AS 双剣使いタクの闘い 【Episode.1】 β島の闘い 五十九
第三位階上位
「立ち話もなんです、どうぞお上がりください」
そう言って、兎耳の女性は此方に背を向けると、手も触れずに引き戸を開けた。
カラカラと言う音が聞こえ、ゆったりと歩む兎耳の女性は歩き出した。
その歩く様は綺麗な物で、端的に言って隙がない。
「……行こう」
どのみち此処に突っ立っている訳にも行かないし、万一死んでも死に戻りするだけ。その上特に危険はなさそうに見える。
僅かに躊躇したのは、女性の歩く所作に格の違いを感じたが為だ。
建物の中に入ると、其処は広めの土間になっており大きな踏み石が置かれていた。
当たり前の様に靴を脱ごうとした所で、靴がどちらかと言うと具足と言える代物である事に気が付いた。
アラン達も少し困惑した様子だったが、『換装』で装備を外せば良いと思い至った。
いざやろうとメニューを開いた時、兎耳の女性に声を掛けられた。
「ふふ、心配いりませんよ」
女性はそう言って此方へ視線を向け——
「お?」
——唐突に体が軽くなった。
見下ろすと、ほんの一瞬前まで纏っていた筈の鎧は消えて無くなり、代わりに浴衣の様な服が着せられていた。
「さぁ、お入りください」
ちょうど開いていたメニューに視線を向けると、鎧が籠手や具足毎纏めてストレージに仕舞われていた。
……要するに、此処専用の装備って事か。
土間で裸足にされて上がったら意味無くないか? とも思ったが、特に何も言わずに上がる。
木製である事と言い色合いと言い、明るく温かみのある廊下を進む事しばらく、兎耳の女性が立ち止まった。
目的地に着いたらしい。
其処は——
「銀月の湯……?」
「風呂場か」
「……そう言えば、最初に白兎の湯って言ってたわね」
「最初はお湯に浸かって頂くのが規則です」
兎耳の女性は男女別に別れた暖簾の赤い方を潜り、虎耳を生やしたセナがそれに続いて行った。
色々と気になるが、まぁ良いか。と俺も青い方の暖簾を潜り、脱衣所に入った。
「へぇ……俺こう言うの好きだわ」
脱衣所はオレンジ色のライトで照らされた落ち着く空間で、棚には籠がありその中にタオルが入っている。
洗面台には大きな鏡があり、扇風機やらドライヤーやら、剣と魔法のファンタジーは何処に行ったと言いたくなる様な品物が散見されている。
まぁ、そう言うレジャー施設なのだろう。
「タオル巻いて入れって事か?」
そう言いながらアランが籠に入っているタオルに触れると、次の瞬間、アランの浴衣が無くなり代わりにタオルが腰に巻かれていた。
「えー……脱衣所の意味がねぇだろ、これ」
見ると、籠の中にアランが着ていた物と思われる浴衣が入っている。
風呂場専用装備って事か?
