AS 双剣使いタクの闘い 【Episode.1】 β島の闘い 四十
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第三位階上位
最初のメッセージにあった情報から考えると、こいつがクイーンクラブだろう。
だとするならば、襲撃は最低でも後一回はある。
切り札を切るのならその最後の戦いで切るべきだ。
六度目の襲撃が最後じゃない時は、もうどうしようも無い。
俺がそう思考している間にも、赤い騎士は超巨大蟹へ向かって行き、他のゴーレム達は巨大蟹の殲滅をしている。
さっさと巨大蟹を殲滅すれば、残りの戦力を丸々超巨大蟹の一派へぶつける事が出来る。
幸いな事に赤い騎士はまだ大きなダメージを負っていない、悪いがもうしばらくは持ち堪えてくれ。
「コウキ、アラン、行くぞっ!」
「分かったっ! 全員、ゴーレムに続け!」
「おうよ、さっさと殲滅しねぇとな」
声をかけ、ゴーレムと共に巨大蟹の殲滅に取り掛かった。
「……男に声をかけるなら何故に拙者は声を掛けられなかったのでござろうか?」
「忍者だから気配的に忘れたんじゃにゃいかにゃ?」
「おお、そうでござったか、拙者も忍者が板について来たでござるな」
いや、すまん、忘れてた訳じゃ無いんだがな……。
◇
巨大蟹の殲滅はゴーレムとの共闘で素早く終わった。
どうやら後方の防衛地点まで何匹か進んでいたらしく、プレイヤー達と石製ゴーレムが協力してそれを討伐した様だ。
しかし、一部のプレイヤーがそのまま前線まで進み、それにつられた数十名のプレイヤーと共に狩られてしまったらしい。
更に、最後の大詰めでプレイヤー集団が前線まで来てしまい、気付いた時には既にかなりの被害が出ていた。
武器の都合上殆どダメージが通らないので、ほぼ無駄死にと言って差し支えない。
勿論、ほぼ無駄死にとはいえ戦果がゼロというわけでは無い。
追い返す事も出来ないので、クイーンクラブ戦に参加させるしか無くなっていた。
作戦案としてはこうだ。
先ず、騎士型ゴーレムが巨大蟹を受け持ち、プレイヤー集団がそれを援護する。
次に、取り巻きのいなくなったクイーンを赤い騎士と共にコウキのパーティーと俺らのパーティーで討伐する。
既に巨大蟹相手に苦戦しているプレイヤー達からは何の反論も無く、むしろ『頑張ってください!』や『応援してます!』など、好感触の反応が返って来た。
後ろから刺される様な心配は無さそうだ。
既にやる事は決まった。
後は実行するだけ。
「全員、攻撃開始っ!」
コウキの声が響き渡り、戦闘は始まった。
◇
遠距離攻撃を主体とするプレイヤーは、アマネさんを除いて既に遠距離攻撃の手段を失っている。
簡潔に言って金欠だ。
少数の弓持ちは矢が買えず、魔法使いはMPポーションが買えず。
此処に至ってサブウェポンの剣や初期配布のナイフを使って戦うしか無くなっていた。
先ず最初にゴーレム達が切り込み、巨大蟹を超巨大蟹から引き剥がした。
後はプレイヤー達が何もしなくても討伐はなされるだろう。
今回の場合プレイヤー達の役割はゴーレムを守る為の盾だ。
ゴーレムの生存こそが最終的な勝利に繋がる。
「行くぞっ!」
コウキの合図と共に、戦場にあいた隙間を一息に駆け抜け、超巨大蟹の足元へ迫る。
改めて見上げたその威容は——
「——でか過ぎだろ……」
体高は少なくとも10メートルを超えている。
胴体には手を伸ばせば届くが、セナみたいに小さい奴はジャンプしなければ届かない。
「らっ!! っ、硬ぇな!」
「むむ? ふむ、どうやら赤くなっている所は刃が通る様でござる!」
「狙うならそこをって事ですねっ」
