AS 双剣使いタクの闘い 【Episode.1】 β島の闘い 十四
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第三位階中位
風の砲弾が放たれようとした正にその瞬間。
狙い澄ましたかの様に……いや、実際に狙い澄ましていたのだろう。
虎の大きく開かれた顎門にナイフが飛び込んで行った。
それと同時に俺の背中に何かが直撃し、パリンとガラスが割れる音が鳴る。
背中が濡れてHPバーが三割程回復したので、おそらくポーションだろう。
……飲まなくて良いなんて聞いてない。
何かが爆発する様な音を聞きつつ、ちょうど手の届く位置にあった枝に片手で捕まり、遠心力で半回転し戦場側へと飛び降りる。
即座に最後の下級ポーションを取り出し飲み干すと虎の方へと走って行った。
◇
戦場に戻ってくると、ユリちゃんは虎と正面から戦っていた。
虎は顔の下半分、顎の部分から夥しい程の血を流しており、良く見ると下顎が無くなっている。
流石にユリちゃんがやった訳では無いだろう。
風の砲弾のエネルギーが破裂したのか?
どちらにせよ、そのおかげでユリちゃんは今、満身創痍で済んでいる。
全身ズタボロになりながらも門に背を預け虎が此方に背を向ける形に持ち込んでいるのは、驚嘆に値する程の胆力だ。
その信頼には応えなければならない。
何処を狙うか、致命打になりそうな部位は何処か。
普通に考えるなら尻の穴だ。
硬い毛が無いそこを貫けば、重要器官も同時に幾らか傷付け、死は確実な物となるだろう。
しかし、死ぬのは貫いた瞬間では無い。
抵抗にあってやられては元も子もないからな。
じゃあ何処を狙うべきか。
「……後ろ足だな」
機動力を奪い確実にトドメを刺す。
忍び足で虎に近付き、剣を高く振り上げ、左後ろ足目掛け突き込んだ。
「ガアァァァッ!!?」
悲鳴を上げて此方へ振り向こうとした虎の左前足へ、ユリちゃんの槍が突き立てられ、虎を地面に縫い付ける。
俺は剣を引き抜くと、虎の尾が鞭の様にしなって襲い掛かってくるのを無視し、右後ろ足に突き立てた。
「ガッアァァァッ!!」
「鬱陶しい!」
即座に剣を引き抜くと、切り上げで尾を根元から切断。此方へ伸ばされている右前足に剣を突き立て、体重を掛けて地面へ縫い付ける。
「ユリちゃん!」
「分かってます!」
俺が声を掛けるまでも無く、ユリちゃんはトドメの一撃を加えるべく腰に添えられているナイフを振り上げていた。
そのナイフは虎の頭部へ迫り、突き立て——
「——グルオォォォォォッ!!!!」
——咆哮。
轟く雄叫びと同時に虎の周りから爆風が発生し、トドメの一撃が僅かに逸れて虎の左目に突き刺さった。
そのまま、虎は地面に縫い付けられた両前足を起点に胴体の力だけで体を跳ね上げ、突然の爆音にびくりと体を竦ませたユリちゃんを背中で押し潰す様に回転した。
「左へ転がれっ!」
俺は咄嗟にそう声を掛け、迅斬術を使った最速の蹴りを虎の腹へ叩き込んだ。
流石に勢いが足りないので300キロ近い重量物を弾く事は出来ないが、俺の足の骨がボキボキと嫌な音を立て、虎が僅かに、俺から見て左側へ、ユリちゃんから見て右側へと傾いて行く。
ユリちゃんは地面に飛び込む様に虎を回避し、虎は血を吐きだしながらユリちゃんの足を掠め——地面に激突した。
ドンッと言う大きな衝突音が鳴り、土煙が上がる。
目の前には、
尾を切られ、
両後ろ足の腱を切断され、
両前足が無残に引き裂かれ、
顎が無くなった大きな虎の姿が。
地面との激突で更に吐血するその虎の頭へ、迅斬術を使って拳を振り下ろした。
《レベルが上がりました》
「…………」
「…………」
沈黙。
その一瞬後、俺は地面に倒れ込んだ。
ユリちゃんは、地面に飛び込みつつも此方へ振り返っていた様で、即座に立ち上がれる様な体制から蕩ける様に地面に倒れ込んだ。
「…………死ぬかと思ったわ」
「……私もです…………」
◇
貴重な中級ポーションを使って砕けた足を回復し、ナイフを二本共回収。
虎を解体して出たアイテムは、風精石、レッサーウィンドタイガーの毛皮、レッサーウィンドタイガーの魔石。
「さて、行こうか」
「はい」
この階層でやる事は終えたので、緑色の金属で出来た扉に触れる。
扉は、前の扉と同じ様に重い音を立て自動で開いた。
◇
「……森ですね」
「……森だな」
四層は森だった。
三層とは違って本当に広い森だ。
今いる場所はその森が見渡せる高台の上。
此処から真っ直ぐ行けば次の扉がある様だが……。
「ユリちゃん、時間は大丈夫か?」
「そうですね……此処を攻略するには少々足りないかと」
「となると……昼飯休憩だな」
「タクさんがそれで良いならそうしましょう」
この先二人でも厳しいだろうに一人で進める道理は無い。
合理的に考えてそうすべきだろう。
「それじゃあ休憩って事で……さて、昼飯は何かなーと」
「……昼餉はタクさんのお母様が作っているのですか?」
「ん? あぁ、普段はな」
ユリちゃんの家では殆どお手伝いさんが作ってるんだよな。女中とか……俺には分からん世界だな。
「普段は?」
「今は両親が長期の旅行に行っててな」
「そうなのですか、仲の良い御両親なのですね」
「……まぁな」
……ユリちゃんの家は父親が毎日忙しくしているし、母親は親と言うより師の様な物だったらしいな。
「と言う事は料理はタクさんがお作りになられているのでしょうか?」
「いや、休み中はユキが——」
「——は?」
……え?
唐突にユリちゃんから聞こえた低い声。
……何? 怖いんだけど。
「ユキさんが、タクさんの、料理を、作っているんですか?」
「あ、あぁ、休み中はユキが来て掃除とか色々——」
「——そん、な……ユキさんがタクさんの世話を……? 小間使いの様に? 朝から晩まで?」
朝から晩までは間違って無いが……。
「いや、朝から晩までは間違って無いが、小間使いって……確かに報酬は出て——」
「——お金ですか!? お金を積めばユキさんを自由に出来るんですね!?」
「いや、流石に自由には——」
「——ふ、ふふ、ふふふ、朝から晩までユキさんを……ふへ、ふへへ」
「…………」
……ダメだこりゃ。話題に出したのが間違いだったか。




