第18話 海魔の乱
第五位階下位
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一応とばかりに試みた鑑定は、やはり無意味。
巨大イカは8本の足でその巨躯を支え、一際長大な触腕で大地を削りながら此方へ向かっている。
その歩みは遅くみえるが、しかし巨体故にそれなりのスピードで迫って来ている。
ふと視線を草原に転じると、凹凸の激しいそこには海水が溜まり、激流に弾き飛ばされたプレイヤーが数千人規模で所々に引っかかっていた。
その多くは、ピクリとも動かずに倒れている。
おそらく状態異常『気絶』に掛かっているのだろう。
僕は殆ど状態異常になった事が無いので良く分からないが、話に聞く通りなら、全身の感覚が無くなり視界が真っ暗に閉ざされるらしい。
勿論口も動かす事は出来ず、出来るのは精々メニューの操作だけ。
大抵はそのまま死に戻りする様だ。
どのみち助けに向かう余力は無い。
僕は、呆然と大海魔を見詰めて動かないプレイヤーと兵士達に指示を出す。
この距離だと威力が減衰して有効打を与える事は出来ないので、もう少し接近してからにする。
「各自、持ち場へ、合図と同時に——」
大海魔は自重を支える為に8本の足を使っている。
二本の触腕を潰せば勝ちの目が見えるだろう。
「——南側は向かって右側の触腕を、北側は向かって左側の触腕を狙ってください」
今回は、各距離毎に指揮官を置いている。
まぁ、指揮官と言っても、僕の声をフレンドチャットで受け取って代弁するだけの物だが。それにしたってカリスマが求められる。
今回の指揮官は、タク、アラン、セイト、マガネ、チサト、アヤ、ティア、の7人。
リナは声を張るのが得意では無く、ミユウちゃんは責任感こそ強いがプレッシャーに弱い所がある。
そんな訳で、他の子達ももう少し成長するまでは副官として付いて貰う。
大海魔は気絶したプレイヤー達を踏み潰し光の粒子に変えながら、ゆっくりと歩みを進め……。
有効射程へと——
——入った。
「——攻撃開始!」
◇
雨霰と降り注ぐ攻撃は大海魔の触腕を確かに捉えているものの、芳しく無い。
確かに触腕を傷付けているが、大海魔の持つ潤沢な魔力を消費し、傷付いた次の瞬間には回復している。
良く見れば気付く筈だが、これだけ視界が悪いので攻撃が効いていない様に見える上、仮にダメージを与えている事に気付けても魔力を消耗させている事が分からないので攻撃が無意味に見えてしまうだろう。
士気に差し障る。
しかし、切り札を切るにはまだ早い。
……行くか。
「全員、攻撃を継続してください。私は出ます」
「了か——なっ!?」
「えっ!?」
軽く指示を出し、外壁の上から飛び降りる。
何人かが発した悲鳴や驚愕の声はどんどんと遠去かり、雨の中へ消えて行った。
暗闇と相まって、上からでは僕の姿を捉える事は出来ないだろう。
僕がやる事は、あれの背後に回り込み足止めをする事だ。
持久戦に持ち込めば地上に慣れていない大海魔のスタミナを削る事も出来るし、魔力が尽きればそれまでだ。
さて、頑張ろうか。
地響きを立てて進む大海魔の横を駆ける。
巨大イカの何処を見ているのか分からない大きな目、イカに盲点は無いと聞くが……果たしてその目には何が写っているのやら……?
これだけの巨体を持ちながら自重に押し潰される事なく、地上でさえこうも容易く活動が出来るのだから魔力と言う物は恐ろしい。
大型の魔物の有利な点は正にその巨体であるが、同時にそれは最大の弱点でもある。
単純に言ってエネルギー。
エネルギーの供給を1日でも途切れさせる事が出来れば、途端に酷く衰弱する事だろう。
それ故巨体を誇る魔物は強い。
致命的な弱点を抱えているが、それは何かに特化させる為の必要な犠牲なのだ。
後ろに回り込むと、早速配下の子達を召喚した。
ささっと戦闘準備を済ませると攻撃を仕掛ける。
狙いは体を支えている足。
大海魔は重すぎる自重を支える為に8本の足を全て使っている。その為一本止めるだけでも十分な成果は出るだろうし、二本止めれば動けなくなるだろう。
それをやるのは、主に巨像さん達とリッドをパワードスーツ風に擬態させた鎧を装着したイェガだ。
実際に物を目視した訳では無いので定かでは無いが、彼等とこの巨大イカの戦いは正に人間とダイオウイカの戦いと言って差し支えないだろう。
ややイカの方が規格外であるが、彼等は生身の人間とは違う。十分対応出来る筈だ。
他の子達は主に足止めの援護をしつつ、余裕があれば本体に攻撃して注意を引く。
万が一外壁を突破されれば悪魔達の思う壺。此方側へ敵意を向けてくれれば万々歳だ。
「それじゃあ皆、行くよ」
配下の子達に声をかける。目的は討伐ではなく足止め、奴の攻撃を受けない事が肝要だ。
『結晶大王蟹の御霊』と『古の不死賢王の御霊』を発動。
僕は、全員の応じる声を聞きながら鎚鋏を強く握った。
——何処まで通用するかな?




