第17話 ゴブリン殲滅戦 二
第四位階上位
アイから大量の魔石を受け取っていたので、魔力には大分余裕がある。
しかし、できれば魔力は拠点の本の修復に使いたいので短期決戦が目標である。
配下には、黒い妖精を殺さない事。ゴブリンの上位種であるジェネラルクラスには単独で当たらない事。ゴブリンキングには古参メンバーが当たる事。と、言った風に命令をしている。
最初の突撃後、ゴブリン軍は即座に対応して来た。
どうやら、此方側を先に潰そうと考えた様で上位種ゴブリンや黒妖精が大量に向かって来た……だがまぁ、何の問題も無い。
襲い掛かってくる黒妖精は、全て血刃で血の海に沈め捕獲する。いや、血刃の血の海に、か。
◇
戦場が広く、配下の皆がそれぞれ遠い場所で戦っている中、僕はゴブリンキングと相対していた。
このゴブリンキング、何やら厄介な能力を持っている。
「っと」
「——ギャ!?」
いざ攻撃しようとすると何処からとも無くゴブリンが出現し、蹴り飛ばしたり踏み潰したりと非常に邪魔くさい。
ゴブリンキングがそれを召喚している様なのだが、魔力量が異常に多く弾が尽きる様子が無い。
その上、うまく攻撃を当てて致命傷を負わせても、無尽蔵とさえ思える魔力を使って直ぐに再生してしまう。
どんな手を使っているのか良く分からないが、どうやら地脈に接続している様に見える。その上、何故だか見る見る内にレベルが上がって行っている。
厄介極まりない。
ゴブリンキングは両手に大剣を持ち、金属製の鎧を着込んでいた。
今は既に、剣をへし折り鎧を砕き、何度と無く致命傷を負わせている。そろそろアイを出動させよう。
「『命令アイ』攻撃開始」
「ギッ!? トメロ!!」
「む?」
喋れるんだ。と、思ったのも束の間。大量のゴブリンを召喚し、それを捨て駒にする事で距離を取ったゴブリンキングは、更に膨大な魔力を消費してゴブリンジェネラルを複数召喚した。
ゴブリンならともかくゴブリンジェネラルとなると、薙ぎ倒すのにも僅かに時間がかかる。
「むぅ」
ゴブリンキングは肉壁をどんどんと召喚していき、膨大な魔力をふんだんに使った身体強化であっという間に洞窟の中へと引っ込んで行ってしまった。
幾らかのゴブリンも逃げ込んで行ったが、幸いな事に黒妖精達は表に出たままなので、今は黒妖精を捕まえる事に注力しようと思う。
あのゴブリンキングは放っておいたら更に厄介になるだろうが、黒妖精達を糸使いのお姉さんに預ければ血刃を自由に行使出来る。
血刃でズタズタに引き裂いて魔石を抉り出せば死ぬだろう……多分……。
◇
「——透き通る様な白い肌、星の煌めきにも劣らぬ銀の髪、深淵を覗くが如き叡智を宿す青の瞳……貴殿がユキ殿だな?」
「間違い無く僕だね」
戦場に山程いたゴブリン、その幾らかは、アイの追い込みを受けて洞窟の中へと逃げ込んで行った。
残りのゴブリンを殲滅し、全ての黒妖精を捕獲した所で、妖精女王に話し掛けられたのである。
問題無さそうだったので普通に反応してしまったが……一体誰の受け売りだろうか?
「此度の救援、星降りの森を治める妖精女王、リェニ・ローシェとして礼を言わせて貰——」
「——堅い、堅いのね」
「ぬ」
妖精女王改めリェニさんが話し始めると、いつの間にか近付いて来ていた糸使いの女性が遮った。
困り顔のリェニさんを放置して、その女性が前に出る。
腰まである長い黒髪に紅の瞳、適度に着崩された和服らしき服から覗く肢体は中々に美麗。チサトが後10年くらいしたらこんな感じの美人さんになるだろう。
そんな美人さんは僕の目の前に立つとニコリと微笑んだ。
「面倒だった、面倒だったのよ。だから助かった、助かったのね。ありがと」
「どういたしまして」
大事な事なので二度言いました。みたいな話し方である。
それはともかくとして、先ず手早くやるべき事は黒い妖精さんと逃げたゴブリンキングの処理だ。
「所で、この黒い妖精さん達はどうすれば良いかな?」
「ああ、その者らは——」
「——私が預かる、預かるのよ?」
先程からリェニさんの話しを遮っているのだが……本当は仲悪いのかな?
