AS 双剣使いタクの闘い 【Episode.1】 β島の闘い 十七
第三位階中位
唐突に開けた視界。
写り込んだのは広大な闘技場の様なステージだ。
ステージの上をうろつくのは緑色の風を纏った一匹の大虎。
高い所から見下ろす形になっているので正確な大きさは分からないが、その体格は上で見た虎の2倍近い。
「あ、あれと戦うのか……」
「……いや、無理だろ」
「ふわー、おっきいですね!」
「大きいだけでは無い様ですね……」
大きさから見て少なくとも1パーティーで対処出来るレベルでは無い。
「レイドボス……だな」
「だろうな」
「れいどボスですか?」
「れいどぼすですかー?」
アランに説明は任せて、改めて敵を良く観察する。
先ず腕、大きさは小さな人間くらい。そんな物を軽々と振るわれたらどう考えても一人で防ぎきれる筈が無い。
爪は非常に鋭く、長さもかなりある。蟹の甲殻を使った鎧でも切り裂かれるかもしれない。
頭の位置は地面との距離から考えて、俺の肩くらいだろう。
立ち上がればその三倍近くになる。
ある意味狙い易いとも言えるが、風の砲弾を放ってくる攻撃を防ぐには常に片手をフリーにしておく必要がありそうだ。
口元から覗く牙も太くて鋭い、噛み付かれたら一瞬で千切られる事だろう。
続いて尾。
体格が大きければ長さもかなりの物があり、太さは俺の胴の半ぶ……ユキの胴くらいはある。
ウィンドタイガーは尾を使って礫を弾いて来たが、この虎なら尾を振るうだけで十分なダメージを与える事が出来るだろうな。
最後に毛皮。
ウィンドタイガーの時は剣で切りつけても殆どダメージは無かった。
これはその上位互換なんだからより強くなっているんだろう。つまり刺突でしかダメージは期待出来ない。
ダメージディーラーはユリちゃんとセナになりそうだな。
そう考察している内に昇降機が地面に近付いて来た。
そろそろ戦闘開始だ。
剣に手を添え、此方を見て唸り声を上げる虎を見据える。
戦闘開始はおそらく昇降機が地面についたらだろ——
「それじゃあ行きましょう!」
そう言って、セナは地面まで後僅かになった昇降機の上から飛び降りた。
刹那——
——弾かれた様に虎が飛び掛かる。
「下がれっ! ……は?」
「っ!? セナっ!…………は?」
「わきゃ!? …………パ、パントマイムですかっ!?」
飛び掛かって来た虎は慣性に従いセナに襲い掛かって来る筈が、空中で停止した。
ビタンッ! とまるでコントの様に、見えない壁に阻まれたのだ。
っつか、パントマイムって……どう見ても違うだろ。
「…………エレベーターがまだ地面について無いからで——え?」
ユリちゃんが考察を述べ、確かにそうかと思い気を引き締め直した所で昇降機は地面に到達した。
——そして更に下がり始めた。
「は?」
「あ、あれ?」
「はへー……あれがパントマイムですかー」
「はぁ? ……って、セナ! 戻れ!」
「ふぇ? って!? 何でみんな下に行ってるんですか!?」
こっちが聞きてぇよ!
昇降機が地面から膝下まで下がった所で、セナは慌てて昇降機の上に戻って来た。
昇降機は止まる様子を見せず、視界から外れ出した虎は見えない壁を叩きまくっている。
訳が分からん。
「みんな置いてくなんて酷いですよー!」
「……」
「……」
「……」
「あれ? どうしたんですか? あれ? 虎さんは? れいどぼすは?」
セナが首を傾げる姿を見ながら、全員が黙りこくっていた。
◇
昇降機が下がり続ける中、全員《セナ除く》で考察をした所、先に怒涛の勢いで流れたメッセージに答えがあった事が分かった。
結論から言うと、今見えた大虎はゲイルタイガーだろう。
おそらく『??の仮試練』とは迷宮最初の踏破者、『選別の試練:風の迷宮を踏破せよ』を踏破した者にのみ発生するユニーククエストなのかもしれない。
つまり、この昇降機が降り切った場所にこそ真のボス。
テンペストタイガーの幻影がいると言う事だ。
「つまりあれ以上の化け物が下にいると言う事になる……」
「だろうなぁ……」
「あれ以上ですか……」
「ほへー、そんなに大きな虎がいるんですねぇ……」
はっきり言って勝てる気はしない。
だが、やれる所までやるしかない。
戦闘準備は既に終えている。後は敵がいる場所に辿り着くのを待つだけだ。
暫くの静かな時間が流れ、またもや唐突に視界が開けた。
見えて来たのは果たして、上にあった闘技場と同じものだった。
明るく照らされた闘技場、其処にいたテンペストタイガーは——
「——嘘……だろ……?」
「……まじかよ」
「はぅあ!!? な、なんですかあれ!?」
「……人が勝てる相手ではなさそうですね」
視界に映ったのは巨大な虎。
闘技場内部に満ちる威圧感はおそらく気配と言う物だろう。
このゲームを始めた時に会った白髪の幼女に感じた物に近い。
その虎の大きさたるや、広大な闘技場の四分の一を埋めている。
手足は人を容易く潰せる程に巨大。
鋭い爪や牙は金属光沢があり、明かりを反射してギラリと光っている。
巨大虎は此方に気付いている様だが、上の大虎の様に歩き回ったりはせずどっしりと構えている。
その様はまるで王者の様だ。
昇降機は今度こそ戦場に合わさる様に停止した。
巨大虎はそれを見届けてからのっそりと上体を起こし、そして——
——GRUuAAAaaaaaa‼︎‼︎
開戦の号砲は放たれた。




