辺へ引き寄せた。
そのマントの下から出て来たのは、僕等と同じくらいの身長の少女であった。
髪の色は黒、瞳の色は紫、服装は良いところのお嬢様と言った風だが、その正体は——
ルカナント・グラシア リトルデーモンロード LV264 状態:気絶
——悪魔であった。
◇
敵かどうかは判断つきかねるので、取り敢えず起こしてみる事にした。
ただし、起こす前に先にテイムしておく事にする。
いやー、ちょうど良いところに戦力が転がってるね。
「『上位契約』」
「あはぅんっ…………はっ!?」
僕がルカナント氏をテイムすると、少女は何やら艶っぽい声を上げて覚醒した。
「触手がっ!? ……?」
「ほう?」
触手とな?
王都を襲った烏賊と関係がありそうな単語である。
少女は跳ね起きて周囲を見回すと、直ぐに正気に戻ったと同時に状況を理解したらしい。
目の前にいた僕を睨み上げると……何故か頰を赤くした。
「…………体は自由に出来ても、心まで自由に出来るとは思わない事ね」
「……」
「私はどんな凌辱にも辱めにも屈さないわよ?」
頰を朱に染めたまま、嘲るように嗤ってみせたルカナ。
凌辱も辱めも似た様な意味だった様な気がするが僕の気の所為だろうか?
取り敢えず様子見も兼ねて、蟹鎚を出してニッコリと微笑む。
「そっか、じゃあ……殺そう」
脅しと精神強度の確認の為にそう言うと、ルカナは瞬時に翼を展開して高速で離脱しようとした。
しかし、桃花に足首を掴まれ離脱出来ていない。
僕はニコニコしたまま蟹鎚の先端で地面を叩くと、桃花は僕の意図を汲んでコクリと頷き、ルカナを地面に叩きつけた。
……と言うか、凌辱されるのは良いけど殺されるのは嫌なんだね。
「きゃっ!」
「……さて」
「っ!? ……そ、そんな……高貴なデーモンロードの私が……こんな所で終わるの……? ……い、いやっ! 死にたくないっ!!」
酷く怯え始めたルカナ。
表情は青ざめ、僕の足にしがみついて来る。
「冗談は……」
「こ、殺さないでっ! ……な、何でもするわ。ほ、ほら、私、綺麗でしょ? す、好きにして良いのよ? この高貴な私を」
「……」
「っ! ……わ、私は歴史上類を見ない速さでデーモンロードになったのよっ! 何れはあの『悪魔皇帝』も『竜血鬼帝』も超えて、最強の悪魔王になれるっ! そ、そんな私を自由に出来るのよ……?」
「……」
「ね、ねぇ…………そ、そうだわっ! 私を使って見なさいよ。そうしたら私の有用性を理解出来ると思うの」
「……」
「だ、断言するわ! 貴方は私を生かしておいて良かったと思う事になるっ!」
もはや真っ青を通り越して真っ白になりつつ必死に自己アピールをしているルカナ。
僕は途中から笑顔を消して無表情でそれを見下ろしている。
おそらく、『悪魔皇帝』がディアリードで、『竜血鬼帝』がヴァンディワルだろう。
折角良い具合にお話しし易そうな精神状態なので、このままお話ししてしまおうか。
「……」
「わ、私は天才なのよ! 殺すと絶対に後悔す——っ!?」
「ふふふ」
「……あ……あぁぁ……! や、やめ——」
「——やめて欲しい?」
「っ!」
「それなら——」
◇
ふぅ、1日に二人も仕上げるのは疲れるね。
「ふふ、よしよーし」
「くっ……この高貴な私が……はぁはぁ……下等な人間に、犬扱い、されるなんて……! ……くぅん……♪」
元々素質があった様なので、ルカナとのお話しは案外手早く終わった。
ルカナは痛いのは嫌だけど精神的にイジメられるのが好きらしい。
所謂マゾヒストと言うやつである。
レミナの場合は、死への恐怖を利用してご褒美に快楽を与えてお話しした。
桃花は僕への好意を人質に取って、僕に従えば一緒にいられると刷り込んだ。快楽はおまけである。
まぁ兎に角、これでルカナは叛逆したりはしないだろう。
良い具合の戦力も確保出来たし、王都に向かおうか。
「……ユキ様……素敵です……」
「ハニー……羨ましいよぉ……」
「…………理解出来ない……」
首輪とか買った方が良いかな?
◇
道中、桃花にはネロの方に移って貰い、ルカナと軽くお話しをした。
どうやら、王都に烏賊をぶつける作戦を考えたのはルカナだったらしい。
件のルカナは、出来心で烏賊の触手に捕まろうとして失敗し、海の藻屑になりかけたとの事。
『せ、生態を観察する為に近付いたら近付き過ぎちゃったのよ』とは、ルカナの弁である。
結局は死者ゼロだったとは言え、これを明かしてわざわざ事を荒立てる必要も無いので、秘密にしておこう。
そんなこんなで王都に到着し、時刻はもうすぐ集合時間。
桃花とルカナには王城の地下『審判の間』で待機して貰う予定だ。
少し急ごうか。




