第16話 来たる海魔と支援活動
二つ目の切り札を作り終えたので、後は敵が来るまで優先順位が高い物から片付けて行こう。
最初にするべき事は、各兵器の確認。
ルベリオン王国で東側に兵器が備え付けられたのは、外壁が完成してからずっと後の事らしい。
何でも、海から来る巨大な魔物に備えての事なのだとか。
しかし、作ったは良いが魔物の襲撃は無く、作られてからと言う物一度も使われていないらしい。
精々、最初の試射に使われた程度だ。
メンテナンスも今は殆ど行われておらず、海に面している為老朽化が酷くなっている事が予測出来る。
そんな訳で確認した所……。
「これは……使えないのでは無いでしょうか?」
「は、はい……動作確認をしようにも、既に壊れている物が多く……」
戦闘準備をしている兵士さん達は、木が朽ちて砕けている大型弩砲や投石機を前に右往左往していた。
一部の兵士さん達が北側から索引式の各兵器や弾を運搬中との事だが、備え付けの大型の物より威力が劣るらしい。
取り敢えず全て錬金術で修理した。
「な、なんと……」
「これが銀の姫君の御力か……」
「これで稼働するでしょう。各自、持ち場についてください」
『はっ!』
これである程度の戦闘準備は整ったと言えるだろう。
確認しに来て良かった。
後は弾の確認を…………そうだ、リナがいるんだった。
切り札追加。
◇
「リナ」
「ユキ」
人気の無い暗がりでお互いに体を抱き締め合う。
身長の都合上僕の顔はリナの大きなクッションに沈み込み、窒息の危険があるのだが、悟の意向なので従っておく。
場合によっては新たな家訓になるのではなかろうかと思う。
母、サトリの解説によると、基本的には七日以上離れてから再会した時に、お互いの名前を呼び合いハグをするらしい。
ハグをしている時間は僕以外の三人が決め、父とはしなくて良いとの事。
先程は時間がどの程度あるか分からなかったのでささっと指示を出したが、ある程度の準備が整ったのでハグをしても良いだろう。
……だが、時間一杯まで準備をしていたいのも事実……そろそろ離してくれないかな?
リナに渡す予定のアイテムは、清浄なる弓と特殊な爆裂矢。
火精結晶の矢 品質? レア度? 耐久力?
備考:? 『大爆発』の魔法が刻まれている。
錬成に必要な魔力が尋常では無いので一本しか作れなかったのだが、『大爆発』は火属性最上位クラスの魔法の一つ、通常は儀式魔法に分類される正真正銘の切り札だ。
リナにはこれで、ギガント・スクィッドの目玉を射抜いて貰う。
目が破裂すれば十分なダメージになるだろうね。
リナと別れ、兵士や騎士の配置を指示していると、大剣士と思しき人物が近付いて来た。
黒髪に黒目で、イケメンなのだが何処か子供っぽさも感じる大男、身長はタクより僅かに低いくらいか……?
「なぁ、あんた……スノーって言ったか?」
「えぇ、私がスノーですが……何か御用でしょうか?」
大剣士の言葉にスノーモードで返答すると、困った様に頰を掻いてから質問して来た。
「あー、大海魔ってのはどんなのか分かるか?」
大剣士が聞きたいのはギガント・スクィッドの事だろうか? それとも大海魔と呼ばれる魔物達の事かな?