アランが足に切り込むも少し食い込んだだけで止まったのに対し、佐助が赤くなっている甲殻へ短刀を突き立てると、すんなりと、とは行かないまでも深く突き刺さった。
佐助は短刀を引き抜きつつその事を大声で伝え、ミヨが返答と共に魔法の詠唱を始めた。
超巨大蟹はそんな俺らに見向きもせず双大剣を持つ赤い騎士へ鋏を振り下ろし続けている。
時折吹き上がる爆炎が鋏を僅かに赤くするが、再生能力が高いからかそれもすぐに元の色に戻ってしまう。
身体中にある赤い部分も時間経過で元に戻ってしまうだろう。
その前に甲殻を砕かなければいけない。
「やっぱり目が弱点よね」
遠くからそんな声が聞こえ、途端に蟹が暴れ始めた。
アマネさんがまた蟹の目を射抜いたんだろう。
桐生の弓術がどんな物か詳しくは知らないが、蟹の形状と砂浜の平面的立地から、とてもじゃないが目玉を射る事が出来る様には見えなかった。
おそらく曲射だ。そもそも矢が鉄製なんだから弓自体がかなりの強弓だろうに……よくまぁこれだけ正確に射れるもんだな。
アマネさんは続け様に矢を放ち、甲殻が弱体化している部分を次々と射抜いて行く。
俺も弓が使えれば。
そう思いはすれど、やはり人には向き不向きがある。
剣を振るって蟹の足へ傷を刻み、少しずつダメージを与えていくしか無い。
◇
どれ程の時間が経ったのか。
一心不乱に蟹を攻撃し続けていると、どうやら巨大蟹の掃討が終わったらしく、騎士型ゴーレムやプレイヤー達が参戦してきた。
赤い騎士と超巨大蟹は力量が互角らしく、お互いに全霊で攻撃しあっているので周囲に攻撃をする余裕が無い。
プレイヤーやゴーレムが参戦し、傷だらけになっていた脚は更にボロボロになっていく。
そして——
「っ!!」
——バキャッッ!!!
響いたのは破砕音。
全力の迅斬術で突き込んだ刀の一撃が、遂に蟹の脚甲を破壊した。
似た様な音があちこちで響き渡り、蟹の脚が全て砕かれた。
生身が露出している蟹の脚目掛けプレイヤーが殺到し、ダメージを与えていく。
蟹は怒り狂った様に暴れ回り数十人のプレイヤーが蹴り飛ばされるが、目も見えず、満足に動くことすら出来ない蟹の命は風前の灯火。
じっと剣を構え、怒り狂う超巨大蟹を見ていた赤い騎士は、輝き始めた赤の大剣を大きく振りかぶり——
——振り下ろした。
ーーーーォォォッ‼︎‼︎‼︎
轟く爆発音。視界を塞ぐ閃光。爆風。
視界が開け、見えてきた物は赤い騎士が放った致命の一撃を受けて頭部を吹き飛ばされた蟹が崩れ落ちる所だった。
「おっと、やべぇな」
ふと、正気に戻った俺は、此処にいたら潰されると気付き、離脱を始めた。
俺はさっさと逃げ出そうとしたが、多くのプレイヤーは何故か呆然と上を見上げている。
おそらく、あまりに現実感の無い光景に理解が及ばないのだろう。
「撤退! 撤退だっ!! 潰されるぞっ!!」
コウキの声が聞こえ、一拍後、悲鳴が響き渡った。
『やべっ!』『逃げろっ!』そんな声が聞こえ、慌てて走り始めたプレイヤー達。
中には腰が抜けたのかペタンと座り込んで蟹を見上げているプレイヤーもおり、それや足の遅い奴を騎士型ゴーレムが回収して離脱していく。
俺も逃げる道中に助けられるプレイヤーを拾い上げていく。
『あ……あああ……!』と怯えた様な顔で上を見上げる女子二人を片手で担ぎ、『ひっ! だ、誰かっ!』と叫んで這いずっていた男子をもう片方で担ぐ。
危険域を走り抜け、その三人諸共地面にダイブして、ギリギリで潰されずに済んだ。
「はぁはぁ……最後まで面倒な……」
何人かのプレイヤーは巻き込まれただろうが、これで五度目の襲撃は勝利だ。
……六度目は今助けたこいつらも死ぬんだろうな。
そう思いつつ、迫り上がり始めた海を見つめ、立ち上がった。
休む暇もねぇのな。




