AS 双剣使いタクの闘い 【Episode.1】 β島の闘い 六十四
第三位階上位
黒い靄を纏う双頭の巨竜は此方を見ると、血の色に輝く二つの双眸を歪めた。
俺にはその様が、ニヤリと嗤っている様に思えた。
「っ! 何だ……?」
唐突に巨竜は自らの腕に爪を突き立て、切り落とした。
腕は地面に落下して、ドス黒い靄が血の様に飛び散り辺りを黒に染める。
何をしてるんだ。と思ったのも束の間、地面に落ちた腕は瞬時にその形状を変化させ、一匹の竜へと変じた。
「っ! ……ユニット生成って訳か……」
そう言いつつ二匹の竜の動きを伺っていると、巨竜に纏わり付いていた黒い靄のほんの一部が巨竜の失われた腕に集まって行くのが分かった。
靄は直ぐに薄れ始め、消えた頃には……新しい腕が生えていた。
「……冗談きついぜ……」
そう呟いた次の瞬間——
「っ!?」
——闇が爆発した。
正確には漆黒の双頭竜が爆発した、と言えるだろう。
急速に輪郭がぼやけ、次の瞬間には黒い靄が部屋中に拡散した。
その靄に触れた瞬間、まるで心臓を掴まれたかの様な莫大な恐怖が襲い掛かり、同時に俺の体が銀色の光を放ってその恐怖を打ち払った。
「な、何だ?」
「綺麗……それに……」
「あったかいです……」
「キーアイテムの効果って事かしら」
周囲一帯が黒い靄に包まれているが、ココネちゃん達の動揺する声やアマネさんの冷静な声が聞こえる。
どうやら皆も同じ様な状態らしく、やはりこれがキーアイテムの効果なんだろう。
銀色の光は黒い靄と拮抗し、気の所為だとは思うが、光と靄の狭間で熾烈な戦いが起きている様に思えた。
メニューを開いてステータスを確認すると、いつの間にかHPバーが八割りも削られており、今は物凄いスピードで回復していっていた。
……キーアイテムが無かったら今ので即死してた訳だ。
多少余裕が出来たので靄の動きを見ると、風が吹いている訳でもないのに俺達の後ろ、扉の外へと急速に流れて行っているらしい。
次第に靄は薄れていき、完全に晴れ渡った。
其処に、双頭の黒巨竜の姿は無かった。
「……何処に行った?」
分からない、だが、考えている暇も無いらしい。
巨竜がいなくなり靄が晴れた其処は、光溢れる真っ白な大広間。
其処に、双頭竜の代わりと言わんばかりに存在感を放つ、一匹の黒竜の姿があった。
どうなってるのか分からんが、とにかくやるしか無い。
——GaaaaAAaaaa‼︎‼︎‼︎
開戦の号砲は放たれた。
◇
「そこっ!」
「グルゥァアアッ!!」
「っ!」
隙を突いて後ろ足に振り下ろした一撃は、唐突に虚空から現れた黒い金属の様な物を切り裂き、竜の鱗を浅く切り裂くに留まった。
黒竜は双頭竜と同じで二脚で立つ人に近い形をしていた。
様々な魔法を使い、黒い炎や金属を発生させ、攻撃を防いでくる。
その上、斬りつけた部分からは血の代わりに黒い靄が飛び散り、その靄が蜥蜴の形に変わって襲い掛かってくる。
取り巻きを発生させる能力は引き継がれているらしかった。
対する俺達はと言うと、全員が銀色の光を纏っているが、中でも俺やアラン、アマネさん、ゆりちゃんにセナの五人はその輝きが武器にまで及び、その銀色の光を纏う武器で攻撃すると黒竜に大きなダメージを与える事が出来た。
その分飛び散る靄も多く、大量に発生する蜥蜴はココネちゃん達やセイトに処理して貰っていた。
双頭竜は兎も角として、この黒竜やその配下の蜥蜴達には破石が効く様なので、ココネちゃん達はもっぱら破石投げ要員として戦っていた。
勿論、この後双頭竜と戦うのだろうから爆石や崩石は使えない。
それでも、黒竜の攻撃の殆どを銀色の光が防いでくれるので、ほぼ一方的な攻撃が続いていた。
だが、黒竜は俺達よりずっと格上なのか、一向に倒れる気配は無い。
何となく縮んで来ている様にも思えるが、もしかしたら火の迷宮で戦った炎の巨人と似た様な仕様なのかもしれない。
そんな細々とした戦いを続けていると、ある時、唐突に黒竜の四肢が落ちた。
「なんだっ!?」
「っ! まさかっ」
アランの驚く声が聞こえ、即座に悪い予感が浮かび上がる。
バラバラになって地面に落ちた黒竜を黒い靄が包み込んだ。
その靄が晴れた時、其処にあった光景は……予感が的中した物であった。
一匹の小さくなった黒竜に四匹の大きな蜥蜴、それらは、当然の様にそれぞれ違う獲物へと牙を剥いた。
