第13話 狂い咲く桃花
第五位階中位
「貴女が津波を引き起こした犯人ねっ!」
「違うよ」
「え?」
港町に着いて早々、ウルルから降りると、ロリな少女に天災の犯人扱いされた。
とても心当たりのある話しだが、犯人は僕では無い。
桃色の髪に桃色の目と言う非常に珍しい容貌をしたこの少女、服装はビャクラと同じで侍風、腰には刀の様な物が左右に二つ添えられている。
感じられる気配は強者のそれだ。
桃花 LV279 状態:?
……ワガママちゃんだ。本当に居た。
「わ、私は騙されないわよ! 津波の後に現れた隠す事もしない強者の気配っ! 何より……」
どうやら彼女が気配を探知出来る範囲はそこそこの広さらしい。
此処から王都に何が襲い掛かって来ていたのかは見えた筈だが……寝てたのかな?
「……犯人は現場に戻って来る!」
「……」
「……ふふ、私の完璧な推理に声も出せないのかしら? ざまぁないわね、戻って来たのが運の尽きよ!」
わざわざ溜めを作って言う事がそれか、と対応に困っていると、桃花は腰の刀に手を添えた。
「昨日は上手く私の寝る時間を突いて来た様だけど…………お陰様で寝不足よっ! この桃花様が直々に成敗してあげるわ!!」
「まぁ待て、取り敢えず話を——」
「問答無用っ! 天誅!!」
唐突に怒りを露わにした、もはや会話すら成り立たない桃花は、裂帛の気合いと共に高速の抜刀術を繰り出して来た。
……掛け声に合わせたら駄目だよ。
「おっと」
「っ!?」
瞬時にカルキノスとノーライフ、他各種強化系スキルを発動させた僕は、素手で刀を打ち払おうとしたが止め、摘んで止める事にした。
止めた理由は単純に、桃花の実力はともかくとして、刀自体がちょっとやばい代物だったからだ。
腕で受けていたら斬られていたかも知れない。
驚愕した様に目を見開いた桃花は、驚く程の速度で持ち直すと、即座にもう片方の刀、小太刀を引き抜いて斬りつけて来た。
それを、同じ様に摘んで止めようとして止め、バックステップで離脱する。
同時にナイフを引き抜き、伸びた小太刀に刃を添えて斬撃を逸らした。
「くっ、これも避けるの!?」
この隙にウルルに指示を出し、マヤとメィミーを離脱させる。
桃花は二人に興味がない様で、特に反応を見せる事なく、刀と小太刀の二刀流で此方を睨み付けていた。
「……あんた、陰気な魔法使いかと思ったら案外やるじゃない」
「それはどうも、話しを聞く気になったかな?」
「はんっ、侍は刀で語るのよ? 私の本気、見せてあげるわっ!」
何故か状況が悪化した。
桃花は小太刀を仕舞うと、刀を中段に構え、すっと目を瞑った。
「『咲き誇れ』! 桃花っ!」
そう唱え、かっ! と瞼を開くと、桃花の瞳は僅かに輝きを纏い、変則ポニーテールがバサっと広がった。
そして——
「なっ!?」
——彼女の瞳は再度驚愕に見開かれた。
直ぐ前にある僕の目と目を合わせて。
僕がやった事と言えば単純で、桃花が目を瞑った瞬間に僕の魔力を一割程その場に残し、残りの魔力を全力で隠蔽。
所謂魔力囮を残し、迅術で瞬きの間に接近した。
……戦闘中に目を瞑ったら駄目だよね。
瞬時に斬りかかって来ようとした桃花の腕を取り、捻って刀を奪うと、インベントリに入れる事が出来なかったので遠くに放り投げた。
そのままさっと足払いを掛けたが、倒れながらも小太刀を引き抜こうとした桃花。
しかし、その瞳は更に驚愕の色に染まった。
理由は明快。
小太刀は、念力などのスキルで既に引き抜いてあり、今は宙を舞っている所だ。
「きゃっ!?」
「よっと」
地面に倒れ込んで小さな悲鳴を上げた桃花に、変な事をされる前に馬乗りになり、両手を抑えつける。
当然、桃花はそれに抵抗した。
その力は凄まじく、超強化状態の僕でさえ、とてもじゃないが長時間抑えている事は出来ない。
