第2話 審判の間
第五位階中位
予感を元に恐る恐る振り返ると、其処には変わらずリッドとウルルの姿があった。
しかし、違う点が二つ。
リッドの中に浮かぶ二人の女性が縮んでいた。
正確には女性が少女になっていた。
「……んで、爺様、二人が目を覚まさないんだよね、どうにかならない?」
「いや、なんかユキの反応が思ってたのと違う」
「……そうだね、此処に連れて来たのは賢明だったよ、しばらく此処で過ごせば直ぐに元に戻る筈だ」
「そっか、なら良かった」
「もはや何も言うまい」
どうやらこの広間に置いておけば目覚めるらしい。
爺様達も縮んでいるし、どう言う原理と理屈かは大体理解出来る。
精霊のそれと似た様な原理だろう。
壊れた部分やおかしくなった部分を取り除き、形を整えて安定させてから元に戻す。
……普通の生物ならともかく、爺様達みたいなちょっとおかしい生物はこう言う事が出来るんだろう。
リッドに二人を床へ寝かせる様に指示を出し、折角なので審判の間の中を見聞する。
大きな広間には、扉の正面、一番奥に大きな石像があった。
その石像は女性を模した物で、小さな天秤の様な物を持っている。
背後には本と剣が宙に浮いているのを表現したと思わしき物があった。
天秤の真下には玉座らしき豪華な椅子があり、それは段差が作られ他よりも高い位置にあった。
……なんか大事な儀式の場所っぽいんだけど……まぁ、良いか。
「ん……ふぁ……あら?」
「ん?」
辺りを見回していると、小さな声が聞こえた。
振り返ると、ちょうどシスターアルメリアが上体を起こした所だった。
服は僕のそれと同じで自動調節機能が付いているらしく、少女化したのにあまり縮まなかった胸元にもしっかり合わせられている。
シスターアルメリアが起きるのと同じくして、犬耳侍少女も起き出した。
今の状況を解説しに行こうか。
◇
幸いな事に二人は直ぐに状況を理解した。
それと、どうやら二人は爺様達よりも一段くらい格上の人達だった様で、その何方とも知り合いらしい。
特にシスターアルメリアはお姉さんだかお母さんだか的な立ち位置らしく、『ふふ、お久しぶりですね、ザイエ、デュナーク』と呼び捨てにしていた。
折角なのでミニ白雪も此処に置いて行く事にする。
さて……。
「爺様、ちょっと良いかな?」
「ん? なんだい?」
「これを見て欲しいんだけど」
僕は爺様に声を掛けると、魔典のあるページを見せた。
其処には——
名前:レイーナ LV228 状態:死亡
種族:猫賢者
スキル▼
蘇生まで残り〔65:14:37〕
召喚不可
——レイーニャの魂が込められている。
「レイーニャ死んじゃったから僕の物にしたんだけど」
「そうか……ユキはもうレイーナを従えられる程になっていたんだね」
貰っちゃっても良いよね? そんなつもりで聞いたのだが、レイーニャを従える事が僕の強さの指標になったらしい。
少年爺様は僕へニコリと微笑んだ。
「地上で何があったか、話してくれるね?」
「うん」
爺様の言葉に頷くと、パーティー会場から貰って来た椅子と机を出し、クッキーっぽいお菓子と人数分の飲み物も取り出して、かくかくしかじか説明をする。
「——と、言う事があってね」
「ちっ、悪魔共がっ!」
「そうか……すまない、そんな時に一緒に居てやれなくて」
「まぁ、仕方無いさ。幸いユキ殿のお陰で死者は……一人だけだったからな」
ビャクラの言う死者とはレイーニャの事だ。実質死者ゼロと言えるだろう。
「ユキさんと、この子が頑張ったんですよ〜」
シスターアルメリアはそう言いながら、抱き抱えている白雪を持ち上げて見せた。
……もしかして見てた?
そう思い話を聞くと、どうやら、王都近郊に来て状況を監視していた王級の悪魔とその配下の一団を皆殺しにしていたらしい。
……おそらく、悪魔達は大海魔を利用して王都を滅ぼした後、その大海魔を追い払うなり殺すなりするつもりだったのだろう。
そして、後に残った廃墟と弱体化したマレビトを包囲する、と。
まぁ、この規模の作戦に王級の責任者がいない筈も無い。
シスターアルメリアとビャクラには二回分命を救われた訳だ。
「所で、爺様達は何時くらいに元に戻りそう?」
そう、これは重要な事だ。
何せ此処2日や其処らで吸血鬼の貴種や悪魔の王級の襲撃があった事になる。
一度事を起こして撃退されたからと言って敵の動きが鈍くなるとは限らない。
次何時攻撃があるかも知れない以上、爺様達が弱体化しているのは……困る。
「さて、ね……5人となると少々時間がかかりそうだが……この分だと後最低でも4日、かな?」
「4日、か」
長いか短いかで言うと、襲撃の間隔から言って長いと言えるだろう。
これは早急に強い味方を増やすべきだ。
「それじゃあ僕、行くね」
「行ってらっしゃい」
「悪いな」
「無理はしない様にな、ユキ殿」
「この子は私がしっかり預かっておきますね」
……心配だからサンディアを……いや、表に出せないレミアを置いて行こう。
◇
さて、強い味方をと言っても、心当たりは二つしか無い。
遺跡にいるセバスチャンさん達か、森にいるアルネアとリェニの2人か。
だが、その何方も今は大変な事態に襲われている。
吸血鬼さん達の方は逃亡中、アルネアの方は妖精達の護衛がある。
となると、しばらくの間は僕が保有する戦力で補うしか無い。
差し当たって、島に置いて来た新入りの子達とソルジャー達を回収し、島での狩りはワーカー達に任せよう。
街の護衛はソルジャー総勢30体と、ゴーレムガーディアン、及びゴーレムスカーレットナイトの二体。
合計32体のゴーレムに任せるとしよう。
……些か戦力不足な感は否めないが、獣型の子達を配備するとプレイヤーに攻撃されかねないので致し方無い。
上手い事魔力の供給源を会得出来れば三巨像さん達も設置したいのだが……それには王都そのものの大規模改修が必要になるだろう。
錬金術を行使すれば一々掘り返したりせずにどうにか出来そうではあるが、まず魔力が持たない。
……三巨像さん達強いけど使い辛いな。
取り敢えず目下やる事は、先ず北の森に送った子達に西の森の遺跡街に向かう様に指示を出し、僕は拠点の島に向かって新人の子達とゴーレムを回収。
全員回収したら街に戻ってゴーレム達を配備っと。
取り敢えず行こうか。
「ウルル、ゴー」
「ウォン!」
うん、ウルルに乗るのも大分慣れて来たね。




