第31話 楽園の新参
第八位階下位
細々とした強化と労いと修行を行った翌朝。
ゲーム開始から36日目、早朝。
空は台風の接近に伴い、シトシトと泣いていた。
諸々の雑務をこなし、早めの朝食を摂り、アナザーにログインする。
アナザーの空は、程良く雲の掛かる晴れ模様。
幸先が良いのか悪いのか。
僕はぐっと伸びをして、うーたん達を起こした。
◇
休憩所にて、対天使方面軍の最終チェックを終えた。
未強化休憩所戦力程度、半刻と経たずに殲滅出来た。
1日36日、休憩所での今日に備えた徹底的な扱きにより、メインの堕天使達はレベル720に到達している。
これは、レベル800相当であった初期ローネリアと、1対1で辛うじて渡り合える程度のレベルである。
スペック差を技量で補い、何とか対処出来るレベルだ。
技量が同格なら勝ちの目は一筋すら見えないだろう。
だが、ローネリアが強かったのは魔界と言う環境でそこそこに戦い、警戒し続けて来たから。
現状何も無ければ、天界で引きこもっているだけの熾天使の想定戦闘力は、精々750少々と言った所だろう。
まぁ、あまり過小評価して痛い目を見るのも嫌なので、今回は念には念入れて助っ人を3人用意してある。
ウルル、サンディア、メロットだ。
横槍が入るとしたら想定レベルは最低でも800を越えるので、そんな横槍対策としての指折りの強者の配置だ。
戦闘には殆ど介入はしないが……伏兵があれば介入しても良いだろう。
まぁ、その伏兵対策としてルクス君やリブラリアを置いているので、活躍の機会は無いだろうが。
さて、そんな天界攻めを始める前に、その他の最終チェックを始めよう。
先ずは楽園。
入るや否や、増えたアダムカドモンと相対した。
ダアト LV750MAX
地面に届く程伸びきった真っ白な髪に同じく白い瞳。
病的に痩せた真っ白な少女は、真っ白なボロを纏い、僕に跪いた。
よく見ると、真っ白な髪やボロの服は、先端や裾が虚空に溶ける様に薄れている。
更によく見ると、アム達が僕達をベースに生成されているのに対し、この子は楽園の信仰と接続されている。
こんなに見窄らしい姿をしているのは、楽園が未だに失楽園だからだろう。
装備、肉体、魂、その全てが大きく弱体化し、本来の力を発揮出来ない状態になっていた。
つまり、この子は神の子であるアダムカドモンであると同時に、楽園の現神なのだ。
まぁ、アム達も楽園における各種属性神権と繋がっているので、現神と言う点ではあまり変わらないのだが……どちらかと言うとこの子は星霊に近しい性質をしていると言えるだろう。
連れて来たアムに視線を向ける。
「……真ん中の通路に隠し通路があった」
「その先に居たと」
「……そう」
……見つけるのに何か条件が必要で、アムはそれをクリアしていたと言う事だろう。
その後のアムの説明によると、この子が居た空間とこの子を支配するのに神気が必要との事なので、余っている神気を合計1,000程度消費し、支配を完了した。
楽園の神性とダアトの神性がより強く繋がったのを観測した。
これにより、凡ゆる産出物と出現魔物のレベルが僅かに上昇したとの事。
そんな説明をするアムの横で、変わらず跪く少女を、取り敢えず撫でる。
「……ち」
「……?」
「……ゃぁーーー」
超音波みたいな音が出た。
「……因みにダアトは神様ラヴ」
「え? 踏んだ方が良い?」
「……?」
「いや、なんでもない」
シャルロッテ汚染が表出しかけたが、それを何とか抑えた。
よく見ると、ダアトは白い髪に紛れた耳を真っ赤に染めている。
シャルロッテ系かどうかは分からないが、取り敢えず信仰している分には問題ないのでよしとする。
熱くなった耳をモミモミしつつ、アムの報告を聞く。
「……確保した世界は、真ん中に泉がある白い砂漠。コレが泉の水」
「ふむ」
渡された瓶をよく見ると、良い感じのミネラルと生命魔力。
場所は広い砂漠と言う事だが……土壌を整えて温泉でも作れば良さそうだ。
「……外敵の出現は無し、他の門も無く、広い砂地が境界まで続いている」
「じゃあ温泉街を作って保養地にしようか」
「………………承知」
なんでそんなに間があるんだ。
「……真ん中だけちょっと大事にした方が良いかも」
「そこらへんはアムが良い様にしてくれれば良いよ」
何かあるんだね。
ダアトをワシワシモミモミしていると、アムは更に報告を続けた。
「……それから、アダムカドモンが5人になった事で、神座の新機能が解放された気がする」
「ほう」
そんな訳で神座を覗き込むと、確かに新機能が解放されていた。
どうやら、空間属性の神気を消費する事で、楽園の時間を加速する事が出来るらしい。
見たところ、楽園を加速させるには4人のアダムカドモンを神座の間に閉じ込める必要があるらしい。
確かに、アダムカドモンを1人残しておかないと楽園の運用は難しいだろうから、5人必要である。
しかし——
「アム1人で加速出来るんじゃ——」
「——出来ない」
断言するアムに振り返ると、アムは明後日の方を向いていた。
……出来るのか……まぁ、ルール上出来ないのだろう。
この加速機能の本来の運用方法は、神が外部に行っている間に民を働かせ、都市を発展させたり数を増やしたりする物なのだろう。
しかし、有効利用するならば、間もなく終わる休憩所の変わりに運用するのが良いだろう。
まぁ、加速するのに神気を消費するし、アム達を拘束しないといけないのも思わしくない。
使う時は僕がよっぽど追い詰められている時くらいだろう。
いざと言う時の為、空間属性の神気をある程度温存しておいた方が良い。
その後は、幾らかの細々とした報告を聞いた。
家畜のザリガニから取れる胃石がポーションの材料に使えるとか、品種改良した薬草の葉から砂糖の代替品を抽出したとか、果汁や乳を利用した飲料、即ち嗜好品の類いの生産を民にやらせてみた現在の進行状況とか、微々たる物だが面白い報告である。
イマイチなメロン牛乳をくぴっと飲み干した後、超音波を発してプルプルするダアトとアムを労い、僕は楽園を後にした。