◇
俺に襲い掛かって来たのは黒竜、他四匹の蜥蜴はそれぞれがアラン達と相対している。
サイズがほぼ人型にまで小さくなった黒竜は、左右の鉤爪を振るい、時に魔法を、時にブレスを吐いて俺に攻撃を繰り返す。
それを俺は、二本の刀を振るって被弾するのも構わず斬りつける。
心なしか銀の光が弱まって来ている様にも思える。
振るわれた右の鉤爪を左の刀で受け止め、左の鉤爪を右の刀で受け止めた。
竜の口腔へ黒い靄が集まり始めたので、その顎を迅斬術の最速の蹴りでカチアゲ離脱する。
竜の牙の隙間から黒い靄がドバッと溢れ出したのが見えた。
「っ!?」
離脱の瞬間、何かが足に纏わり付いた。
その何かは急速に俺の足を引き、吊り上げる。
足に纏わり付くのは黒く細長い物、竜の尻尾。
——不味いっ。
そう思った時には、俺の首を咬みちぎらんとする黒い靄を纏った竜の顎門が、目の前に迫って来ていた。
そして——
——竜の頭部が吹き飛んだ。
「っ!?」
何が起きた? そう思ったのは一瞬の事。
目の前に立つ赤の騎士、その拳を振り抜いた様な姿勢が全てを物語っていた。
「助かったぜ」
そう声を掛けるも、赤の騎士は振り返る事なく竜を蹴り飛ばした。
その時、何か赤い物がごとりと地面に落下する。
その赤い物は——
「っ!? これ……どう言う事だよ……」
——赤の騎士の指。
見ると、赤の騎士は所々が腐食したかの様に、或いは風化したかの様に、不自然に穴が開いていた。
落ちている指は、その根元が虫食いの様になっており、落下の衝撃で割れ砕けていた。
更に視線を転じると、黒竜を蹴った足が色艶を失い、騎士がそれを地面につけた時にボロッと崩れ去った。
銀の光が無いからか?
「お前、これ……馬鹿野郎っ! 下がれっ!」
咄嗟に叫ぶ俺の声に、赤の騎士は振り返りもせず親指を立てて見せ、即座に黒竜へと殴り掛かる。
赤の騎士は、相打ちになってでも黒竜を倒すつもりらしかった。
言葉に聞く耳を持たないのなら仕方ない。
俺はストレージから『白兎泉水』を取り出すと、赤の騎士の背中にぶん投げた。
狙い違わず『白兎泉水』は赤の騎士の背中に当たり、赤の騎士をほんの僅かに銀色の光が包み込む。
しかし、その傷は治らなかった。
こうなったら、やられる前にやるしか無い。
二本の刀を強く握り締め、黒竜へと斬りかかった。
◇
しばらくのち、黒竜を切り倒す事に成功した。
その時には銀の光は消えてなくなり、赤の騎士は地面に倒れ伏していた。
辺りを見回すと、遠巻きに此方を取り囲む大量の黒蜥蜴の姿が見える。
その更に先では、アランにアマネさん、セナ、ユリちゃんが黒蜥蜴達と戦い続けているが、その身に纏う銀の光は弱々しく、今にも消えてしまいそうだ。
……どうやら、銀の光を失った皆はやられてしまったらしい。
こんな事なら『白兎泉水』を皆に配っておけば良かったと思ったが、後悔してももう遅い。
ストレージから『白兎泉水』を二本取り出し、一本は俺に、もう一本は倒れた騎士に使った。
……急がねぇと。
◇
結局、生き残ったのは俺だけだった。
戦いの最中銀の光を失ったアラン達は、それでも黒蜥蜴達と戦い続けたが、やはり黒いモンスターは普通のモンスターとは違うらしい。
次第に武器が壊れ始め、破石や爆石を使っても今一歩及ばず。
振るわれた拳や足が腐食する様に溶け消え、最後は光の粒子すら残さず消滅した。
その様が余りにも不吉過ぎて、本当に皆が消えてしまったかの様な錯覚を覚えた。
だが、所詮これはゲーム。
噴水に行けば皆復活している事だろう。
それよりも今は赤の騎士だ。
そう思い赤の騎士に近付くと、赤の騎士は突然、自らの手で自分の胸部を貫いた。
「っ!? おまっ、何してやがるっ!」
そう声を掛けると、赤の騎士は胸部から腕を引き抜いた。
パラパラと赤い欠片の様な何かが飛び散り、その手には赤い結晶体が握られている。
その結晶を俺に投げて来たので、咄嗟にキャッチすると、騎士はぐっと親指を立てた。
——ガシャッ!
静かな広間に硬い物がぶつかる様な音が響く。
赤の騎士が倒れた音だ。
「なぁ、おい」
俺の手の中にある結晶体、これはモンスターで言う魔石と言う物なのだろう。
「……おい」
それを取り出すと言う事は、即ち——
「おい、こら……」
——死を意味する。
「……何とか言えよ…………」




