第27話 レイエルを鍛えよう ※挿絵あり
第八位階下位
竜寝殿のスピード狂コトデクス兄弟をいつか紹介してやろう。
そんな事を思いつつ、タクを引き摺り下ろし、早めの夕食を終えた。
食後暫し、追いユキミン! と叫ぶアヤとたわむれ、アナザーを再開。
ユキミンマシマシ! と叫ぶアヤをグリグリして次の目的地へと向かった。
◇
程良い負荷のスキルトレーニングを行ない、時間が来る。
着いたのは、相変わらずのイベント会場。
待っていたのは、一人。
「きょ、今日はよろしくケロ」
「うん、よろしくね、レイエル」
杖を持ってプルプルしているレイエルだ。
夕焼けに染まる世界で、彼女はぎこちなくはにかんだ。
それでは早速行ってみよう。
僕は彼女に歩み寄ると、杖を取って地面に突き刺し、そっと彼女を抱きしめた。
「……っ!」
「緊張してる?」
「ぅ……」
レイエルはむにゃむにゃ唸った末、頷いた。
まぁ、失敗する様な事も無いだろうが、幸いイベント会場は3日間ある。
焦って何かをする必要は無いのだ。
「じゃあ、暫くこうしてよっか」
「ぁぅ……」
暫しレイエルの頭や背を撫で、緩やかな時間を過ごす。
◇
魂とも接触して撫で回し、ふんにゃりして来た所で徐に魂合した。
爆発的に広がる全能感に酔いしれながら、迫る夕闇を見上げる。
今ならば何もかも理解できた。
無限大に広がる未知の全てが、果てなき見えざる道の全てが、地平の遥か先まで見通せる。
悩みや、迷いや、怖れなど、どれ程些末な事であったか。
行き着く果てが既に見えているのなら、後はそこへ直進するのみ。
「修行あるのみ、と言う事ケロネ」
青味の増したブルーシルバーの髪が、光を纏って棚引く。
杖を持ち、上空へと舞い上がった。
現れたのは、リターニァ。
相変わらずの突撃。
幾度も振るわれる拳を片手で軽くいなしながら、飛来した黒槍を水球で逸らした。
負荷と言うには余りに軽い。
些末な拳撃を払いながら、海を持ち上げた。
出現したのは爆炎球、そこへ十分な水を被せ、ギランの大技を消し飛ばす。
島は水蒸気に包まれた。
夕闇に包まれた世界、星明かりすら通さぬ濃霧、暗黒に沈む島の上空で、ボクは杖を掲げた。
折角のイベント会場だ、存分に——しゃぶり尽くしてくれよう。
手始めに作り出したのは、英雄の数の水分身。
——全てが遠隔操作。
24体の英雄達、その死力が尽き果てるまで、今宵は楽しむ事としよう。
◇◆◇
泥に沈む様な眠りから浮上する。
緩やかな目覚めは優しい温かさと甘い香り包まれ、微睡みを纏って訪れた。
ゆっくりと瞼を持ち上げる。
目の前にあったのは——美貌。
この世のどんな花よりも可憐で、この世のどんな宝石よりも美しく、この世のどんな星よりも輝く主の姿。
不思議な事に、そこに無闇と抱いていた怖れは露と消え、穏やかな畏敬と愛情だけが心を満たしていた。
ゆっくりと、主の瞼が開く。
覗く深い蒼に引き込まれた。
満天の星を宿した蒼が何処までも広がって——
「……レイエル?」
「っ……」
ユキの声で、我に返る。
目をしばたたかせ視線を合わせると、星空はふにゃりと笑った。
「おはよう」
「……お、おはようケロ」
「よく眠れたかな?」
「ぐっすりケロ」
「そっか」
そう言いながら、ユキは優しい笑みと共に私の頭を撫でる。
昨夜の全能感にも似た何かが、満ち溢れて行く。
今なら分かる。これはきっと、愛なのだろう。
穏やかで、温かで、優しく包み込む様で……そしてなんか酔っ払った様な酩酊感があって思考が止まって全部投げ出して身を委ねてしまいそうな……。
「……これ、大丈夫な奴ケロ?」
「? 何が?」
……まぁ、ユキが大丈夫そうだから多分大丈夫ケロネ。
◇◆◇
僕との魂合を経て、レイエルは明確に変わった。
コレは一つのサンプルデータである。
