第7話 事件発生?
第五位階下位
王都ルベリオンには、3つの壁がある。
最外殻にあり、王都を守っている外壁。
街の中央付近にあり、所謂貴族街と呼ばれる富裕層が住む場所を守っている街障壁。
中央にある城を守っている、城壁。
その全てに結界は存在し、結界と壁が破られそうな時は街障壁の中へ、街障壁が破られそうな時は城壁の中へ、と避難出来る様になっている。
その為か、城壁の中には避難するのに十分な広すぎる庭やら森やらが含まれている様だ。
更に付け足すと、城の地下に水路へと繋がる道があり、水路はその下の地底湖へ、そして地底湖は妖精の森へと繋がっている。
逃げ道もちゃんと用意されているのだ。
館がある場所は貴族街の南側、貴族街の中ではスラムや廃墟に最も近い場所である。
まぁ、だからと言って犯罪者の類が屯している訳では無い、そもそも街障壁から中に入るには相応の身分がいる。
治安が悪いと言うのはつまり、富裕層間の利権やら何やらの争いの処理場なのだろう。
路地裏の空き家に入ると死体とか転がってそうである。
「そろそろユキが貰った土地に入るぞ」
「ふむ、その様だね」
地図を見ても分かる事だが、それ以前に雰囲気で分かった。
貴族街は富裕層が住んでいる事もあり、外と比べると活気こそ少ないものの豪華な装飾が施された壁や看板があり、色も落ち着いていながら華やかだ。
しかしこの区域は、長い間人の手が入っていなかったのか色合いや装飾こそそのままだが、雑草が生い茂っていたり塗装が剥げていたりする。
……少し気になる事があるとすれば、プァリボル。
何処にでも生え、栄養豊富な貧民の味方が摘み取られている事か。
よもや貴族が其処まで貧困に喘いでいる訳でもあるまい。その上、良く見ると生い茂る草の殆どがプァリボルや薬草である。
毒草の類は一切存在しない。
……誰かが栽培してる?
そんな疑問を抱きながらも進んでいる折、人の居ない筈のこの場所で人と遭遇した。
「む」
「ん?」
「ひょえ!? え、エスティア王女殿下!? わわっ!?」
遭遇したのは少女。
身長と体型からして僕等の同業者である。
メイド服に身を包む赤っぽい髪の少女は、余程慌てたのか臣下の礼を取ろうとしてすっ転んでいる。
良く見ると、ティアのお屋敷で下働きの様な事をしている見習いっぽいメイドさんであった。
手を貸そうとしたら、『恐れ多いっす!』と言ってスチャッと立ち上がった。
「あ、あの! 姫……様方はどうしてこんな所に? あ、危ないから帰った方が良いっすよ」
僕とティアを交互に見た後にそう言った少女。
見習い……と言うか下っ端と言うか……屋敷でも色々と駆け回っていたので、口調なんかも良く覚えている。
「む? 問題無い、私は強いからな」
「僕もね」
「うっ、そ、そうっしたね……えーと……あ、あれっす、汚くて汚れるから帰った方が良いっす!」
「む、しかし……」
「ふむ?」
怪しさ満点である。
最初の慌て様と言い、帰還を進める強引な言い訳と言い。
……何か隠してるのは間違い無い。
「実はここら辺一帯が僕の土地になるから、その下見に来たんだ」
「んぇっ!? ま、まじっすか!? え、えーと……あ、あたし落し物をしてたのを思い出したっす! ちょっと取ってくるっす!」
そう言って、見習いメイドさんは走り去って行った。
落し物、ね……。
「ユキ、行こう。私達も一緒に探せば直ぐに見付かる筈だ」
僕の手を引きそう言ったティア。あの慌て様からよっぽど大事な物を落としたと推測したらしい。
割と悪意には敏感な所のあるティアだが、悪意が向けられない状況では優しい所が前面に出る様だ。
「……ティアのそう言う優しい所、僕は好きだよ?」
「な!? ……わ、私も! ユキの事は、その……す、す、す——」
「——早く行くよ?」
「……うぅ…………」
ティアが落し物を探すのを手伝うと言ったから行くのであり、そこで何かやばい物を発見してしまっても、余程不味い物で無い限りは少女が路頭に迷う事は無いだろう。
何せ、僕もティアも見習いメイドさんも、ただ落し物を探しに来ただけなのだから。
◇
「ほ、ほら、行くっすよ!」
「ぁんれ、ぁのれす?」
「ぇぃあー?」
「ぇぃあおにぇいちゃーん?」
「あ、後で説明するっす! 急ぐっすよ!」
ふむふむ……誘拐?
声が聞こえて来たのは小さめの建物から。
どうやら、従者や小間使いなんかの家らしい。
その中から聞こえて来る声は、先程の見習いさんと舌足らずな子供の物。
——さて、どうした物か。
そう思っていると……。
——ギィィ。
扉が開いた。
「あ」
「む?」
「ほう?」
……動物?




