第21話 希望の欠片vs.負の欠片
第四位階上位?
ーー LVーー 状態:ーー
最初に動いたのは敵の少女。
かなりのスピードで駆け寄り、殴り掛かって来た所へ、カウンターを食らわせる。
「っ!!」
「ッ!?」
僕の方が身長的にリーチが長いので、カウンターは上手く決まり、僕の拳は少女の顔面に直撃した。
そのまま、黒の少女は弾き飛ばされ、洞窟の壁にめり込んだ。
敵の速力と僕の攻撃力が相まって、相当なダメージになった事だろう……普通ならね。
案の定、少女はほぼ無傷。
岩から這い出して、頭を振ったり体の調子を確かめたりしている。
対する僕の方はと言うと、少し驚いた程度だ。
少女を殴った拳を見ると、表面の皮膚が消滅していた。
少女が接触している地面が消えていないから大丈夫かと思ったが、消す対象は自由が利くらしい。
傷跡は直ぐに再生したが、状況は悪い。
少女の方は生命が肉体に依存していない様だが、僕は体が死ねばそこまで、死に戻りである。
再挑戦出来るかどうかは分からないが、死なない方が良いだろう。
加護で得た膨大な量の魔力を身体に纏い、攻防一体の構えで再度相対する。
今度は僕から行こう。
勝利条件はあれを抹消する事。
普通に殴り合っていても、死にさえしなければ魔力の量から考えて間違い無く勝てる……敗北条件は逃げられる事。
最も最悪の敗北は、僕の魂が滅される事。
僕が下手を打つか敵が僕より遥かに優秀だった場合は、そんな事もあるのかもしれない。
ともあれ、素早く消すに越した事は無いだろう。
あれは大きなマイナスの力を持っている。
不浄などの負の感情が凝縮し、極まった物があれなら、打ち消すには正の力である魔力よりも、更にプラスの聖属性、または生属性の魔力を叩き込んだ方が良い。
と言う訳で、僕がやるのは、聖属性の拳骨。聖属性を流し込んでマイナスの魂と対消滅させる。
体をプラプラと動かして、新しい体に慣らしているらしき少女が、瞬きをするよりも早く接近。
僕の出せる出力の限界まで魔力を聖属性に転換させ拳に宿し、拳骨を落とす。
「んっ!!」
「ッ!!???」
地面に広大なクレーターを作り、少女が地下深くへ沈み込む。
これ程の威力で殴り付けたが……どうやら失敗らしい。
クレーターの縁へと下がり、考察する。
今の攻撃には、加護で得た魔力の半分ぐらいを注ぎ込んであったのだが、周囲に広がった被害から分かる通り、力の収束が甘くエネルギーが僅かに拡散してしまった。
地面から這い上がって来た少女、その負の力は……思っていたより削れていない。
此方をじっと見つめる少女や、その周り一帯の気配を調べて見た所、如何やら迷宮に満ちていた負の力を吸収したらしい。
それだけでは無く、地脈の中に僅かに流れている不浄の魔力から負の力を抽出している様だ。
回復量は微々たる物だが、長期戦になると馬鹿に出来ない。
僕も地脈に接続出来れば良いんだけど……金色さんがいれば出来るかな?
——……始原へ還ろうよ
「?」
唐突に聞こえた意思。
間違い無く少女の物だろう。
『始原へ還る』……成る程、的を射ている言葉だ。と言うか、少女から発された思念を僕の意識がそう解釈したのだろう。
負の感情から負の力が生まれ、正の感情から正の力、魔力が生まれる。
負の力が一種極まったのがあれなら、正の力が極まったのがこの金色の粒子みたいな力なのだろう。
それがぶつかり合えば対消滅、マイナスとプラスが結び付いてゼロになるのは道理である。
ゼロからプラス方向に生まれたのが僕らであり、ゼロからマイナス方向に生まれたのが彼女なのだ。
『始原に還る』とは、つまり……神域の話。原初の時へ還ろうと言う事なのだろう。
更に、分かった事が一つ。
ゴブリンキングの意思は完全に消滅しているらしい。
今の言葉はマイナスの存在そのものからの言葉。彼女は負の化身なのだ。
「還りたいならお一人様でどうぞ」
声に呆れを隠しながら返事をし、次の一撃で確実に抹消する為の準備をする。
二度の接触で相手の事や自分の事が良く分かった。
僕は万が一ではあるが死ぬ事もあるかもしれないと思っていた。しかし、そうでもない様だ。
僕は万が一にも死ぬ筈がないらしい。
理由は単純明解。
犯人は金色さんである。
彼か彼女かは分からないが、金色さん……強すぎである。
大量の魔力はあれと接触すると対消滅を起こして消えたが、金色さんは接触しても殆ど消えなかったのである。
負の力をごっそり消滅させているのに、だ。
分かる事は一つ。
金色の粒子は、僕の定規では測れない程の極致に立つ人物の力なのだろう。
そして、金色さんがいるのに負の力を持つ者が活動していると言う事は……もしかすると金色さんは今も尚、強大な負の力を持つ者と戦っているのかも知れない。
少なくとも、これだけ強く暖かい力を持つ人物が、世界を消滅させうる存在を放置し、尚且つ僕等を見下ろして薄く微笑んでいると言う事は無いだろう。
そして間違い無く、金色さんはこの大陸を救ったと言う神では無い。
まぁ、所詮は推測、妄想である。
洞窟は、僕が作ったクレーターのせいで崩落が始まっている。
さっさと消滅させてしまおう。
「僕が消してあげるよ」
そう声をかけ、金色の粒子を身に纏った。
そこはかとなく安心感。
……後は無駄に被害を振りまく必要も無い、逃さない様に包み込んで抹消するだけである。
此方を見上げる少女へと歩み寄る。
負の力の目的が、なるべく多くの正の力をゼロに還す事ならば、この少女が無駄な抵抗をしないのも頷ける話だ。
どう足掻こうと僕は少女を逃さない、どう足掻こうと僕は絶望をしないし、怒りも憎しみも哀しみもしない。負の感情は抱かない。
ならこの少女に出来る事は、その存在と引き換えにほんの僅かに金色の粒子を消す事のみ。
最後にニコリと微笑んだ少女に——
——抱き着いた。




