第43話 赤き天使と眠れる金
第八位階下位
隣接する翼に入る。
感じられるほんの微かな残滓から、そこがローネリアの部屋だった事が分かった。
およそ1,000年間主がいないだけあり、隣のルーイリアの気配が大きく流れ込んでいる。
……と思ったのも束の間、ローネリアの部屋は色んな物で荒れていた。
幾らかの紙束があちこちに散乱し、テーブルには汚れた皿とコップ、ベッドはめちゃくちゃ。
間違いなくルーイリアが暮らしている。
まぁ、ローネリアはいないのだし、その部屋を有効活用しようという気持ちは理解できる。
ローネリアの私物も無いし、最早ここはルーイリアの住居となっていた。
そんな住居を更に越えて隣、入ったそのエリアは、火の気が優勢だった。
見回してみて分かったのは、このエリアの大半が修練場になっている事。
ルーイリアが作ったと思わしき、熾天使が多少暴れても問題ない壁や床に、それよりも更に強固な的など、様々な施設が備わっていた。
そんな広く取られているその空間にいたのは、赤髪の熾天使。
アレフリア LV791MAX
長い赤髪をポニーテールにした、キリッとした顔の高身長美女。
白地に赤い線の走る鎧を着込んだ姿は女騎士と言うに相応しく、何より目を引くのは鎧の大きな胸部装甲。
身長に見合う大きさだが……中は空洞だ。
いや、僕もそれを暴こうとした訳では無い。
ただ強靭な装備に隠密の気が纏わせられており、装備内に隠し玉があるかもしれないので普通に確認しただけなのだ。
結果的に絶壁を暴いてしまっただけで、僕に落ち度は無い。
実際、空いた胸部装甲の所にはポケットが取り付けられており、携帯食料代わりのシュガーとか魔力補給用と見られる魔結晶などが入っていた。
それにしても空きスペースの1割以下だが。
なんで半精霊体の者達が胸部の大きさにコンプレックスを抱いているのか、僕には理解できない。
ともあれ、そんな絶壁のアレフリアは、このエリアに感じられる火の気の主であり、今も火属性に変質した赤いセラフィック・ソードを握り、素振りをしていた。
特に隠すでもなく放出される固有属性魔力から、アレフリアが単純な武闘派の脳筋である事が伝わってくる。
行動原理は単純で、ルーイリアが熾天使の人形を作っていたように、天界……というより熾天使の仲間たちを守る事が第一優先事項。
その為、ルーイリアは矢面に立つ者をそもそも変えようと判断し、アレフリアは全ての敵を薙ぎ払える武力を持てば良いと判断したのである。
彼女はレベルが790とかなり高いが、その基本的な技量はサンディア配下の赤の王、ウェンザード程度。
戦闘狂に振り切れていないのに天然物でそのレベルとなると、その技量は中々に高いと評価できるが……瞬間的な熱量という点では戦闘狂にはどうしても劣るだろう。
そんなアレフリアのレベルがこうも高い理由は、全て光輪による物である。
種族特性がなければ精々レベル730程度。
戦闘経験だけならさて、700に行けば良い方か?
それでも天界では三指に入るくらいの実力なのだろう。残念な話だ。
まぁ、光輪ありきで750くらいを期待できるのだから、贅沢は言うまい。
何なら装備も込みだと期待値は820程度に到達するので、悪くない強敵である。
そんなこんなで、隠し玉等特に無い事を確認し、もう片側の翼の調査を終えた。
続けてもう片方の翼だ。
入ったその場所は、金の因子が漂っていた。
まぁ、元々分かっていた事だが、金と銀は共振するので、より一層隠密に注意を払い、様子見していく。
真っ白な通路の先にあったのは、まぁまぁ普通の住居である。
丁寧に整理された部屋には、特にコレと言って目立つ物は無い。
コンパクトなその部屋は、元々あまり使っていなかったのか、固有因子は少なかった。
その部屋以外の殆どの部屋がルーイリアの物置になっており、最後の大部屋に、その天使はいた。
イデアリア LV812MAX 状態:休眠、負(小)
卵型のケースの中で、光、聖、生の属性を持つ液体に沈められ、静かに眠りに着いている熾天使だ。
白いワンピースの様な衣服を纏う、金髪の美少女。身長は僕よりまぁまぁ高いが、子供の域を出ない。
そんな彼女は両手を中心に、体のあちこちに黒い斑点が浮かんでいる。
処置が良いのでこのまま放っておけばすぐに良くなるだろう。
感知できる固有因子から見て、まず間違いなく、現時点の天界最強は彼女だ。
それが戦闘に参加できないというのは、非常に勿体無い。
という訳で、取り急ぎその場にある浄化液を操作して負の因子を一掃し、治ったばかりの体と長く寝ていて鈍った感覚をメンテナンスし、万事整えてから目覚めようとするイデアリアを寝かし付けた。
すぐに起きても良いんだけどね、僕がいるのがバレちゃうので、もう少し眠っていてもらう。




