AS 双剣使いタクの闘い 【Episode.1】 β島の闘い 四十二
第三位階上位
「ぁ……?」
ふと、眼が覚めるとベットの上だった。
傍にあるデジタル時計に視線を向けると……書き置きがあった。
「……はぁ」
『疲れてるね』と書かれたそれを剥がして時間を確認すると、時刻は深夜を廻っていた。
「はぁ……」
どう頭を働かせても風呂から上がった記憶が無い。
それは詰まる所……。
「……忘れよう」
ベット脇に置いてあったヘッドギアを被り、横になった。
◇
砂浜に戻ると、其処はあの戦いが嘘だったかの様に元通りになっていた。
蟹の攻撃や石系アイテムで陥没した地面も無ければ打たれた乱杭や逆茂木も無い。
蟹の死骸も転がっておらず、プレイヤー達が捨てた壊れた武器も無くなっていた。
「モンスターも出なくなるのか……まぁ、あれだけ倒せばいなくもなるか」
月が照らす動く物の無い砂浜に背を向け、森へと進んで行く。
南の森に居るのはウサギだ。
悪いな、ウサギ。
ばっと草陰から飛び出して来たそれを叩き付ける様に切り捨てる。
屠った兎は直ぐに解体し、でたアイテムはそのまま剣で触れて回収した。
更に続けて、野原を行く2頭の兎へ襲い掛かる。
一撃で1体の首を刎ね、直ぐに突撃し始めた2体目を踏み付けて止め、刃を突き込んで仕留めた。
特に理由もなくウサギを乱獲する。
次また次へ、右から、左から。野原から、草むらから、木陰から、四方八方から襲いくるウサギを、その群れを、全て一刀の元切り捨てる。
それは意味の無い虐殺であった。
「お! こ! せ! よっ!!」
勿論この叫びにも特に意味は無い。
強いて言うなら俺にも羞恥心くらいはあると言う事だ。
日が昇るまで剣を振るう。
そんな決意のままに当てもなく森を彷徨っていると、ふと、遠くに光が見えて来た。
とはいえ朝日が出るにはまだ早い、どうせ行く当ても無いのだから少し見に行ってみよう。
時折襲い掛かってくるウサギやコウモリを切り払い、素材を回収しつつ進んで行き、光の源へと辿り着いた。
其処にあったものは、篝火。
夜の闇を払い除ける四つの光は轟々と真っ赤に燃え盛り、その篝火に四方を囲まれた台座の様な物があった。
台座には火を象ったと思わしき装飾が施されている。
「ああ、火の迷宮か」
とりあえず地図を開いて場所を把握し、その場を後にした。
一人で攻略できる所じゃ無いからな。
◇
狩りは結局明け方になるまで続けた。
街に戻ってからログアウトし、リビングに降りると、案の定ユキが朝食を作っていた。
「やぁ、タク、昨日は良く眠れたかな?」
「……」
無言で席に着く。
別に怒っている訳じゃない。ただ少し複雑な感情が言葉を遮って声を掛けるタイミングを逸しただけだ。
俺は無言のままテレビのリモコンに手を伸ばすと、適当にザッピングしてニュース番組を視聴する事にした。
頬杖をつきながらニュースを聞き流していると、背後から何かに抱き着かれた。
「……なんだよ」
「……」
なんだよじゃねぇだろ、俺。
そもそも、ユキに対して変に意地を張っても無意味だ。
今回の事は俺が眠っちまったのが悪い、ユキには感謝こそすれ怒るのは筋違いだ。
それくらいは分かっているが、俺にもプライドはある。
「タクは変わらないね」
「……変わってないのはユキの方だろ」
「ふふ、それもそうだねぇ」
今やってる事は要するに甘えだ。
俺が無意味に文句を言って、ユキは当然の様にそれを受け止める。
穏やかに微笑む親友は昔から何も変わっていない、見た目も、その在り方も。
「はぁ……ほんと、腹立つ」
「ははっ、冷めないうちに食べなよ?」
「ちっ…………悪い」
明後日の方向を見ながら囁く様に呟いたその言葉、聞こえたか聞こえていないかなんて確認するまでもない。
どうせ聞こえている。
抱き付いている親友を押し退け、声をかけ——
「鬱陶し……?」
「ん?」
——ようとしてふと、違和感を感じた。
今日も今日とて女装しているユキ。
密着されるのが何時以来かは覚えていないが、その体が異様に柔らかかった様な気がして。
「お前……ちょっと太った?」
「失敬な」
「ぐえっ」
ちょっ、そこ、頸動脈…………。




