第18話 猫を借りよう
第八位階下位
黒猫とそこそこに戯れた所で、白羅とレイーニャを召喚した。
事前に情報は共有しており、戦いの準備は速やかに終わる。
膝の上でゴロゴロしていた黒猫も、流れる様にゆるり……いやぬるりと立ち上がると、柄に手を置いた。
「胸を借りよう!」
「お好きにしなんし」
紫電を纏う白羅と金月を背負う黒猫が向き合う。
沈黙は一瞬、次の瞬間——閃光が弾けた。
夜が悲鳴を上げたかの様に、甲高い音が鳴り響く。
瞬きの間に小さな金属音が連綿と響き、夜闇を火花と雷光が覆った。
仕掛けたのは、白羅。
自らが格下である事を自認する彼女は、読み合いも程々に黒猫へ斬りかかった。
接敵した彼女等は、その場を一歩も動かずに千刃を交わらせる。
満天の星が地上に降りた様な剣戟は、白羅の身を捻る回避で澱みを見せた。
じわじわと白羅の回避が増え、少しずつ2人の位置が入れ替わって行く。
現状僕の配下の中では最強の剣士である白羅を、単純な技量だけで追い詰める黒猫は、流石の神級剣士と言えよう。
だが、黒猫の手札はそれだけではない筈だ。
果たして——その時は唐突に訪れた。
剣戟の最中、白羅が無理矢理に刃を滑り込ませ、黒猫の下段からの斬り上げを随分早く受け止める。
次の瞬間、白羅の足が浅く切り裂かれ、僅かな血が宙を舞った。
白羅は即座に飛び退り、斬られた足を治癒させつつ黒猫の術を解析に掛かる。
それに対し黒猫は後を追わず、刀を振って血を掬い取る。
「足元には気い付けなんし」
「うむ!」
血をぺろりと舐めながらのヒントに、白羅は頷いた。
その方法はともかく、直感とヒントから答えを得た様だ。
——白羅は足の影を斬られた。
操影術に類似するモノだが、コレはソレよりも更に一歩踏み込んだモノ。
表面だけ見ていては対処し切れないだろう。
まぁ、白羅ならこの術の本質くらい直ぐに見抜けるだろうね。
そんな事を思いつつ、行く末を見守っていると、黒猫が動いた。
「影形代」
白羅の血を舐めた黒猫の影が立ち昇り、小さな白羅のシルエットが宙に浮く。
それへ黒猫は刀を構え——
「鬼哭遷穢」
——刃を突き立てた。
「っ……!」
白羅が眉を歪めた。
目視こそ出来ないが、白羅の胸部を中心に、まるで蜘蛛の巣の様に、または割れたガラスの様に黒い紋様が現れている。
ちょうど、白羅人形に刃が突き立てられたのと同じ位置だ。
それは胸部以外には殆ど影響を成していないが、先程斬られた左足には胸部と同じくらいの紋様が現れていた。
ここまで分かりやすければ、白羅も黒猫の使う術が何なのか理解出来ただろう。
そう、これは縁を辿り攻防を仕掛ける特殊魔術——呪術だ。
精霊や神権に働き掛けて力を行使する物だが、神権から直接力を得れるなら態々縁を手繰って力を使う必要は無いので、うちではあまり使わないが……やはりその道を極めたとなると中々に学べる物も多い。
少なくとも一つ確かなのは、黒猫が使った3つの呪術はどれも細かい神権に通ずる物であるが、黒猫自身に相応の神気を動かした消耗が無い事。
コレは、縁と縁を繋ぎ合わせる事により、神気自体に特殊な反応をさせているからだ。
太陽が上がれば光を伴う。
太陽の神権を動かせば光の神権も自ずと動き出す。
縁を辿り、縁を手繰り、縁を繋ぐ、この呪術と言う技術は、神気操作の根っこにある術であると言えるだろう。
例えば、最初の転移は影の縁を辿り、位置を移し替えたモノ。
白羅が足を斬られたのはそれと同じで、影が己を映すモノである事を利用した、影を斬る事による本体への攻撃。
影形代への鬼哭遷穢とやらは、血を取り込んで縁を繋ぎ、影で白羅を模す事で白羅を指定し、斬撃と言う形で呪いを打ち込んだモノ。
直接的な斬撃では無かった理由は、白羅への縁が薄かったからか、自分の影を利用している手前直接的な斬撃だと跳ね返りがあるからだろう。
おまけに呪いを叩き込む事で、黒猫と縁のある斬撃を打ち込んだ左足にも強く呪いが発現している。
影に血を塗るのでは無く血を取り込んだ理由は、捕食行為で白羅を被捕食者に落とし込む為だ。
幸い、念の為付けておいた聖の神権の効果により呪いは弱体化しているし浄化もされている。だが、単純な呪属性だけではない呪いと言うモノは、清浄化だけでは中々拭い切れない所がある。
黒猫が呪いのスペシャリストで白羅が聖別初心者と言う点も大きく、武術でやや下回る現状では致命傷になり得る要素だ。
「……怖気んしたか」
「まさか!」
そっぽを向き横目で問う黒猫に、白羅は白くなって応える。
白羅のコレは亜神化の類似技術だ。現神化とも言えるだろう。
白羅の持つ現神の信仰を内から引き出し、その神気に半霊化して合わせる事で力を最大限利用する技術だ。
白羅の持つ信仰の属性は、刀、犬、聖が主。呪いへの対策としては有効な一手だが、持続時間に難がある。
仕切り直した所で、第2ラウンドだ。




