第9話 『七聖賢物語』
第五位階下位
昼食は手早く済ませ、書き置きを残し、ログインするべくベットに横たわる。
アヤとは朝に顔を合わせるが、昼と夜は中々合わなくなってきた。
楽しんでいる様で何よりである。
タクメールを確認すると、アナザーが何やら色々と荒れているらしい。
祝宴が終わった後にゴブリンと事を構えようと準備していた探索隊。その一部が掲示板で『匿名』のプレイヤー達を批判しているらしい。
批判の内容は『俺たちが弱らせた獲物を横取りされた』と言った感じで、大変御立腹らしい。
その調子で強い魔物を増やして行って欲しい所である。
後は、海に潜っているとあるプレイヤーが、今夜は……荒れるぞ……と呟いていたらしい。
事実として、海は夜になるにつれ波が立っており、遠くに雲がかかっている様だ。
アナザー内で雨が降るのは初めての事。それがパーティーに重なるとは……普通のプレイヤー達にとっては何かのフラグに感じられる事だろう。
北、西、南、共に特に進展は無し。
ではログインしようか。
◇
ログインして状態を確認すると、ベットの上で抱き枕にされていた。
場所はどうやらティアの部屋。ベットから窓までは遠いので、空模様を伺う事は出来ない。
パーティー会場は外。
流石に王城とは言え、八千近くの人間を纏めて入れる事が出来る程広い会場は無いらしい。
内容は、本来なら全員が座ってやる所だが、やはり椅子なんかもそんなに大量には無いようで、立食パーティーである。
一応、出席する貴族とプレイヤーは分けて、その間に騎士を配置する様だ。
理由は、集まった人物が本当に全てマレビトなのか分からないからだろう。
今の所、プレイヤーか現地人かを見分ける術は僕にも無い。
……本当に何か起こりそうだ。
ともあれ、夕食まではぼちぼち本を読んでいよう。
「すぅー、はぁ、すぅーー、はぁー」
「……む?」
ティアに雁字搦めにされていて手が使えないので、さて、どうした物か。と思っていると、急にメニューの形態が変わった。
今までは、目の前にボードとして現れ、口に出す、考える、指で触る、の三つの選択方法があったが、今はボードではなく、直接視界に投影されている。
元々そう言う機能があったのか、それとも何かのスキルが原因で機能が進化したのかは知らないが、便利なので良しとする。
早速読書を始めようか。
「すぅーー、はぁ、ユキの匂い……ふへ」
最初に読む本は絵本童話だ。
こう言った本は、普通ならばフィクションだが、こっちの世界に限っては概ねノンフィクション。
絵本だ童話だと馬鹿にする事は出来ない代物である。
例えば、『七英雄物語』や『魔王殺しの七聖賢』。
この七聖賢は、どうやらグリエル氏の弟子で、爺様達にとっては弟弟子妹弟子に当たる様だ。
各異名とその名前は、
『聖剣の勇者 レイ・セードー』
『聖杖の聖女 ミュイア・リーズベリ』
『最強の魔獣使い クロエ・ベルベット』
『聖護の騎士 ノーレル・クレッヒア』
『樹海の狩人 エルミェージュ・ルテール』
『竜人の狂戦士 バルドラド・セブムス』
『名も無き英雄 ミスティカ』
この七人が魔王と戦い激戦の末に勝ちました。と言うのが童話の内容である。
『七聖賢の軌跡』と題された本には、その戦いが詳しく載せられている。
先ず最初に死んだのは『名も無き英雄 ミスティカ』。
大した物もない村のただの村娘であった彼女は天より遣わされた勇者を支え、戦いと苦悩の末に聖槍を賜り、最後に勇者を守ってその命を散らしたらしい。
遺体を回収する事は叶わず、神授の聖槍と共に奈落の底に飲み込まれたと言われている。
次に死んだのは、『聖護の騎士 ノーレル・クレッヒア』。
未だ未熟な勇者と聖女を守り、聖鎧と聖盾を持って山羊頭の悪魔王と対峙し、それを命と引き換えに退けた。
この事を後に『ノーレルの忠君』や『騎士の忠君』と言う諺で呼び、意味は概ね『背水の陣』に似ている。
次は、『最強の魔獣使い クロエ・ベルベット』。
最も勇者と心通わせていたと言われる彼女は、自らを魔獣使いと名乗り、数千もの魔獣を従えた魔団で魔王の軍勢と渡り合ったのだとか。
本人は中、遠距離の魔法を得意としており、近接戦闘も得意らしい。
その戦力を恐れた真なる悪魔王の手によって魔界に引き込まれ、その後、二度と姿を現わす事は無かったと言う。
その次が『聖杖の聖女 ミュイア・リーズベリ』。
彼女は、悪魔王が一柱、獅子頭の悪魔王をその命をもって封印したらしい。
彼女には、大賢神グリエルの他に祈りと慈愛における師の存在があったそうだが、その詳細は不明。
『竜人の狂戦士 バルドラド・セブムス』は、魔竜の悪魔王を見事に討伐し、疲弊して倒れた勇者を悪魔王の残党数万から守る為に単独で戦い抜き。
勇者が目覚めた時、二本の巨剣を手に持ち大地を踏みしめ天を睨み付け死んでいたらしい。
最後、『聖剣の勇者 レイ・セードー』は、『樹海の狩人 エルミェージュ・ルテール』と共に真なる悪魔王と対峙し、これを討伐。
皆の聖具をミスティカの故郷、最初に勇者が遣わされた地に封印し、短い生涯を閉ざしたと言う。
死因は諸説あるが、概ね最後の戦いで負った傷が原因とされている。
……が、どうだろう。自決の線もあると僕は思うがね。
因みに、『樹海の狩人 エルミェージュ・ルテール』は大した事をしていないのかと言うと、これが逆。
勇者が危機とあれば、山を三つ隔てた場所から矢を放ち、寸分違わず敵の頭蓋を射抜き勇者の危機を救った。
一度、悪魔の軍勢に囲まれれば、光の矢を雨あられと降り注ぎ駆逐する。
七聖賢の中では、最強の魔獣使いクロエ・ベルベット、天より遣わされた勇者レイ・セードー、の二人に次ぐ第三位の実力をもっていたとされている。
別名、聖弓の使徒エルミェージュ。その瞳は千里先をも見通すと言われている。
「ふへへ、ユキ、ユキ……ん? っ!? お、起きて!?」
彼らの武器が封印されていると言うのが、この国、王都ルベリオンの近郊である。
そして、それらの武具はもう全て集められている。
おそらく、セイトの剣はこの街の朽ちた教会にあった物だろう。
ティアの鎧と巨剣は王城の地下。
杖は地底湖で盾は塔。弓は遥か地下深くでグリエル氏のお墓を守る為の結界として利用されていた。
盾と弓はおそらく勇者、もしくは爺様達が封印した後に移動させられたのだろう。
これらの武具は最初、古びたと言う名前が入っていたが、何らかの条件を満たした事で進化し、清浄なると言う名前に変わった。
次なのか、それともまだずっと先なのかは分からないが、いつか勇者達が使っていた武具と同等の性能になるかもしれない。
期待しておこう。
「ユキ? ……おーい。……突くぞ?」
悪魔と言えばシスターアルメリアだ。
彼女が追っている敵は、強欲の魔王にして悪魔の王。
武具を聖具まで覚醒させる事が出来れば、彼女と共に戦う時に大きな助けとなってくれるだろう。




