第7話 不思議の世界の小さなしあわせ
第五位階中位
地図を見ながら街を探索し、いくつかの商店を覗いて回った。
それらの商店は、やはり大した物は売っておらず、武器なら良くても鉄の武器、薬品も品質の低い中級がせいぜいだった。
マヤはマナポーションを爆買いしていたが……僕からしてみれば、魔力を回復する為のマナポーションを回復量の数倍の魔力を払って買うと言う無駄行為でしかない。
ちなみに、鍛錬島の鉄武器は王都で売っている物よりも品質が良いので、碌な物が無いと言っても王都よりは幾分マシである。
商人的な考えで行くと、此方で買ってあちらで売却すれば儲けられると思うが、安定して儲けるには問題がある。それはこの島で売っている物の原料の供給がどうなっているのか、だ。
クランショップもそうだが、買い過ぎや売り過ぎで値崩れなんかが起きるのか、と言う疑問がある。
ゲームの様に何時迄も同じ値段では無いだろう。
まぁ他にも気になる事はある。
これらの武器や防具、道具は何処から来て誰が作っているのか、なんてのは凄く気になる所だ。
……神的な輩が何かをしているのは間違い無いけどね。
そんなこんなで軽めの探索を終え、次の目的地へ進む。
向かう先は、地図上には表記されていない場所。
街の中にある公園、その小さな林の中だ。
「……魔王に——」
「——はい、マナシールリングの加工、終わったよ」
「ありがと……魔王に暗がりへ引き込まれた」
マヤはどうしても僕を魔王にしたい様だね。
それはともかく、此処に来た目的は単純で、『訓練窟』をクリアした際に不自然な気配を感じたからだ。
今は随分と安定しているが、此処まで近付けば違和感は感じる。
「そうだね、これからマヤを食べちゃおうかな?」
「え? ……じょ、冗談?」
辺りの気配を探ると、特に違和感を感じる場所を探知出来た。
違和感の元は、他よりほんの僅かに幅が大きい木の根元。
「冗談だよ」
「……そ、そう……」
茂みがあって分かりづらいが、木の根元に小さな樹洞の様な物がある。
其処を覗き込んでみると——
「あった」
「?」
——迷宮の入り口があった。
正確に入り口かどうかは分からないが、六角の板に本らしき物が描かれた謎の人工物。
まぁ、迷宮だろう。
「それじゃあマヤ、行こうか」
「? ……うん」
マヤと手を繋ぎ、六角の板に触れた。
◇
《【運命クエスト】『不思議の世界の住人達』が発令されました》
【運命クエスト】
『不思議の世界の住人達』
参加条件
・『不思議の世界』に入る
達成条件
・『不思議の世界』を踏破する
失敗条件
・無し
達成報酬
・スキルポイント10P
光が消えた時、視界に入ったのは、小さな木と小さな建物群だった。
「……まさに不思議な世界だね」
「……ん」
空高くから太陽が光を降り注ぎ、吹く風は穏やかな緑の香りを運んでいる。
小さな木々がさわさわと揺れ、そして小さな家の扉が開いた。
「…………」
「…………」
「…………」
——ギィ バタンッ。
「…………ん?」
「…………………ん?」
「……何か今、予想以上にモフッとした物が見えた気がしたんだけど」
「……ん、ぬいぐるみ、うさぎの」
どうやら見間違いでは無いらしい。
小さな家から一瞬だけ顔を覗かせたのは、僕等のサイズからは実に丁度良い感じのうさぎのぬいぐるみ。
二足歩行で立って扉を開いていたので、種類としてはゴーレムの一種だろう。
少し考えごとをしていると、またもや唐突に扉が開き、其処から先程見えたピンク色のうさぎのぬいぐるみが出て来た。
手には小さなハンマーの様な物を持っている。
「……どうやって持ってる?」
「……魔力だね」
うさぎはポフポフと此方へ歩みよると、近くにあった金属製の丸い何かへハンマーを振り下ろした。
カンカンカンと立て続けに金属音が鳴り響き、何をしているのかと訝しんだ瞬間——
——街中の扉が開いた。
「……ぬいぐるみの群れ」
現れたのは多種多様な動物を模したぬいぐるみの大群。
それらはわらわらと此方へ走り寄ってくる。
……戦うべきか逃げるべきか……モフるべきか?
ぬいぐるみ達のわらわらする可愛らしい姿を見詰めている内に、あっという間に囲まれてしまった。
しかし、仕掛けて来る様子は無い。
攻撃性の魔力を感じないので、彼等に攻撃の意思は無いのだろう。
されど彼等はにじり寄ってくる。
どうした物かと困っていると、ぬいぐるみ群の中から1匹、クマのぬいぐるみが出て来てマヤの足にぺたりとしがみついた。
「……」
「……」
「……」
一瞬の沈黙と停滞が訪れ、マヤはクマのぬいぐるみを拾いあげた。
「……もふもふ」
ほんの数回ぬいぐるみをニギニギすると、そのままギューと抱き締めた。
「……もふもふもふ」
次の瞬間、僕達は走り寄って来たもふもふの津波に飲み込まれた。
◇
もふもふの、もふもふによる、もふもふの為の饗宴はしばらく後、終わりの兆しが見えて来た。
全身がもふもふに包まれるもふもふ天国は、特に体力が削られる訳では無く、何が目的なのかは知らないが、しばらく抱き着いたもふもふは控えていた後続と交代すると言う訳の分からない状態が続いた。
今は数匹のもふもふがしがみついているだけである。
一体何だったのか。
最後にしがみついていた1匹が離れると、一番前に最初のピンクうさぎが現れ、すべてのもふもふが一糸乱れぬ動作で右腕を掲げた。
もふもふ達の右腕にはいつの間にかキラキラと光る小さな物体がくっ付いており、それらは唐突にもふもふ達の手から離れると僕の目の前に飛来した。
キラキラと光る小さな物体はどんどんと寄り集まって強い輝きを放ちながら塊になっていく。
全てが集まった瞬間、球体は一際強い輝きを放ち、それが収まった時、目の前には透明な玉があった。
夢の宝珠 品質S レア度? 耐久力?
備考:夢の欠片が集まって出来た夢の結晶。
僕の手のひらの上にゆっくりと落ちて来た物を鑑定すると、何やらレアなアイテムであると言う事だけが分かった。
「……えーと?」
「……」
僕が困惑していると、ぬいぐるみ達は唐突に万歳三唱の様な事を始めた。
もはや僕は状況についていけない。
万歳三唱が終わるとぬいぐるみ達は再度僕の方へと駆け出した。
またもふもふされるのかと身構えると、一番前を走っていたピンクうさぎが唐突に消滅する。
「え?」
「!?」
次々と走り寄ってくるぬいぐるみ達は、僕の直ぐ近くまで来ると消滅していく。
訳が分からずその様を見ていると、次第に夢の宝珠の魔力が高まっていき、そして——
——光が弾けた。
視界が戻ると、目の前にはより輝きを増した宝珠が浮いていた。
夢の星珠 品質? レア度? 耐久力?
備考:?
「…………」
「…………」
訳が分からないよ。