さっさっと誤解を解かなければなるまい。
「話を——」
「——は、離しなさいっ! あ、あぁ、後8秒……は、離せーっ!!」
後8秒? 能力の効果時間だろうか? だとしたら後8秒待った方が良いだろう。抵抗する力が無くなってからの方が話しはしやすい筈だからね。
「は、離しなさいっ! 離せっ! 離してよっ!! あ、ぁぁあっ! 後2、1……っ」
0、時間切れ。
「……?」
……時間切れなのに桃花の能力が切れた様子は無い。
しかし、桃花は力を失ったかの様に抵抗するのを止めると、悲しげに目を窄めた。
良く分からないまま、それをじっと見ていると、桃花は僕の顔をじっと見上げ、徐々に瞼を大きく開いていく。
その瞳は涙で潤んでいた。
その後、ゆっくりと、やや青白かった頰に朱が差していき、僕の目をじーっと見つめる桃花。
「……よ、良く見ると私好みの容姿だし……気配も……え、えぇい! お、女は度胸っ!」
「?」
取り敢えず抵抗する気は無い様なので、桃花の両手を解放した。
ようやく話しが出来るかな? と口を開く、
すると——
「ふ、ふちゅちゅか者ですがっ! よ、宜しくお願いしますっ!! ん!」
「んむっ!?」
——解放した両手に頭を掴まれて引き寄せられ、唇を奪われた。
……なんで?
◇
「はい、あーん」
「あーん」
「……ど、どう? ハニー、美味しい?」
「……うん」
「そ、そう……こ、これで胃袋は落としたわっ!」
小声で呟きながらガッツポーズをする桃花。
今、僕たちは桃花が泊まっている高級宿に来ていた。
ウルルは送還済みである。
あの後、長いキスが終わり、何気にファーストキスだなぁ、と考えつつも自己紹介を終え、宿に連れ込まれた。
マヤとメィミーも付いて来たのだが、桃花はそれに一瞥をくれただけでずっとスルーし続けている。
そして今、いつの間にか薄着に着替えた桃花の、手作りらしいやや不格好な肉じゃがの様な料理を食べさせられ、感想を言った所である。
マヤはじとっとした目付きで桃花を見ており、メィミーは歯軋りを立てて桃花を睨んでいる。
そして僕は、この子とどうお話しすれば良いかを考えていた。
「……押し倒されて、好きな人が出来て、キスをして、子作りをして、胃袋を掴んだ……後は……初夜、抱き合いながら寝れば良いのね……お、お母様、桃花は今日、母になります……!」
何やら手元を見ながらブツブツと不穏な事を呟く桃花。
どうしたのかとその手を見ると、メモ帳にチェックを入れている所だった。
次の瞬間、桃花はばっと僕の方へ振り返ると、僕をベットまで引っ張っていき、その中に引き込んだ。
そのままぎゅーっと抱き付いて来る。
今度は何?
「……ハニー……ぎゅって、して?」
「……よしよーし」
抱き締めるぐらいなら吝かでは無い。
寂しげに潤む桃花の瞳は、何処か子供の頃のアヤを思い起こさせるもので、取り敢えず抱いて撫でる。
すると、しばらく僕の胸元に擦り寄って全身で絡み付いて来ていた桃花が、足を絡めたまま僕からほんの少しだけ離れた。
そして、桃花はその隙間から下を覗き込み、自分のお腹を愛おしげに撫で始める。
「……こ、これで私もお母さんになれるのよね……えへへ……」
「いや、それはおかしい」
「え?」
僕の至って当然の突っ込みに、疑問の声を上げ眉根を寄せた桃花。
しばらく首を傾げていたが、唐突に合点が言ったと言わんばかりに大きく頷いた。
期待なんて欠片もしていないが一応聞こうか。
「そっか、ハニーも同じだからお母さんよね……となると私はハニーにとってお父さん? ……あっ! ハニーはまだ押し倒されて無いし、私の胃袋も掴んで無いからやっぱりお母さんじゃ無いわ、ハニーはお父さんよ! ふふん」
「この子に変な性教育を教えたのは誰だ」
自信満々に変な事を言い出した桃花。
これはちゃんとした教育が必須である。