その他にも、飲み物が入っている冷蔵庫の様な物やお菓子の様な物があり、その中にはコーヒー牛乳っぽい物やお酒の様な物、ちょっとしたつまみやポテトチップスみたいなスナック菓子があった。
「取り敢えず入るか」
「そうだな」
観察してても仕方がないので、俺もタオルを装備すると、風呂場の扉に手を掛けた。
カラカラと音を立て開いた扉の先には、もくもくと立ち昇る白い湯気、広大に広がる満天の星、そして、美しく輝く銀の月。
「銀月の湯、か……」
「良いな、酒が欲しくなる」
お前未成年じゃねぇのか、とは言わない。ぶっちゃけ俺も酒は飲む、適度に。
浴場には広い洗い場があり、取り敢えず体を洗おうかと一歩入った所でそれに気が付いた。
「ふへぁ〜、気持ちーですぅ……」
「……此処って山の上なんですね……綺麗……」
「ええ、と言っても此方の湯は主に銀の月を楽しむ為の物、森なら若葉の湯か紅葉の湯の方が良いですよ」
女性陣がいる事に……。
「……撤収」
「離脱だろ」
「残念、もうバレてるわ」
「「うわっ!?」」
勤めて冷静に慌てて振り返ると、其処にいたのはアマネさん。
バスタオルを体に巻いただけの姿は扇情的で、たわわと実った立派な果実がーー俺は何も見ていない。
「残念ながら、見えない仕様よ」
「ちょっ!? ……いや、仕様だからって女子がそんな事すんなよ……」
アマネさんが何か言いながら、タオルの裾を思いっきり緩めたが、何故かタオルは落ちる事なくギリギリのところで静止していた。
心臓に悪いわ。
「どうやら混浴らしいのよ」
「そうか」
「……まぁ、良いか」
アマネさんに促され、温泉の方へ歩いて行く。
体は洗わなく良いらしい、其処はゲームな訳だ。
温泉の中では、セナが蕩けた表情で漂っており、それを兎耳の女性が捕まえている。
ユリちゃんは崖っぽくなっている所から、色々な意味でかなり危ない姿勢で景色を楽しんでいた。
因みに、兎耳の女性は白装束のまま温泉に入っている。
脱衣所の意味はねぇのな。そう思っていたが、よく見ると先程の物より薄い生地の物に変わっていた。
かと言って透けているのかと言うとそうでもなく、せいぜい腕が透けている程度だ。
「……邪魔するぞ」
そう声を掛け、湯に浸かる。
すると——
「ん?」
「へぇ、これは何かのバフなのか?」
——途端に活力が湧いてきた。
体の疲れが吹き飛び、今なら訓練場の無限モグラ叩きを丸一日継続出来そうな気すらしてくる。
「泉質は肉体と精神の治癒、強化、それから再生。後は魔法に対する防御力の向上です。加護もつくので不浄や闇の眷属、負そのものにも強い耐性が付きますよ」
「ほう? 強力な闇耐性って事か?」
「っても、βじゃまだゾンビとかスケルトンみたいなのにはあった事ねぇんだがな……バフはどんくらい続くんだ?」
「何も無ければざっと三日くらいですね」
「「三日っ!?」」
そりゃ凄いな、この状態が三日も続くって事か?
一人十億も掛かるだけある。
「直接湯に触れているよりは劣りますし、後々になれば効果も薄くなって行きます。飲む用の物も販売しておりますので、後でお包みしますね」
「おおう……まじか、助かるわ」
「っ!? き、来てたなら言って下さいよっ!」
兎の女性の心遣いに感謝していると、ユリちゃんが俺達に気付いたらしく、慌てながら肩までお湯に浸かった。
いや、まぁ…………すまん、ユリちゃん変態だから気にして無かったわ。
タケルの奴だったら見えなくても凝視してるんだろうがな。
「さて、清めに高めの暇潰しにお酒などいかがでしょうか?」
どう言う訳か浸かっているだけで気分が良くなって行くお湯の中で、思っていた以上にゆったりと月を見上げて過ごしていると、兎の女性がそう声を掛けて来た。
「駆け付け三杯ではありませんが、肴には蚫、海老、餅、と揃えております。……体が義体なので酒精の心配は要らないでしょうが」
「酒か……どうせならオススメとかが良いな。タクも飲むだろ? アマネは……」
「私もせっかくだから頂こうかしら」
「そうか、セナとユリは……飲まねぇよな?」
「飲みましょう」
「私も飲みましゅよぉ〜」
「……既に酔っ払ってるみたいになってんな」
酒の事になったら、途端にアランが仕切り始めた。
慣れてんのか?
