AS 双剣使いタクの闘い 【Episode.1】 β島の闘い 五十八
第三位階上位
結局、やる事が無いって事で今夜は自由行動をする事になった。
何せここ数日は激戦続き、俺は何故か今朝から調子がすこぶる良いが、他はそうも行かないだろう。
特にユリちゃんとセナは常にギリギリの戦いだった。
見た目には分からなくても疲労は確実に蓄積されている筈だ。
ここらでそれをリフレッシュするのが良いだろう、幸い金なら山程、それはもう沢山ある訳だし。
この街で出来る娯楽はあまり無い様に思うが、その実良く目を凝らして探すと結構ある様だ。
訓練場には何故かダーツや独楽みたいな遊び道具が幾らかあり、剣や弓などの武器と合わせて様々なミニゲームが出来る。
牧場では動物との触れ合い的な事も出来るらしい。
他にも色々と、暇潰しには事欠かない様だ。
そんな情報群の中、一つ妙に気になる物があった。
それは、石造りの建物群の中に一軒だけ他とは毛色が違う木造の施設があると言う情報。
その施設は、周囲を高めの壁に囲まれており、門に触れると支払い画面が現れる。
その値段が馬鹿みたいに高く何の説明もない為、誰も中に入った事が無い。
ただし、財宝二つ分の合計額の八割で五人分を賄う事が出来るのだ。
……はっきり言って入ってみたい。
そんな訳で、一時間程自由時間をとり、その後に其処へ向かう事になった。
まぁ、街では行く場所が限られるので、団体行動になっているが。
◇
皆がゲームに興じる中、俺は先に情報収集をする事にした。
訓練場は時間のせいか人がおらず、貸し切り状態だ。
現在の目立つ情報は、迷宮消滅。
どうやら、風、火、土の迷宮が無くなってしまったらしい。
メッセージにあった迷宮を討伐したって言うのは、何の比喩でもなく迷宮を倒してしまったと言う事なんだろう。
迷宮を攻略中だったプレイヤーは迷宮跡地に排出される様に飛ばされた様だ。
これにより、コウキ達の一団は全員が水の迷宮に乗り込み、今夜一杯石集めをするらしい。
その後、十分な量が集まったらボスを撃破し、明日中にも白騎士に攻撃を開始するそうだ。
掲示板の愚痴なんかを流しみて回るに、どうやら全体的に停滞感の様な不満が募っているらしい。
迷宮が見つかったり蟹が攻めて来たりと、多少の大規模イベントはあるものの、フィールド自体は変わらない。
βのプレイヤー数は五百人前後の様だが、それにしたって八日も経てば今行ける全ての範囲は攻略済みになっている。
これ見よがしに存在するあの山へ行きたいと言うプレイヤーは多いし、このゲームが海中を一体どんな風に再現しているのか知りたいと言う声もある。
コウキはそんな状況を打開すべく、森の至る所に存在しているボス級を倒して周っていたのだろう。
情報群の中には、ゴーレムの不可解な行動について言及している物があった。
どうやらゴーレム達は定期的に大聖堂の前に行き、大きな像の前にある円筒状の何か、祭壇の様なそれに宝石の様な物を捧げているらしい。
その行動が大聖堂にある壁画に何かしら関係があると睨み、結果、扉の先に停滞を打開する何かがあると踏んでプレイヤー達は動き出した訳だ。
その他幾らかの情報を集め、相変わらず各スキルが如何に使えないかを愚痴っているスキル掲示板を覗いてから情報収集を切り上げた。
眼前には、弓矢を使った的当てで満点を取り景品の矢を貰い続けているアマネさん。
モグラ叩きみたいなゲームをエンドレスでやり続けて『これっ、いつっ、終わるんですっ!?』と叫んでいるセナ。
それを眺めつつ薙刀の手入れをしているユリちゃんに、木大剣を手に、複数の小型ゴーレムが繰り出す攻撃を捌き続けてセナと同じ様な事を叫ぶアランがいた。
……俺、確か30分くらい情報収集してた気がするんだが……二人はここ来て直ぐにあれをやり始めてなかったか……?
◇
所変わって木造建築の前。
精緻な装飾が施された門に敷地を覆う白塗りの壁。
何処と無く『和』を感じさせるその建物は、やはり周囲の石造の建物と比べると明らかな異物だ。
「それじゃあ触れるぞ」
そう皆に声をかけ、両開きの扉の中心に触れた。
《五人:必要魔力〔5,000,000,000〕》
《YES/NO》
もはや入れる気の無い値段にしか思えないが、払える。
勿論の事、YESを選択した。
《充填を確認。権利者を認識。転送します》
転送? そう首を傾げた瞬間、両開きの扉が開かれ、そこから溢れ出した眩い光に飲み込まれた。
◇
ふと気がつくと見知らぬ場所に立っていた。
辺りを見回すと、背後にはアラン達がおり、その更に後ろには先程まで目の前にあった筈の門。その扉は閉まっている。
地面は玉砂利が敷き詰められ、飛び石が点々と大きな木造の建築物へと続いている。
建物へと至る道の半ばに、此方へ背を向けて箒で掃除をしている女性がいた。
白っぽい装束を着込み、白とも銀ともつかない白銀の髪を不自然に揺らしているのが目に入る。
「ここは……?」
「門の中……にしては——」
「——気候が違いすぎるわね」
「少し肌寒いですね……」
「……外から人の声が聞こえません…………」
何が起きたのか分からないが、とにかく情報を集めよう、と、女性へ向かって一歩踏み出した。
その瞬間——
「——ようやく来ましたか」
「っ!」
唐突に凛とした女性の声が聞こえた。
まるで一歩踏み出すのを待っていたかの様に。
「暇潰しにも飽いて来た所でした」
そういうと、女性は手に持つ箒を投げ捨てた。
箒は宙に溶け消える様に消滅し、つむじ風に吹かれて浮き上がった落ち葉もそれに続く様に消えて無くなった。
女性はまたもや不自然に、頭頂付近の白銀の髪をふわりと揺らし、振り返った。
「異邦の子供達」
美貌。
人間離れした美人が其処にいた。
何処と無くユキや悟さんに似た雰囲気を持つその女性。
身に纏う超越的な雰囲気。
和服の裾から覗く真っ白な肌。
そっくりだ、違う所と言えば、体の生育だろうか?
ユキや悟さんは色々とちっこいがこの人物は身長と言い身体つきと言い、確り女性だ。
「今宵、雪の如く儚く消える一時を送りましょう」
美貌を人間離れした、と言わしめる理由の一端はその瞳だろう。
髪も肌も白いのに、其処だけは燃える様な赤色をしていた。
だがしかし。
俺が、アランが、アマネさんが、女子二人が、注目しているのは。
注目せざるを得ないのは。
身長の割に膨よかに過ぎる和服を押し上げる胸元でもなく。
紅玉の様に輝いて見える瞳でもない。
その頭部。
白銀の髪に不自然に生えた二房の髪。いや——
「ようこそ、白兎の湯へ」
——兎耳。
ニコリと微笑む兎耳の美女が其処にいた。




