第15話 来たる海魔と戦闘準備
第五位階下位
海魔と言えば海。
そんな言葉を残し、城から走り去って行ったプレイヤーが数名。
それに釣られる様に、何人かのプレイヤーが走り、後はまるで波が引く様に多くのプレイヤーがいなくなってしまった。
理由は明白、イベントだから。と、今度こそ先を越されない為。
今この場に残ったプレイヤーは、戦闘力の低い生産職や一部の強いプレイヤー。その強い連中が動かないのを目敏く見つけたプレイヤー。或いは、初めてスキル結晶を入手して喜んでいるプレイヤー達。
要するに、残ったプレイヤーは概ね殆どが優秀な人材と言う事だ。
取り敢えず、状況が全く分からずに呆然としている貴族や王族達に指示を出す。
ティアに声を掛けるべく、胸元に手を回してしがみ付いて来ているメーアを抱えて高台から飛び降りた。
「ひゃ!?」
飛び降りると言っても、人一人分程度の高さなので特に身構える事では無い。
「ティア、兵士を東の外壁に集中させて」
「む!? ……まさか……天命が降ったのか!?」
「ん?」
天命……まぁ確かに、緊急クエストの類は天命と言って差し支え無いだろう。
「うん、そんな所かな」
「分かった、直ぐに用意しよう」
指示を出すついでに、雷が鳴る度にビクビクと震える幼女をティアに受け渡す。
続いて、残っているプレイヤーにも装備を整えて東の外壁へ向かう様に指示を出した。
幸いな事に、東の外壁には投石機や大型弩砲がある、魔法式の大砲擬きもあるらしいが、実際に見て確認しないとどの程度の威力が出るのかわからない。
身内には、海岸へ向かったプレイヤー達を呼び戻す様に伝えた。
あまり期待はしていないが少しでも被害者を減らす為には必要な事だ。
誰もいなくなった静かな会場を見回し、続いて空を見上げた。
雨足は次第に強まり、雷は激しさを増している。
取り敢えず料理と食器と机を、念力と念動を使って回収。
インベントリにしまうには接触している必要があるらしいのだが、念力と念動は接触している判定になる様なので非常に便利だ。
全て回収し終わると、広々とした会場跡地を福音スキルで浄化した。
悪魔の残滓を残しておいては何が起きるか分かった物では無い。
さて、この場でやる事はもう無い、行こうか。
東の外壁へ向かう道すがら、濡れ猫となっていたレイーニャを拾った。
悪魔と海魔の件を説明したが、爺様とザイエの助力は期待できそうに無いとの事。
二人は、アンデットとの戦いで負傷し、更に昨日の件で少ない力を纏めて吸われてしまったらしい。
今は王城の地下、審判の間と言う場所で瞑想しているのだとか。
「レイーニャは大海魔とどれくらい戦えるかな?」
「ニャー…………敵の大きさにもよるけどー……儀式魔法の材料があれば大きにゃダメージを与える事は出来るかもしれにゃいニャ」
儀式魔法について詳しく聞くと、本来は星の運行や地脈の流れ、複数人の詠唱者や長い時間が必要な物らしい。
レイーニャはその儀式魔法を単独で行使出来るのだとか。使える儀式魔法は一つ、『大雷雨』。
必要な物は、膨大な魔力とその魔力に耐えられる魔法陣、杖。
杖の方はレイーニャが使っている杖で十分らしいが、膨大な魔力と魔法陣の当てが無いらしい。
幸いな事に僕はそのどちらにも心当たりがある。
切り札の一つとして用意しておこう。
「期待してるよ」
「……仕方にゃい……ニャー」
レイーニャは何処か躊躇いがちに、或いは自分に言い聞かせるかの様に……そう呟いた。
◇
魔鋼の円盤 品質A レア度5 耐久力B
備考:魔鋼で出来た円盤。『大雷雨』の魔法陣が刻まれている。
雷精結晶柱 品質? レア度? 耐久力?
備考:?
「これで大丈夫かな?」
「……十分過ぎるニャ」
場所は東外壁の上、元々休憩スペースとして屋根がついている場所。
遠くに見える海岸には、プレイヤーの物と思われる光源が大量に存在し、豪雨の中でキラキラと輝いている。
いくつか此方へ向かってくる光が見えるので、多少は説得出来たのだろう。
僕は、インベントリから取り出した鉄の塊を魔鋼に錬成して金属板を作り、血刃で大雷雨の魔法陣を描いた。
本来なら、魔石の粉と塗料を混ぜた物で魔法陣を描く様だが、魔力がふんだんに含まれた血刃の血ならそれで十分らしい。
更に取り出したのは、結晶大王蟹の背甲に生えていた巨大な雷精結晶。
相当な量の雷属性魔力が結晶化したこれなら、普通の魔力よりも雷の魔法の制御が簡単になる筈だ。
何せ、魔力を雷属性に変換する必要が無い上に、結晶自体に魔力を雷属性に変換する能力がある。
レイーニャのお墨付きも貰ったので、これで良いだろう。
次の切り札の用意に取り掛かろう。
インベントリから正八面体の結晶を取り出し——




