第20話 負の根幹
第四位階上位?
洞窟の中へと足を踏み入れると、極僅かながら何やら不可思議な感覚、さながら水に入った様な妙な違和感を感じた。
それは拠点の安全地帯に出入りするのと似通った物だったので、おそらくこの洞窟がゴブリンキングの発展迷宮なのだろう。
ただし、地底湖のダンジョンとは違って仄暗い気配に満ち満ちている。
地下墓地の中と比べると、その違いが良く分かる。
僕としては、アンデット達もある程度世界の摂理に恭順している存在であると思っている。
何せ、後ろ暗い存在と言うだけで、原理はゴーレムと同じなのだから。
それに、魂のある生物な以上人間とゴーレムにさしたる違いは無い。イェガだってスライムの中で必死に泳ごうとしたくらいに可愛いのである。
だが、此処は如何だろうか?
感じ取れる気配、魂を侵される様な不快感。
【天命】と言うのも頷ける話だ。
——この世界はゲームでは無い。
確信した。
こんな物をただの人間に作れる筈が無い。
今歩みを進めるこの洞窟、奥へ奥へ、進めば進む程、強くなっていく負の力。
仙術は極まった意思の元に純粋で強力な魔力を練り上げる術だと言う。それならば此処にある力は仙術で練り上げられた物なのだろう。
——これは悪では無い。
純粋な負の力、魔力とは逆の力だ。
やれる事は一つだけ。
——消さねば消される。
これはそう言う物だ。
加護が過剰だ、とか、『世界が滅ぶ』あたりが妥当、とか。
随分と甘い考え方だ。
もっと大きな力で、確実に、抹消しなければ、世界が、消える。
実際にそれ程の力をこれが保有している訳では無いが、少なくとも放置していればこれの分だけ世界が消えるだろう。
◇
進む事暫く、ゆっくりと歩みと思考を進める事で、如何にか冷静さを取り戻した。
世界は既に攻略されている物と思っていたが、単純に僕の視野が狭かっただけの事。この世界は随分と僕の事を楽しませてくれている。
体の内にある三つの大きな力、良く観察して見ると、色々な事が分かった。
三つの力のうちの一つである、ピクリとも動いてくれない力は、フィールド制限を維持している物と同じ力だ。
一番奥にある力は、おそらく僕の物。
色々と動かそうとしてみた感覚から言って、これは僕の魂か何かだろう。
そしてピクリとも動いてくれない力は、その魂を守る様にして展開されている。死に戻りはこれで成されているのかもしれない。
そして最後の金色の粒子だが、加護で与えられた力の大半がこれの様だ。
魂が感じられたり負の力の根幹を見抜いたり出来たのは、この力が全面的に僕をバックアップしてくれているからなのは間違い無い。
それはもう自由に動かせて、その上身体に良く馴染む。これがあるだけで心に余裕が出来るのだから凄い。
また、先程まで正気じゃなかった上にそれに対し何の違和感も感じなかったので気付かなかったが、僕の身体が少し変わっていた。
先ず最初に気付いたのは髪の毛。
毛先が金色になっていた。
粒子を弄って髪の毛から力を抜き取れば元の銀色に戻るが、気を抜くと見る見る内に侵食されてしまう。
だが、放っておいても半分程で侵食を辞めてくれるみたいなので、放置する事にした。
やろうとすれば僕を完全に乗っ取る事も出来るのでは無いだろうか?
まぁ、それはそれで良いかな。
……と、思わせるあたりが金色の粒子の恐ろしい所。
おそらく、力を与えてくれている人物のカリスマ性がダイレクトに魂と接触しているのが原因と思われる。
僕を堕とすなんて……これ以上金色の粒子について考えるのは止めよう、また正気じゃなくなる。
次に気付いたのは身長。
視点から言って頭一つ分くらい成長していた。
一切の違和感すら感じさせずにこれである、これも金色の粒子の仕業か?
最後に服装。
血刃を用いての戦闘に備えて吸血姫の服に着替えていたのだが、気付くと真っ黒に金色で竜の装飾が施された服に変わっていた。
如何やらベースが吸血姫の服らしく、フリフリでスカートだったが、間違い無く別物である。
僅かな期待を胸に駄目元で鑑定を掛けてみたが、案の定、『ーーの加護』と同じ様に鑑定では分からない代物であった。
分かったのは、備考欄の着心地が良いと言う情報だけである。着てるんだから知ってるよ。
そうこう調べ物をしている内に、洞窟の最深部へと辿り着いた。
広いドーム状の空間である。
道中に逃げ込んだ筈のゴブリンは居らず、最深部にも動いている影は一つだけ。
その影……其処には——
——美少女がいた。
と言うか僕である。
正確には、僕とアルネアを足した様な外見で、頭に二本の角が生えている。
今の状態の僕より僅かに身長が低く、肌は漆黒。おそらくこいつがゴブリンキングだったのだろう。
僕とアルネアを強者と捉え、それに勝つためにこう言う形に進化した物と考えられる。そして全裸だ。
丸腰と捉えるべきか、或いは武器など要らぬ。と言う事なのか。
どの道消し去る事に変わりは無い。
僕がそちらへと歩みを進めれば、僕に気付いている少女はニコリと微笑んだ。
事ここに至って単純な怒りや憎しみは無い。
お互いにあるのは消さねばならぬと言う意志のみ。
僕は返事をする様にニコリと微笑み——
——消し合いが始まった