「その後は聖女殿に——」
「——アルメリアに診せに行くの、行くのよ?」
「うむ、此処らでこれを治すには聖女殿か賢者殿の元へ行くしかないからな」
どうやらシスターアルメリアの知り合いで、爺様とも知り合いらしい。
まぁそれもそうか。住居が近いし脅威となり兼ねない者が隣にいるならあの2人が放置している筈もない。
そして、別に仲が悪いと言う訳では無さそうだ。
「デュナークは怪我してるの、大変なのよ? ザイエは頭悪いの、使えないのね。エイジュは堅いの、面倒なの。マリテュールは水の中、私は行きたくないの。ミシュカは居ないの、どっか行っちゃったのよ?」
流れる様に賢者達の状況を話したお姉さん。
爺様の近況を知っているし、ザイエとミシュカ氏の事も良く知っている様なので、他の2名の事も間違い無いのだろう。
「と、言う訳で聖女殿に浄化して貰おうと思っている」
「そう、治るのなら良かった……所で僕、それがどう言う物なのか知らないのだけど」
鑑定した時状態が、負《小》、となっていた。
迷宮化もどう言う物なのか分からないが、なんと無く想像はつく、だが、負とやらは全く分からない。
「説明する、説明するの——」
「——ああ、それはな」
リェニさんの説明によると、悪魔の呪術やアンデットの発生原因とは似て非なる物らしい。
先の大戦で神によって消し去られた黒き魔物、それと同質の力なのだとか。
それ故に、実在する神を信奉するシスターアルメリアか、強大な魔力と知恵を持つ爺様にしか浄化は出来ない様だ。
聖典教とやらが弱体化している理由って……信奉していた神とは違うっぽい神によって大陸が救われたからではなかろうか?
だとしたら、聖典教にとってマレビトは親の仇の様な物なのでは? ……面倒臭さそう。
まぁ、どの道関わる事になりそうだし、後で対策を講じる必要がある。
……思ったのだが、爺様がこれを浄化出来ると言う事は、これは魔法で対処出来ると言う事。
そしてシスターアルメリアがこれを浄化出来ると言う事は、これは聖属性の魔力で対処出来ると言う事ではなかろうか?
もしそうだとしたら、聖属性の魔力を発生させる『解呪』や『祝福』スキルで、浄化出来るかも知れない。
専門家では無いので何とも言えないが、ヴァンパイアが浄化された時の事やアンデットの支配権を奪った時の事から、聖属性を流し込めば自ずと浄化されて行く筈。やってみよう。
「『解呪』」
呪われし妖精魔法使い LV47 状態:負《微》
血刃で捕らえてある黒妖精さんにスキルを使ってみた。すると、思った通り。負の力と聖の力がぶつかり合い、消滅した。
完全に浄化するには後二回程『解呪』を掛ける必要があるだろう。
解呪で一体を完全に浄化した後、続いて『祝福』を試してみる。
「『祝福』」
妖精騎士 LV35 状態:
今度は一回で浄化出来た。
どうやら『祝福』は『解呪』の上位っぽいスキルだった様だ。
コスパも良いので全部浄化してしまっても問題無い。
「おお! ユキ殿は聖女殿であったか!」
「綺麗であったかいの、あったかいのよ……」
「全員浄化するから、連れて来てくれないかな?」
「わかったの、任せるのよ」
浄化されて気を失った掌サイズの妖精さんを、お仲間の妖精さんに渡して、次の妖精さんを浄化する。
後気になるのはゴブリンの急速な強化と、ゴブリンキングの異変。
……少し急ごうか。




