AS 双剣使いタクの闘い 【Episode.1】 β島の闘い 四十三
第三位階上位
今、俺はユキと一緒に隣町の百貨店へ来ていた。
勿論、同行は俺の意思では無い。
途中恨みがましい目で俺を見るユリちゃんを家に送ってから来たので、結構な遠回りになっていた。
百貨店に来た目的は、主に調味料や消耗品の買い出しだ。
俺のやる事と言えば一つ。
荷物持ちである。
ユキの積載量は見た目相応より少し多いくらいで、端的に言って少ない。
そんな訳で、昔から荷物持ちと言えば俺の仕事だ。
ユキはスイスイとカートを押しながら、必要な物を揃えて行く。すると——
「む? 委員長?」
「ん? どれが?」
ユキの視線を追うと、其処には委員長こと神堂 慧理とその妹、神堂 恵がいた。
委員長は普段は眼鏡なのに、今はコンタクトでもしているのか眼鏡を掛けていなかった、そのせいか普段の垢抜けない感じが無くなっており、まったく気付けなかったな。
そんな委員長はユキの『委員長?』と言う言葉にビクッと反応し、まるで油の切れた機械仕掛けの様に此方へ振り返った。
恵ちゃんの方は普通に振り返り、ユキを見ると目を輝かせ、その後ろにいた俺を見るとビシッと硬直した。
恵ちゃんの反応にはちょっとした訳があるので仕方ないとして、委員長はどうしたんだろうか?
「やぁ、委員長」
「……はぁ〜、なんだ、鈴守さんと宮代君か、驚かさないでよぉ〜」
「なんだって事はないだろうよ……」
「あっ、ごめんね! そう言う事じゃないの……まぁ色々あるのよ」
そう言って、疲れた様に遠い目をする委員長。眼鏡かけてないのに影が出てるぞ。
ユキはそんな委員長を置いておいて、恵ちゃんへニコッと微笑んだ。
「メグミもこんにちは」
「は、はひっ、こここん、こんにちはっ!」
ユキに声をかけられると、恵ちゃんは顔を紅潮させて返答し、直ぐに委員長の陰に隠れてしまった。
位置的にユキからは見えないが、俺は恵ちゃんの口の動きを見逃さなかった。
声も無く呟かれたその言葉、『ユキ様』と言う一言を。
そう、何を隠そう神堂恵、ユキの隠れ崇拝者の一人だ。
「ああ、もう、この子ったら……ごめんね鈴守さん、宮代君っ……普段はこんなに人見知りする子じゃないんだけど……」
「うん? 別に気にしてないよ」
そう言ってユキは、委員長の陰からそっと此方を覗いている恵ちゃんにウインクをして見せた。
恵ちゃんはさっと委員長の後ろに隠れたが、俺の位置からは何をしているのか少し分かる。
真っ赤に染まった頰を両手で抑えてワナワナと震え、口パクで『ユキ様』を繰り返している。
そんな恵ちゃんと俺の関係は少々不穏なところがある。
と、言うのも簡単な話で、不慮の事故で俺は恵ちゃんの厨二病ノートとユキの隠し撮り写真の山を見てしまった。
そうとバレない様にさり気無く二つの落とし物は返還したのだが、何かを抜かったらしく、俺が恵ちゃんの秘密を知っている事を疑われている。
そんな訳で避けられつつも様子を伺われていると言う何とも言えない状況になっている。
それを委員長は何か勘違いをしている様だ。
「あー、そうだー、鈴守さん、ちょっと話しがあるんだけどー。あっ、宮代君とメグは四階のカフェで待っててねっ」
そう言うと委員長は恵ちゃんを俺の方へ押しやって、その代わりにユキの手を引っ張った。
「いや、ちょっと待——」
「あら? 宮代君……同年代の、乙女の話しに入りたいの?」
「いや、それこそ待——」
「い、い、か、ら、それじゃあ宮代君、メグ、後でねっ」
委員長はユキの手とカートを引っ張ると、早歩きで去っていった。
「うーん、まぁ委員長なら大丈夫か」
「え? 大丈夫って……え? ……も、勿論大丈夫! どんと来いよ!!」
……どうでもいいが、委員長って学校ではあえて野暮ったい格好をしてるんだな。普通に可愛いのに。
「……」
「……」
一時の沈黙が訪れ、チラリと横目で伺うと、委員長と何かを話しながら歩いて行くユキをじーっと見つめて頰を緩めている恵ちゃんがいた。
ユキが角を曲がって見えなくなると、さっきまでのニヤケ面が嘘の様に無表情へ変わる。
……厨二とかそう言う冗談抜きで闇を感じる。
目が合ったら怖いので、ユキを見送ったふりをした後さり気無く声をかける。
「……とりあえず上行こうか」
「……そうですねっ!」
顔を向けながらそう言うと、恵ちゃんが無表情のまま視線だけ此方に向けていると言う恐ろしい光景を見るはめになった。
その一瞬後には委員長みたいな社交性でニコッと微笑んで答えてくれたが……やっぱり闇を抱えてるんだろうな……。
移動しつつ思考を巡らす。
委員長とは中学からの付き合いだ。
一応委員長は割と文武両道、委員会はしっかり務めるし部活の調理部も手を抜かない。
誰にでも気遣いが出来て、あのユキのせいでちょっと狂ってるクラスの手綱をある程度握れる猛者でもある。
対して恵ちゃんは、文も武も才能はあるが委員長に今一歩及ばない。
委員長にはなったが部活動はやっていない様だ。
優秀な姉にコンプレックスを抱く事もあるだろう。
……まぁ、鈴守家はリナさんと言いアヤちゃんと言い、一度もそんな感情を抱いた事はない様だが。
そんな事を考えながらエスカレーターを上がって行くと、目の前を見覚えのあるツーテールが通り過ぎた。
それはつい先日、嫌がらせにあっていた。
「ああ、おい」
「?」
名前何だっけ。
そう思いながら声をかけると、そいつは訝しげに振り向いた。
ああ、そうだ——
「——雨谷 光咲」
「っ!? み、宮代拓哉……!? な、なななんでっ!?」
「?」
何故か頰を染めて慌てだした雨谷。
此処であったのも何かの縁、折角だから誘って見るか。
「なぁ、ちょっと付き合わないか?」
「……え? ……えぇっ!!?」
◇
真っ赤な顔でコクコクと首を縦に振った雨谷を連れて四階に向かい、カフェテリアに入る。
幸いな事に休日だと言うのに客が少なく、後から人が来る旨を伝えて広い席を確保した。
「——と、言う事です」
「……ど、どうせそんなこったろうと思ってたわよ……」
「どうしたんだ?」
何やら二人でコソコソと話しをしていた様で、雨谷が少し落ち込んでいる様子だったから少し心配になって声をかけた。
だが……恵ちゃんからは『馬に蹴られて死んでください』と微笑まれ、雨谷からはふんっと視線を逸らされた。
……俺、なんかしたか?




