第26話 空のドライブ
第八位階下位
宮の迷宮に入るや、見えてくるのは黄金都市。
まだ稼働している巨大な歯車に、あちこちを駆け抜ける巨大術式、広く取られた通路に並走する水路、蔦や苔にまみれる石と鋼の家屋が幾つも並び、幾らかの公共施設が散見される。
とても賑やかなその街に、人だけが存在しなかった。
何処となくノスタルジーを感じるその迷宮で、タク達は武器を持ち、警戒しながら周囲を探っている。
ので、ヒョイっと道端に現れ、カーテシーをして見せた。
「おにぇちゃんを発見!!」
「突撃!」
僕が何かを言う前に突進して来たちびっ子達を受け止める。
レベル60クラスの力を余す事なく注ぎ込んだそのタックルは、下手をしたらそこらの迷宮のボスも弾き飛ばせる勢いだが、怪我無き様過不足無く受け止めきった。
ゾロゾロと集まって来る皆が、それとなく僕を包囲し、外側に気を向けているのを感じつつ、皆を労う。
「中位環境迷宮の探索、お疲れ様」
「はぁ〜、効くぅ……」
「染み渡るぅ〜」
「「すぅーはぁー」」
「……ちょうどユキミンが不足していた」
四方八方をちびっ子に囲まれながら、他を制し代表して話しかけて来たリナに対応する。
「……ユキミン…………」
「横空いてまーす!」
「どうぞー♪」
「……ん」
「……話できる人いない?」
樹液に群がるムシケラに成り下がったそれらを取り敢えず置いておいて、今度こそ前に出たのはマシロ。
微笑む彼女に微笑み返し、ようやくまともな会話を始める。
「ユキちゃんがいるって事は、何かあるって事ですね」
「まぁね……この迷宮なんだけど」
そう語り出しつつ、愛属性を多めに出してムシケラどもに餌を供給する。
ざっくりと迷宮の解説をしつつ、ちびっ子+αを撫で回した。
「……成る程、とすれば先ずは地図を埋めてボス部屋を把握、その後各パーティーでボスを討伐、合流して行くのが良いですね」
「そうだね、時間もそう掛からないだろうし、今夜中には制覇出来るんじゃないかな?」
話を続けながら若干焦点の合わないちびっ子達を道端に転がし、次を誘き寄せて処理して行く。
「宝箱を探すのは少々手間がかかりそうですね」
「一応必要とされるルーンとその中身の傾向だけは送っておくね」
「ありがとうございます、お礼に撫でてあげますね♪」
「好きにしな」
僕よりも身長が高い子を撫でる僕を撫でるマシロと言う若干の不自然さを内包する構図は、暫く続いた。
◇
「それじゃあおにぇちゃん! 椅子、温めておくね!」
「ご飯温めてね?」
迷宮内の高級な宿屋に泊まり、それぞれが解散して行く。
アヤを送り出した所で、最後まで残っていたタクが立ち上がった。
「……よし!」
「何も良くないけど?」
宮の迷宮の地図埋めに際して貸し出しのエアロバイクがある事を伝えた時から様子がおかしかったタクが、遂に動き出す。
「……月末まで我慢出来ない?」
「それとこれとは別なもんで」
ふっと鼻を鳴らすタクに、僕は肩を竦めて見せた。
夕食まではもう少しあるとは言え、道に迷って遅れたら問題なので、致し方無し。
「……少しだけだよ」
「そう来なくっちゃなっ」
機嫌のよろしいタクを先導し、近場のスポットに案内する。
見えて来たのは、左右5台、10台のバイクが並んだ屋根付きの駐車場。
風雨に晒されず、自動修復されていたバイクは、古都にありながらも新品同様だ。
「ほほう」
駐車場をざっと見回したタクは、口元に手を当てて、近場のバイクに歩み寄る。
デザインは黄金都市に合わせた、若干成金っぽさがある黄色く塗装された物で、大型バイクと小型バイクの2種類がある。
小型の利点は小回りが利く事で、大型の利点は速度が速く、エネルギーの容量が多い。
タクが近づいたのは大型バイクである。
「ふーん」
「ここにMCが入った物を当てると1万MC引かれて、返す時に消費エネルギー分を差し引いて返還される仕様だよ」
「ほーう」
固定されたそれのあちこちを見回すタクに、聞いてるんだが分からないが少し説明した。
するとタクは徐にバイクに跨り、グリップを握った。
「ふうむ」
乗り心地を試しているタクに、僅かばかりにエアロバイクの解説をする。
「まぁ基本的にはバイクとそう変わらないけど、補助機能として思念波の読み取りもするからより感覚的に操作できると思うよ。機構としては天遊核が中枢に据えられていて、風魔法の出力を操作して移動する形だね。天遊核自体の起動率は思考操作の範疇で、こっちを上手い事操れたら更に加速出来たり上手くブレーキを掛けたりする事も出来るかな。天遊核は高純度の結晶を軸にエネルギーを循環させているから燃料切れみたいな事には殆どならないんだけど、風魔法の方は別途エネルギー源があってそっちはチャージが必要だね。他のパーツは燃料計とか速度計とかはあるけど概ね搭乗者の乗り心地を良くする事を目的としたパーツで、唯一あるのは衝突を回避する為の空気膜を形成する物。コレは都市の全域にも存在していて、二重に衝突をカバーする仕様で——」
「オーケーオーケー、更に速度を上げるには思考操作が重要なんだな」
加速のやり方だけ聞き取る辺り便利な耳である。
「——安全対策は十二分だからヘルメットもいらないし空気膜が常時張られているから気流の対策も不要、一方で武器としての利用を考えたりすると体当たりが風の膜による吹き飛ばしになるから威力減衰は否めないね。後は位置情報の把握がされていてこの都市から出ると置物に変わっちゃうから都市外に持って行く事は基本的に出来ない。迷宮の門を越えられない仕様もあって——」
「いいから乗ろうぜ」
「僅かばかりの説明くらい聞いて欲しいね」
「あーあー、ワズカバカリ聞いた聞いた」
言うや、タクはターミナルでパパッと支払いを済ませ、エアロバイクを起動、さっさと跨ったので、僕も同乗して腰に手を回す。
タクはゆっくりと動き出したバイクを上手い事操って、外に出た。
「おぉー……ちょっと慣性が……」
「無重力に近いからね、そこはブレーキを使って調整するか、まぁ思考操作の方がスマートかな」
「ほーん……思考操作ねぇ」
長い道路を左右にふらふらしながら思考操作を試しているタクは、流石に魔力操作の訓練をちゃんとしただけあり、直ぐにコツを掴んで加速を始めた。
街並みが急速に流れて行く。
緩い空気膜はそこその風を通し、長い髪がパタパタと棚引いた。
次第に離陸。
空に飛び立ったエアロバイクは、摩天楼の隙間を縫い、風そのものになって夕暮れを駆け抜けた。
「ははっ! 最高だっ!!」
水を差すような事は言うまい。
まぁ、暫くは貸し切りの空だ。自由に飛ぶがよろしいよ。
だが時間が来たら念動力で引き摺り下ろす。
そしてその時間は刻一刻と迫って来ているのだ。




