第32話 宮の迷宮は美味しい
第八位階下位
次の目的地に向かいつつ、黒霧の報告を聞く。
配下の子達は残り期間の少ない無料休憩所に通い詰め、ひたすらに修行と激戦を続けている。
特にトップクラスの者達は、制限無く力を使えば未強化英雄なんて容易に吹き飛ばせる様になって来たので、黒霧の高位個体が複数出張って英雄の魂をふん縛り、黒霧なりの魔改造をしたりしている。
激しい闘争も強化実験も出来て一石二鳥である。
ウルルと犬型魔物達、サンディアと吸血鬼達、イェガと傀儡兵、竜寝殿の竜達、クリカと水棲魔物、白雪一行、アトラと愉快な手、精霊神教、森海の主、ペルセポネと悪魔獣達。
数多の神群が修練を重ね、個としても群としても著しく成長した。
主神級のメンバーは、個で一息に大陸を消し飛ばせる程の力を持っている。
だが……未だ足りない。
せめて、全盛期の神獣ベルツェリーアくらいの力は持ってくれないと、奴と戦う時、主神級ですら雑兵程度にしかならないだろう。
星を割る程の力を持って、初めて足元に及ぶ。
そんな戦場に備え、皆には弛まぬ努力を重ねて欲しい。
努力の為に必要な遊楽を与える事を、僕は惜しまないから。
素晴らしい成長を続ける皆の報告を、うむうむと聞きながら着いたのは、タク達がいる場所。
そう——宮の迷宮である。
中位環境迷宮を全制覇してから裏ボス狩りをすると言っていたが、タク達は方針を変更したらしい。
宮の迷宮自体は昨夜の内に制覇済みであり、この早朝から未だに宮の迷宮に留まっているのは、ある理由からである。
そう——報酬が美味いからだ。
財宝に目の眩んだ哀れな親戚達を、僕は白い目で見下ろす。
……まぁ、冗談はさておき、皆の選択は実はベストチョイスだ。
流石の皆を持ってしても、レベル60そこらでレベル250を相手にするにはスペックが足りない。
皆の全力が敵の様子見と言う程にはかけ離れている。
まともに相対できるのはさて、シロくらいの物だろう。
その点、宮の迷宮での狩りはまさしくベストチョイス。
レベル上げをしながら強敵と戦いスキルレベルも上がり、素材を得られてお宝も貰える良心設計。
レベリング、スキルレベリング、装備強化。
コレらを万全に行なって、ようやく全員が足元に及ぶ様になるだろう。
全員が足元に及べば、レベル250の裏ボス達もなんとか倒せる筈だ。
現状では、攻略班と製造班に分かれ、攻略班はボスの撃破と宝箱の開封に運搬、製造班は予備武器や防具、装飾品の生産に、ボス攻略に有用な消耗品の量産を行なっている。
……まぁ製造班はシロとナツナとシハルだけだが。
ちょっと製造班の負担が大きい様に感じるが……そこは上手くドールを利用して雑用を任せている様なので、回せてはいる。
皆の頑張りを、少し詳しく見てみよう。
先ずシハルは……工場になっていた。
シハルは同じ事を繰り返す作業が得意なので、配置がこうなるのは目に見えていた。
そんなシハル工場は、ドールを複数体配備し、機械的にアイテム製造を実行している。
魔法薬工場では、ドール達が薬草を煎じて魔石を砕き、煮込んで薬効を抽出して、濾して異物を取り除き、甘味料で味を整えている。
シハルはその出来を見る最終調整係だ。
魔法符工場では、レベル60の戦場でも有効なスクロールを作る為、属性に見合ったインクの配合や、それなりの強度の紙の製作、それらを踏まえた上でのバランスの良い術式の組み立て……ナツナが主に開発した物をシハルとドールが生産している。
シハルの役割は、完成した物がちゃんと使えるか、魔力を通して検品する事。
そして最後に、シハルのオーダーメイドスクロール工場。
メンテナンスは必要だが、何度も使える魔典の様な物を作成している。
葛折りの本に直接回路を描いているが……まぁ、後からくっ付けると接続部が物質崩壊を起こしてバラバラになる公算が高いので、ぶっつけ本番も致し方ないだろう。
シハルが頑張っている一方、ナツナはと言うと……自由開発に勤しんでいた。
とにかく案を書き連ね、それを実行し続けて、良さげな術式をピックアップ。
出来得る限りの改善や量産に向けたデチューンを行ない、完成品をシハルに流している。
また、既製品のブラッシュアップも行なっており、入手アイテムや費用と睨めっこしながらも楽しそうである。
最後にシロだが、一品物の武装の生産に励んでいた。
宝箱やボス素材をふんだんに使い、現状出来得る最大の強化を施し、各員にテストさせて調整を行ない、と武装アップデートで獅子奮迅の働きを見せ、空いた時間には僕が皆に作った下位の装備を眺めて素材の加工をしたり術式の書き込みをしたりしている。
色んな練磨法の実験をしているみたいだし、その魔力の流れと変質の過程をつぶさに観察して記録を残している。
その技術力はきっとレベルアップに伴い飛躍的に上昇して行くだろうから、タク達の装備は安心して任せられる。
やがては僕が作った神器の調整も出来る様になるだろうし、ナツナやシハルの持つ天賦の才能も向上させてくれる事だろう。
製造班をチラ見した一方、攻略班はと言うと、順調に狩りを進めていた。
通り一遍ボスを倒し尽くした後、各パーティーに分かれて上手く倒せるボスを調査、相性と余力を十分に活かし、複数パーティーでボスの乱獲を行なっていた。
概ね3〜4人のパーティーに分かれ、1戦10分程度で回している様だ。
1回の戦闘で手に入る証の数は、防御だけ大きなダメージが無いから貰えず、4個程度。
現状では、緑と青の試練の証をとにかく大量に集め、次の段階に移行する準備をしているらしい。
1時間での証の獲得予想数は、緑が72個、青が96個。緑は最終的に500個程度集めておけば良いので、おおよそ5〜6時間周回する事で必要数が集まるだろう。
その後は一つの証を捧げれば4つの上位証が手に入るので、追加で緑を集める必要はなくなる。
なんやかんや言ったが要約すると、8種いるボスにバランス良く戦力を配置してボコボコにし、緑と青だけで開けられる宝箱等を開けまくり、それが終わったら6種のボスから赤と黄の試練の証を乱獲して宝箱等を開けまくり、最後に空間属性を操る強敵ボスを袋にして白の試練の証を獲得して宝箱等を開けまくると。
1日掛かりの仕事になるだろうが、逆に言うと皆は1日で宮の迷宮の完全攻略を終えられると言う事。
そうして装備やアイテムを完璧に整えれば、レベル250の裏ボス程度、余力を残して打倒出来るだろう。