「ふふ、では初心者にも飲みやすい『白夜』を。付け合わせは……『至天樹の塩茹で豆』、『天竜の燻製肉』、『大海魔の刺身』……いえ、折角なので大量に卸された『王蟹のカニミソ』にしましょう」
兎耳の女性は何処からとも無くお盆を出現させ、その上には『白夜』と銘が入った酒瓶にグラス、小さな器にはカニミソらしき物が入っている。
ユリちゃんとセナの前には肉があった。天竜の燻製肉かな? ……ちょっとそっちも食ってみたいが……キングクラブ……タイムリーな名前が出たな。
取り敢えずお酒を頂いて見る。
「……っ!? なんだこれ……美味いな……」
「飲みやすい……これなら何杯でもいけそうね」
「ぷはっ、こりゃ良いなっ、ガンガン飲める」
「ふふ、お一人様一石までならただですよ」
「そんなに飲めないだろっ! あ」
酒が一気に回ったのかつい素で突っ込んでしまった。
失礼だったか? そう思って兎耳の女性を伺うと、彼女は人差し指を立て、ウインクした。
「ふふ、場を和ませる為のラビットジョークです」
悪戯っぽく微笑むその様は……なんだ、案外親しみ易い人なんだな。
「……そのつもりだったのですが……」
「ん?」
兎耳の女性はふと、困った様に視線を逸らした、その先を追うと、そこには……瓶を傾けてラッパ飲みするセナの姿が。
……セナの体型だったらガチで死ぬんじゃねぇか? これ……。
「んくっ、んくっ……ぷはぁっ! ……ふへ、ふへへ」
「ちょっ……セナ?」
酒を飲んだセナは、緑がかった瞳を怪しく光らせ……ってか本当に光ってないか!?
「あらら、どうやら神気に当てられて魔眼が少し目覚めてしまったみたいですね……まぁ、大丈夫でしょう」
「いや、大丈夫って……あれ?」
「ふへへへ……ブクブクブク」
怪しく笑っていたセナは唐突にぶっ倒れて沈んで行った。
それを兎の女性が拾い上げ、両頬をパチンッと叩く、それだけでセナが元に戻った。
「ふみゅゃあっ!? はっ!? ……?」
「図らずも希少な魔眼持ちを発見してしまいましたが、まぁ今は儚い夢の中、大事も小事も覚めた時に片付けましょう」
微笑みながらそう言う兎の女性、心なしかその赤い瞳が光って見えて……まぁ、なんでも良いか。
「ふふ、そうですね、些細な事に気を止めても仕方ありませんから。今は美しい月を見ながらのんびりとお酒を楽しみましょう」
「……そうだな」
「……美味い酒だなぁ」
「……綺麗な月ね」
「ええ……知っていますか? 月には兎が住んでいるんですよ?」
「ははっ、ラビットジョークか」
「夢のある話しですね」
「兎さんですかー、あってみたいですね〜」
「ふふ、もうあってますよ」
あぁ、何だろう……楽しいな……。
「…………さて、ついでに不完全な記憶を改竄してしまいましょう。……まったく記憶の分野を扱うならもっと丁寧にしないと魂に悪影響があると言うのに……何かお仕置きが必要ですね」
……飲み過ぎたか? ……眠い……風呂で寝たらやばいか? まぁ、ゲームだし、大丈夫か……。
意識が遠のく中、何処までも鮮烈な銀色と、力強く輝く赤色が、最後まで俺を照らしてくれていた。
《【神話クエスト】【運命クエスト】『ーーの導き』をクリアしました》
【神話クエスト】【運命クエスト】
『ーーの導き』
参加条件
・白兎の湯にお越し頂く事です
達成条件
・ぼちぼち適当です
失敗条件
・ありません。強いて言うなら来れなかった人です。
達成報酬
・『ーーの加護《小》』
全体報酬
・評価点+
エクストラ評価報酬
次は私と同じ銀の因子を持つ子も連れて来て欲しい所です。
・スキルポイント1#&0@Pーー10P