「大海魔とは巨大な水棲魔物の呼称です。此方へ向かって来ている個体は分類上クラーケン型の大海魔と言えるでしょう」
大海魔の内、軟体の大海魔をクラーケンと呼ぶらしい。
クラーケンと言う名前の魔物は存在するが、実際に海上で遭遇した場合にその魔物が本当にクラーケンなのかは分からない。
それ故、軟体を持つ大海魔、イカやタコ、クラゲ、ヒトデなんかをクラーケンと呼ぶそうだ。
「そうか……弱点はあるか?」
「主に雷属性が有効です。火属性は量にもよりますが、海魔特有の再生能力を考慮すると有効性に欠けます」
大海魔にしかりだが、海魔の類は総じて高い再生能力を持っている。
特に、クラーケン型の魔物はそれが顕著だ。
ちょっとの火なら簡単に打ち消すだろう。ダメージを与えるには、長時間直火で炙るくらいはしなければなるまい。
「成る程、まぁ理に叶ってるが……属性以外の弱点は無いのか?」
「通常の生物同様と言えるでしょうね」
「ふーん……となると、脳か心臓か……? いや、確かイカの心臓は三つあるんじゃ無かったか?」
確かに、イカの心臓は三つあるが、本体に血を巡らせている心臓は一つだけだ。
もう二つの心臓はエラに血を送る為の補助心臓。
更に付け足すと、イカに脳は無い。
神経節と言う瘤の様な神経細胞の集合体はあるが、そもそもが物理的な限界を超越している怪物だ。神経節を狙おうが心臓を狙おうが、其処に届くだけの武器が無い。
重要器官を傷付けるには如何しても単純なパワーが足りないのだ。
「……脳や心臓よりも目玉を狙うのが良いかと思われます」
「ほう、弱点部位は目玉か」
「リナ様に特別な矢を渡しましたので片方は潰せるでしょう」
「リナ……あぁ、弓使いの……成る程、イベントアイテムなのかな? ……俺にも何かあるか?」
ふむ、大剣士の言っている事は良く分からないが、持っている武器を強化する事は出来る。
大剣士の持つ大剣は、魔鋼製ではあるものの特に魔法は施されていない。
重くて耐久力が高く、刃が潰れ難いと言うだけのただの剣だ。
今有効なのは、魔力を属性魔力に変化させて剣に纏わせる属性付与。雷属性か火属性かは悩み所だが、どちらにせよ属性付与だけなら大した手間では無い。
「今出来る事と言うなら、貴方のその魔鋼の剣に属性を付け足す事が可能ですが、如何致しますか?」
「お! まじか……一番強いので頼む」
「わかりました」
大剣士が差し出した剣を受け取る。
一番強い……はっきり言って状況次第だが、今僕が出来る範囲で付与出来る魔力は、仙術系の打、斬、突、硬、軟、の五属性。
加えて、光、闇、氷、雷、影、後は…………竜属性も出来るか。
ささっと剣に竜の血を混ぜ込んで、竜属性を付与した。
竜殺剣 品質A レア度? 耐久力?
備考:今は亡き竜王の血が練り込まれた大剣。竜を殺す、竜の牙。
どう言うカラクリか、剣の色が真っ赤に染まった。
ただ属性を付けたかっただけなのに。
「お、おぉ!」
驚いた様に、興奮した様に声を上げた大剣士。
……仕方が無いので、一品物に仕上げよう。
竜属性とは、単純に言って汎用強化属性だ。
各々に特化する仙術には劣るが、全体的に能力が向上し、各竜毎に異なる属性耐性を持つ。
今回の場合は白竜王の血を使っているが、腐竜となっていた為に新鮮な血では無い、よって、光と闇にほんの僅かな耐性があり、他の属性にはそこそこの耐性がある程度となっている。
この大剣は十分な大きさもあるし、竜の血を混ぜた今、金属としての格が一段上がっている。相性の良い光と闇の属性も付与しよう。
単純な式句で『光を』と唱えれば光属性に。『闇を』と唱えれば闇属性に。更に追加で武器の清浄化も付けておく。
「これで完成です」
「おぉ……! おおぉぉぉ!! …………スノー様と呼んでも良いだろうか?」
「御自由にどうぞ、この武器の使い方は——」
何やら大剣士が瞳を輝かせながら変な事を言っていたが、僕は呼称等どうでも良い。武器の使い方を口頭で説明し、ニヤニヤ嬉しそうな顔で剣を背負って去っていく大剣士を見送った。
竜の血と魔鋼、ね……メモメモ。




