AS 双剣使いタクの闘い 【Episode.1】 β島の闘い 六十三
第三位階上位
それに反応したのは俺だけでは無い。
酔っ払ってぶっ倒れていた筈のセナは跳ね起き、尻尾の毛を逆立てて街の東側、大聖堂のある方角を見つめている。
ユリちゃんは、セナを膝枕してニヤニヤしていたのに、今は薙刀に手を掛けその方角へ構え、アマネさんは弓に矢を継がえて同じ様に大聖堂へと視線を向けている。
アランも貸し厨房から出て来たが、その手には大剣が握られていた。
うちのメンバーは険しい表情ながらも、普通に戦う事は出来そうだ。
しかし、他はそうも行かないらしく、セイトとココネちゃんは真っ青になりながらも剣に手を添えているが、ヒヨリちゃんは酷く怯えた表情でカタカタと震えている。
アキちゃんもヒヨリちゃんと似た様な物で、一番臆病そうなノアちゃんに限っては恐怖が行き過ぎたらしく真っ白になりながらもピクリとも動かず停止していた。
何が起きたのか。
少し考えてみれば分かる事だ……コウキ達が白の騎士を突破した、そして……何かを目覚めさせてしまった。
尋常じゃ無いこの威圧感は、今迄とは比較にならないモンスターであると言う運営からのメッセージだろう。
……戦力の把握が必要だな。
「アラン、アマネさん、戦えるか?」
「当然、行けるぜ」
「誰に向かってものを言っているのかしら?」
二人は大丈夫そうだな。
「ユリちゃん、セナ、二人はどうだ?」
「勿論やりますよ」
「行きます!」
こっちも大丈夫そうだ、後は……。
「……セイト、行けるか?」
「どうにか、ね……」
「……た、タク先輩、わた、私もーー」
セイトにしか誘いを掛けなかったのは、流石に12や其処らのココネちゃん達をこの気配の相手と相対させるのは憚られる、と思ったからだ。
しかし、ココネちゃんは震えながらも立ち上がろうとした。
「——ココネちゃん達はログアウトした方が良い」
「っ……で、でもっ……!」
戦わせてやりたいのは山々だが、どうにもこの気配は洒落になってない。
遊びとは思えない程の脅威。
自分が何で平静でいられるのか分からないくらいには濃密な恐怖を感じる。
……まるで……そう、もう直ぐ自分が消滅してしまう様な……しかし、それと同時に、問題なんて無いと言わんばかりに平静でいさせる、一種蛮勇の様な感情が平行して存在している。
……俺ってこんなに戦闘狂だったっけ?
そう思った所で、ふと思い至る事があった。
……そう言えば……迷宮を四つクリアした時に入手した『白兎泉水』に変な解説が付いてたな。と。
メニューを開き確認すると、其処には、本当に変な解説が付いていた。
白兎泉水 20本詰め合わせセット
備考:肉体、精神の凡ゆる不浄を祓い清める神代の泉水。
ふと、自分が失われる様な感覚を覚えたら飲みましょう。すっきり元通りになりますよ。
前半は兎も角後半が妙に親しげだ。その上何かピンポイント過ぎで逆に怪しくもある。
だがまぁ、間違いなくこれがこのボス戦のキーなのだろう。
幸いな事に20本もあるので、今いる10人全員に配る事が出来る。
問題は効果の程だが……試してみる他あるまい。
「わ、私も戦いま——」
「——ちょっとこれ飲んでみてくれないか?」
「へ……? は、はい!」
取り出した小瓶を手渡し、ココネちゃんが飲むのを待つ。
コク、コク、とココネちゃんの喉が鳴り、泉水を飲み干すと、途端にココネちゃんの顔色が良くなった。
「はふぅ……何だか……元気? が湧いて来ました! 戦えます!」
「よし、キーで間違い無いみたいだな……」
少々首を傾げながら、しかし決然と言い放つ様は、俺から見ても気合十分に見える。やはりキーだった訳だ。
白兎泉水を全員に配り、俺も一本飲んでみると、たちまち恐怖が薄れて行った。
そう言えば……効果時間三日とか聞いた様な……まぁいいか。
全員を見回すと、ノアちゃんはまだ少し怖がっている様だが問題無し、セナは今にも威嚇しそうなくらいに猛っているが、まぁ、問題無し。
基本戦力は10人分、後はアイテムの確認だな。
急いで全員の手持ちアイテムを確認した所、使えそうな物を幾つか揃える事が出来た。
今ある道具は、『風崩石』×10、『風爆石』×7、『風破石』×82、『土崩石』×10、『土爆石』×13、『土破石』×113、『水爆石』×2、『水破石』×32、『火爆石』×7、『火破石』×89、『爆発の魔法石』。
このうち、破石はおそらく役に立たないだろう。使うのは爆石と崩石、そして、『爆発の魔法石』だ。
誰が死んでもいい様に各自均等にアイテムを持たせ、準備が整った。
後は戦うだけだ。
「……よし、行くぞ!」
各自の応じる声を聞き、戦場へと向かった。
◇
大聖堂への道は、走れば数分で到着出来る。
その道中、プレイヤーとは一度も遭遇しなかった。
おそらくログアウトしたのだろう。俺だって訳の分からない恐怖を何時迄も浴びていたいとは思わない。
大聖堂に辿り着くと、内部から戦闘音が聞こえる事に気付いた。
コウキ達がまだ戦っているのかとも思ったが、そんな事を考えている暇があったら先を急いだ方が良い。
大聖堂に駆け込み、大広間を抜け、広い廊下を走り抜け、巨大な扉の前に到達した。
其処には——
「……やっぱり、白の騎士は倒されたのか」
——ボロボロになって倒れている白騎士の姿があった。
身体中に細かい傷があり、所々に皹が入っている。
まだ動きそうにも見えるが、完全に停止しているらしく、俺達が近付いてもピクリともしない。
扉は閉まっていた。
しかし、中では戦闘音が続いている。
「……皆、覚悟は良いか?」
最後の確認とばかりに全員を見回し声をかけるが、特に心配は無いらしい。
巨大な扉に手を掛け、白兎泉水で強化された力で押し開ける。
扉の先に見えて来た物は——
「……嘘だろ…………」
——ボロボロになって倒れる赤の騎士の姿。
そして——
——黒い双頭の巨竜。
暗闇にあって尚暗いその姿は、俺には絶望その物の様に見えた。