僕と魂合した事があるのは、ウルル、メロット、レイエルの3人。
その内ウルルは特に変化は無いが、メロットはその後の進化に少しは影響があった可能性がある。レイエルに至っては、明確に視線と一挙手一投足の動きが変わっていた。
それでも若干の挙動不審は見られるが、それがレイエルのベースと言う事だろう。
影響の根源は、レイエルの魂に残存する僕の因子も無関係では無いだろうが、1番は僕の感覚を経験した事だと考えて間違いない。
ウルルとメロットに大きな影響がなかったのは、根本的な才能の部分にそれだけの差があったからだ。
まぁ、レイエルは天才の領域に一歩踏み込む程度の才能で、一握りの才人ではあるが……いかんせん比較対象が悪い。
ウルルは現状僕の娘である事が判明した紛う事なき鬼才以上、メロットもまた飛び抜けた才を持ち、下手をすれば神才と定義したシャルロッテに及ぶだろう。
それらとレイエルを比べるのは、些か酷と言う物。
そんな天才レベルのレイエルがこうなるなら、それ以下の者と魂合したら……いったいどうなっちゃうんだろうとワクワクしてしまうが……まぁ、ある程度予想は付く。
才能が自我を形成する全てでは無い。
だから人格がまるッと変わってしまう子もいれば、全くブレない子もいるだろう。
特に白夜なんかは根っこがしっかりしている筋金入りだから、びびりの見栄っ張り小心者は変わらないだろうと言う安心感さえある。
……だから凡夫なんだよと僕に言われる要因と言えなくも無いかもしれないが、まぁ……才は磨きゆく物だ。
いつまでも凡才に甘んじていられる性分でもあるまいし、いずれは鍛え直してやる事になるだろう。
さて、それでは少し修行を付けてやったレイエルを見て行こう。
昨夜の激戦から一晩、英雄達は気絶するまで絞り尽くした精神力をそこそこ回復させた。
そんな精彩を欠くリターニァをレイエルは余裕を持って抑え、飛来する半分も無い爆炎球と黒槍を迎撃、横槍を排除した上でリターニァを難なく撃破。
続けて足並み揃えて来た英雄達を、流石に面倒だったか水槍を連射して迎撃、隙間を縫って接近していたアガーラを水球に閉じ込め圧殺した。
後は大した憂いも無し、どうにかレイエルを倒そうと迫る弱体化英雄達を水の槍で貫いたり、水球でボコボコにしたり、その他大勢の雑魚の群れを津波で薙ぎ払ったりして、太陽が中天にかかる頃には、城以外の全てを薙ぎ払った。
魂合後の魂の動きのサンプルとしては上々だ。
中々の活性度に瞬発力、一時的な強化でしか無い部分もあるが、残存因子の融合や心境の変化も加味すると、レイエルは一段強くなったと言えるだろう。
それでも、単独で万全のイベント会場を制圧出来るレベルでは無いが……まぁ、レイエルなんてその程度である。
シャルロッテやサンディア、メロット辺りなら或いは可能だろう。
万全なアガーラ3体の攻撃を捌き切れる実力なら制圧は可能だ。
その後の昼食を経て午後、マンツーマンで地力が上がった分の慣らしと、力を十全に扱う為の訓練に時間を費やし、しっかりと休息を取って、明けた翌朝、再度魂合を行なった。
最後にやるのは、イベント会場の更地化だ。
目的は大体の場合イベントポイントを稼ぐ事だが、今回行うのは別口。
と言う訳で、ボスをサクッと捻り潰してコアを摘出、トドメは刺さずに宙に放置して、イベント会場、ドーム場の結界内にある全てを魔力に分解した。
結界外から海水が勢い良く流れ込み、それらも都度分解して行く。
徐々に増加する膨大なエネルギーを水属性に変換、それをひたすらに錬磨。
出来うる極限まで鍛え上げた水属性とレイエル因子を混ぜ合わせ、結晶へと織り上げて行く。
内部に組み込むのは、属性変換と魔力保持の構造。
完成したそれは、後でレイエルの杖に取り付ける。
コレにて、今回の休憩は終了である。




