AS 双剣使いタクの闘い 【Episode.1】 β島の闘い 十
第三位階中位
西の森に入って早々、モンスターに遭遇した。
歩く植物だ。正確には歩く苗木。
頭上には鮮やかな緑の葉が生い茂り、頭とも胴体とも思える部分にはつぶらな瞳の様な物が付いている。
そしてその下には、胴体と比べると黒っぽい根っ子らしき物が付いていた。
形状は足とは言い辛いが、それを使って歩いているので一応足だ。
移動速度は遅い。
トテトテと歩く様は中々に可愛らしいところだが、此方に向かって来ている時点で御察し物だ。
事前情報によると主な攻撃手段は体当たり、飛び上がる際の瞬発力は眼を見張る程、重さは見た目の通りそこそこ重い。
大体は群れで行動しているらしいんだが、今回は一匹だけみたいだ。
剣を抜き、体当たりに備える。
苗木はゆっくりと歩み寄り、次の瞬間——
「っ!?」
——何の予備動作も無く飛んで来た。
咄嗟に剣で斬り付け…………止まった。
「……いや、おい…………いや、複数だとやばいのか」
剣に串刺しにされた形になる苗木は、足をパタパタと動かし脱出しようとするもまるで無意味、簡単には抜けない程度には深く入っている。
この剣でこれだ、木剣で受けるとへし折れるだろうな。
「……先に仕掛けて来たのはそっちだからな」
そう声を掛けてしまったのは、余りに哀れだったからだろう。
剣を木に向けて振り下ろす。
剣は頭部から胴体まで入り、苗木は足をより一層ジタバタと動かし藻掻き苦しむ。
「……」
最後にもう一度剣を振り下ろし、苗木のモンスターを真っ二つに切り裂いた。
ここで重要なのは、苗木のモンスターが体を半ばまで裂かれても生存している事だろうな。
大した生命力の強さだ。
早速解体してみる。
ドロップしたアイテムは、レッサーシードリングの若葉、レッサーシードリングの木片。
木片は量を集めれば木剣が作れそうだ。葉っぱの方はゲーム風に考えるなら薬の材料だな。
森の中を進んで行くと、苗木以外のモンスターにも何度か遭遇した。
大きな木ノ実の様な見た目で尖った部分から芽が出ているモンスターは、コロコロと転がりながら進み、先端から丸い粒を飛ばしてくる。当たったら地味に痛い。
踏みつけて向きを固定すれば反撃出来ない様だが、面倒な事にこいつも苗木のモンスターと同じで群れている。
一撃一撃は少し強めのBB弾を当てられている様な物でHPの減少スピードもほんの僅かずつだが、連中の狙いが良くない。
木ノ実の魔物の狙いは主に顔、それも目玉、口、鼻だ。兎鎧では顔面はガード出来ないので少々面倒だった。
ドロップアイテムは、レッサービックシードの種、レッサービックシードの身、レッサービックシードの若芽、レッサービックシードの殻、レッサービックシードの魔石。
タコの様な見た目のコブがある茨のモンスターは、樹上や草叢の下に潜み、気付いた時には体に巻き付いている。
そのまま強く締め上げられ、棘が皮膚を破って突き刺さるが何故か痛みも薄く血が出ない。
良く良くみると血を吸っている様だった。
茨の切断自体は簡単だが再生速度が早く、切れた茨も暫くはうねうねと動いて襲い掛かってくる。
本体と思わしきコブを切り裂いても死なず、再生しようとしていたのには驚いた。
ドロップアイテムは、レッサーバインドソーンの茨、レッサーバインドソーンの麻痺毒袋、レッサーバインドソーンの瘤状茎、レッサーバインドソーンの魔石。
まぁまぁの戦果だ。
そんなこんなで真っ暗になった森を抜け、月明かりが照らす広大な農地が見えて来た。
所々に大きな建物があり、その合間を武装した石像が歩いている。
情報によると石像は敵ではない。
農場に発生するモンスターを駆除しているらしいと聞いたが、あの手強いモンスター達を一撃で屠っている様は圧巻だ。
此処に来た目的はズバリ……お金稼ぎ。
なんでも、植物系のモンスターの魔石を、野菜や果物を売っている場所に持って行くと、高く買い取って貰えるらしい。
簡易の武器屋と防具屋、薬屋があるので、暫くはこのエリアを中心に活動しよう。
◇
「日の出か……」
深夜中はずっとプレイヤーのいない農場深部をうろついていた。
農場深部では先の三匹に加え、レッサーポイズンフラワーと言う名前の大きな花のモンスター。
レッサーハニービーと言う大きな蜂型のモンスター。
レッサーヒュプノバタフライと言う大きな蝶のモンスター。
特に危険なのは蜂のモンスターで、群れで行動する上に空から針を飛ばしてくる。
赤い色の金属の騎士像が手助けしてくれなかったら危ないところだった。
「……えーと……サンキュー、助かったわ」
農場入り口まで戻った時、そう声を掛けると夜明けまでずっと付き合ってくれていた赤い像はグッとサムズアップして来た。
気の良い奴だな。
俺も同じく親指を立てると、肩のあたりをバンバンと叩いて去って行った。……痛てぇ。
ドロップしたアイテムは、レッサーポイズンフラワーの毒花粉、レッサーポイズンフラワーの花弁、レッサーポイズンフラワーの蜜、レッサーポイズンフラワーの魔石。
レッサーハニービーの針、レッサーハニービーの甲殻、レッサーハニービーの翅、レッサーハニービーの蜂蜜、花粉団子、レッサーハニービーの魔石。
レッサーヒュプノバタフライの眠鱗粉、レッサーヒュプノバタフライの催眠翅、レッサーヒュプノバタフライの鋭口吻、レッサーヒュプノバタフライの魔石。
各々の戦い方と倒され方は、ポイズンフラワーは毒花粉を吐くが赤い像の炎を纏う槍で焼き殺され、蜂は空から針を降らせてくるが赤い像の炎そのものの槍を飛ばす魔法で全て撃ち落とされ、蝶は翅と鱗粉で眠りを誘うが赤い像の槍で焼き殺された。
……俺は殆ど何もしてないんだが今夜中に二つもレベルが上がってしまった。
「……うし、朝飯食うか」
換金はその後で良いだろう。
◇
農場の直売所、レストランが併設されたそこの前でログアウトしリビングに向かった。
今はまだ朝早い時間だと言うのにユキは既に来て家事をしており、朝飯まではまだ時間があるので軽く運動をして過ごした。
朝飯が出来る頃には戦闘疲れも治り、徹夜の疲れはあるが良い感じに仕上がっていた。
「……タク、何かあったのかい?」
「ん? ……特には無いが?」
ユキの作った飯を食いつつ、唐突に問い掛けて来たユキにそう返す。
一応、最初にあった注意を遵守してユキにはゲームの事を話さない。
「そうかい、何でも無いなら良いんだ……ただ少し、違和感を感じただけだから」
「……そうか」
ユキが違和感を感じた。
それなら間違い無く何かが違うんだろう。
大方、初めて本気で殺し合ったのが影響しているんだろうが、やっぱり全力で戦ってみると自分の問題点や欠点が良く分かるもんだ。
美味い朝飯を食い終え、自分の事だけの雑事を済ませると早速ログインだ。




