第21話 海魔の乱 四 魔粘体の猛牙
第五位階下位
取り敢えず、外壁に接触している凍り付いた矢を念力と念動を使って回収した。
このまま落下すると無駄に被害が出るので距離を考えずに回収したが、やはりこう言ったスキルは距離が離れる毎に魔力消費量が増える。
残りの魔石はまだ合成も上位変換もしていないクズ魔石だけ、非常に心許ない。
クズ魔石から魔力を吸収しつつ白雪を抱え直す。
大技を放った白雪は、今や2〜3歳くらいの幼子に姿を変えていた。大凡元の三分の一くらいだろう。
文字通り、身を削る程の強力な魔法を行使したからか今は気を失っている。
ミニ白雪をサンディアに預け、サンディアはウルルに騎乗させた。
僕はネロに乗る。ウルルなら騎乗させるのは慣れているので二人を落とす様な事は無いだろう。
逃亡の準備を終え、此方をじっと見ている大海魔へ二つ目の切り札を切る。
幸いな事にあのレベルの魔法は連発出来ない様なので、二度目が来ない内に仕留めなければならない。
魔典を手に持ち、とある魔物を召喚する。
正八面体の結晶を持つ、その魔物を——
「『召喚ギガント・スライムズ』」
巨大イカの上空に現れたのは巨大イカに匹敵する程に大きな楕円形の水の塊。
その塊の中には白く濁った正八面体の結晶があり、それがスライムの一種である事を証明している。
巨大スライムは、弱点である核を天辺に掲げて大海魔を包み込んだ。
轟音が鳴り響き、泥が跳ね上がる。
残念ながら戦いの趨勢を見届けている暇はない、急いで東外壁の上に戻らなければ。
◇
体格の大きい子達は大海魔の近くに控えさせ、比較的小さく身軽な子達だけで街の中を駆ける。
王都の南東側は半ばスラム街と化していて元々人通りは少ないのだが、今夜は周囲のボロボロの家屋から人の気配がしない。
狼耳を生やして確認すると、どうやら王都の西側に避難している様だ。
王都東に住む人々の殆どが、兵士に避難誘導されて西側の商店区に移動したらしい。
おそらく西側からだと大海魔の威容が良く見えるのでは無いだろうか?
……仮に大海魔に東外壁を破られたとして、奴の目的が分からない以上もっと遠くへ逃げた方が良いと思う。
戦ってみた感覚からして、人間を殺すのが目的と言う訳ではなさそうだが……。
まぁ結局の所、勝てば良い。
「ネロ、ウルル、急ぐよ」
二匹にそう声を掛け、雨降る無人の街を駆け抜けた。
◇
東外壁に辿り着くと、巨大な魔物同士の戦いは激しさを増していた。
兵士やプレイヤー達はひたすらに攻撃を続けているが、残弾がそろそろ少なくなってきている。
補充の当ては無いので撃ち切ったらそれまで、最後はプレイヤーだけで白兵戦になる事だろう。
頼みの綱はレイーニャの儀式魔法と巨大スライム君、勝とうと負けようと終盤戦だ。
大海魔の全身を包み込もうと動くスライムに、それから逃れようとする大海魔。
大海魔が触腕を振り回せば、スライムは体を飛び散らせその体積を減らしていく。
スライムは魔法が当たれば乱された魔力の分だけ体を崩してしまう。しかし、時折飛ぶ水の槍は、僕等へ攻撃していた時よりも威力が下がっている。
強力な魔法を行使した直後だからだろう。
タイミングが良かった。
しかし、所詮はスライムの巨大版、粘度も低ければ酸属性魔力の質も低い。
巨大スライムは徐々に体積を減らしている。
だが、全身を使って溶かしにかかる事で、見た目こそ特に変化は無いが着実に大海魔の魔力を削っていた。
既にスライムが味方である事は伝令されているので、其処彼処からスライムを応援する声が聞こえる。
溶かそうとする者。
溶かされまいとする者。
両者の戦いは激しさを増し、そして遂に——
——スライムの核に大海魔の触腕が巻き付いた。
「あ、あぁ……!」
「そんな……!」
絶望の声が聞こえる。
大海魔は核を強く締め上げ…………砕いた……。
粉々に砕かれた核は白い泡の様にスライムの中に飛び散り、次の瞬間、巨大スライム君は崩れ落ちた。
巨大魔物同士の戦いに勝利した大海魔は、その身にスライムの体液を付着させたまま外壁に向き直り、進軍を再開する。
しかし、大海魔は僅かに進んだ所で再度動きを止めた。
慌てた様に触腕を振り回し、全身にこびり付くスライムの体液を振り払う。
「な、なんだ?」
「どうしたんだ……?」
この暗闇では、大海魔の動きは見えてもバラバラになった巨大スライムの体液がどうなっているのかは見えないだろう。
スライムの飛び散った体液が、其々に動き出している事に気付いた人は何人いるだろうか?
大海魔の次の敵は、巨大スライム君から分かたれたスライムの大軍。
其々が様々な部位に喰らい付き、厄介さを増している。
その中には、スライム実験で出来た失敗作を弾き飛ばしたブロウスライム君もいる。
これで十分なダメージを与える事が出来るし、時間稼ぎも出来る。
……さて、スライム君達には悪いが、最後の切り札を切るとしよう。
「……レイーニャ、やって」
「…………分かったニャ」
レイーニャの詠唱が始まった。




