第22話 vs.黒猫
第八位階下位
既に鏡に映った時点で手遅れ。
或いは光速で動けば回避出来ただろうが、光速での活動は現状様々な制約がある。
もしくは空間操作でも回避出来ただろうが、その手の術もなんだかんだ手間が掛かる。
現状の白羅&レイーニャに出来た事は、雷速での回避を試みるか斬撃による空間切断くらいの物で、それを行う間も無く、理となった七不思議に呑まれた。
そして——校舎外に弾き飛ばされた。
……確かに、鏡の世界に引き込まれるという話だったが、これは鏡じゃなくてガラス。
引き込まれた結果弾き出される、言い得て妙である。
まぁ、これで閉じられた淵輾呪窩からのノーリスク脱出が出来たのだから細かい事は気にしなくても良いだろう。
態々黒猫が用意した出口だったと言う訳である。
弾き出された白羅は猫の様な柔軟さで身を捻り地面に着地。直ぐに跳ね上がって屋上に戻って来た。
そこで待ち受けていたのは、七不思議の最後の一つ。
——黒猫だ。
正確には、校舎内に黒猫がいる。と言う七不思議である。
猫が視界の端を通った気がすると言う噂、夕暮れに伸びる猫の影を見たと言う噂、夜に猫の鳴き声が聞こえたと言う噂。
痕跡は無く、ただ気配だけがチラつく。
そんな大した事の無い七不思議。
特段補強らしい補強も無く、攻撃性を持つ訳でもないそれはしかし、七不思議の一つであると言う事が重要なのだ。
白羅は、全ての七不思議に遭遇した。
その事実が、意味を齎らす。
——七不思議は全て知ると禍が訪れる。
これは、7と言う数字が完成を意味する数字だからだ。
畏怖と噂により成り立つ7つの怪異は、全てを知る事により完成を迎え、器を得て猛威を振るう。
まぁ実際には噂程度の物を7つ知った所で微々たる強化にしかならないだろうが、噂が神話レベルまで引き上げられている今、その強度は目に見えて変わる。
加えて、幾つかの怪異の根源が破壊されている為、その分の力が集約する。
何なら、壊されなかった怪異の魂を引き上げたので、実質黒猫一人七不思議である。
淵輾呪窩が解かれ、3本の尻尾を回収した黒猫は、6本の尻尾を揺らめかせる。
実際には内1本が9本分の力を持っているので、実質14本。消耗率はそれぞれ違うので、総合的な消耗は概ね半分程度と言えるだろう。
対する白羅&レイーニャは、淵輾呪窩に捕らわれていた僅か数秒の内に6割程度削られている。
スペックでほぼ同等か上回り、尚且つ2対1なのに消耗率で後塵を排する辺り、黒猫の技量の高さや技の多様さは見事と言えるだろう。
彼女等がどう動くのか見守っていると、黒猫は相変わらず優雅にするりと立ち上がり、変わらぬ流し目で白羅を見下ろした。
「穢れは内に障りんしょう。矢庭に床へ就きなんし」
「最後までお付き合い頂こう!」
「……子守りの手習いと致しいす」
黒猫は気怠げに呟き、刀を抜いた。
◇
再度始まった激しい剣戟はしかし、初手から白羅が劣勢だった。
それも当然で、黒猫は七不思議の禍によって力を増しており、聖獣化白羅のスペックに追い付ける様になっているからだ。
元々技量で劣っている白羅は、これによりやや劣勢に押し込まれている。
加えて、黒猫が七不思議の禍で強化された事により、白羅の体の各所を覆う呪いが強まり、白羅の体を蝕んでいる。
聖の神権や聖獣化で辛うじて対抗しているが、此方も劣勢。白羅はじわじわと追い込まれていた。
幾重の斬撃が交錯し、無数の術が行使され、白い白羅が黒く染まって行く。
果たして——その時は訪れた。
「鵺千夜饗蝕」
黒猫が唱えるや、白羅の全身に掛けられた呪いが急激に侵食を始め、余す事なく全身を包み込む。
猛毒の様に急速に全身を蝕む呪い。
全てのリソースを解呪に注げば対抗は出来るだろう。
——しかし白羅は前に出た。
全身を急激な痛みや苦しみ、疲労が苛んでいるだろうに、白羅は笑い、刃を振るう。
届かぬ位置の斬撃に、黒猫は念の為に距離を取りつつ、斬撃の飛来に備え——
次の瞬間、雷撃が迸る。
飛来する雷の斬撃に、黒猫は刃を合わせ——
刹那、雷撃がにゅるりと曲がった。
聖雷は黒猫の胸部へ直進し——
——閃光。
轟音——
背後へ飛んだ黒猫がしなやかに校舎の壁へ着地し、黒猫に渾身の猫パンチを叩き込んだレイーニャがどちゃりと校庭の土を舐める。
そう、黒猫はこの場に2匹いたのである。
七不思議の強化補正は、その殆どが黒猫を強化したが、一部レイーニャを強化した。
その結果、レイーニャは僅かに黒猫の予測を上回り、黒猫の胸をぶっ叩く事が出来た。
これはこの戦いが始まって初めての一撃である。
白羅の残る力全てを絞り出し、レイーニャの持つ全ての力を込めて放たれた一撃は、見事に黒猫を捉え……黒猫におおよそ3割弱の消耗を与えた。
これで、黒猫の余力は残すところ1割強くらい。
対する白羅とレイーニャはもう無理。
白羅は全身を蝕む呪いで死ぬ寸前だし、レイーニャは渾身の一撃を放った反動で魂がにょろんしている。
即ち……敗北である。
episode.1031_第50話 vs.終焉の白
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