第15話 朱天珠玉
第八位階下位
火の柱が立ち昇り、夜空を赤く染め上げる。
噴き上がる様な炎上が少し続き、それが収まった頃、焼け跡には2匹の焦げキツネが転がっていた。
特に睡蓮の傷が深い。
茉莉花に覆い被さって火を防ごうとしたからだ。
また守られて悔しく無いの? くらい声を掛けてやろうかとも思ったが、茉莉花は無様にジタバタ動き出すと、睡蓮に覆い被さった。
ちゃんと悔しい様で良かったよ。
再生に徹する彼女等のピンチを前に狐火達も必死に応戦するが、大駒2つを落とされた今となってはジリ貧もジリ貧、とても勝負にはなっていなかった。
最早趨勢は決まった……いや、決まっていたと言うのが正しいか。
倒れ伏し互いを守ろうとする2人、それを見下ろす朱珠は、癖なのか扇子を開いて顔を隠し、その嗜虐的に歪んだ口元を覆っている。
何人も、人を遊び殺して来た者の顔だ。
邪悪な笑みのまま、朱珠は全ての朱之火弥珠に指示を出す。
抗う狐火達を程々に薙ぎ払い、8体の朱之火弥珠が母娘を囲った。
残りの1体が母娘の真上に立つや、朱珠は酷薄な笑みと共に囁く。
「火弥之星珠」
赤い閃光が朱之火弥珠の間を駆け抜け、描かれたのは八芒星。
中枢の朱之火弥珠に膨大なエネルギーが集中する。
そして——
「——荼毘じゃ」
——世界が光に包まれた。
爆発的な光は一時で収まり、焦土と化したそこには辛うじて生きている2人が横たわる。
間に合ったのだ。狐火達を引き戻すのが。
即座に防御を固め、朱珠の八芒星を受け切ったのである。
まぁ、彼女等は基本臆病だし、スペック的にも強力な配下を作って戦わせて自分は防御に徹するのが理に適っているので、実の所防御力は高め。
主軸たる生成能力には劣るものの、狐火全てを防御に回せば、そう簡単には抜かれ無い。
2人は大分焼死体、ほぼ炭キツネだが、一応生きてはいる。このままだと死ぬが。
母娘がもう戦えない一方朱珠はと言うと、残存魔力量が1割を切り、これ以上の継戦は大きな消耗を伴う物となるだろう、が戦えはする。
つまり、事実上の敗北だ。
朱珠は魔力を消費し切った朱之火弥珠を全て尾に戻すと、死に行く母娘の前に降り立った。
その歪んだ面から何をしようとしているかは分かるが、黙って見守る。
隠し切れない嗤いを扇子で覆い、2人を見下ろした朱珠は、徐に睡蓮の背を踏み付けた。
炭となった皮膚が割れ、焼けて柔になった肉が裂ける。溶けた脂が血と混じって流れ、焼けた肺から空気が漏れ出るだけの微かな呻きが睡蓮の口から溢れ落ちた。
それを知覚している茉莉花は、憤激に魂を震わせるも、体はまともに動きはしない。
ゆっくり近付く死を前に、怒りと悔しさを募らせて、朱珠の蛮行をただ見る事しか出来ない。
「くくっ——」
騒つく魂と声にならない悲痛な叫び、朱珠が堪え切れず嗤い声を漏らした次の瞬間——
——火花が散った。
——朱珠が吹き飛ぶ。
未だに火の手が上がる屋敷を幾らか吹き飛ばして山に激突、木々を薙ぎ倒してようやく止まる。
母娘を救ったのは、三狐。
タマに辛くも勝利し、残る力を振り絞って急行したのだ。
母娘と同タイプの朱珠は、流石歴戦の猛者と言った様子で、三狐の苦し紛れの一撃に余裕で防御を間に合わせた。
朱珠は崩れた木にまるでベッドやソファの様に優雅にしなだれかかり、途轍もなく面倒くさそうな顔で分離し始めた三狐を見下ろしている。
「……面倒じゃのぅ……」
口にも出して言うが、彼女の義体に与えられた残り演算力とエネルギーならば、死ぬまで暴れるであろう三狐を倒し、無抵抗の母娘を殺す事ぐらいは出来るだろう。
死にもの狂いで喰らい付かれるのが面倒なのは確かだが——
《【運命クエスト】『凶魔四皇:朱天珠玉』をクリアしました》
【運命クエスト】
『凶魔四皇:朱天珠玉』
参加条件
・朱天珠玉を討伐する
達成条件
・朱天珠玉を討伐する
失敗条件
・無し
達成報酬
参加者報酬
・スキルポイント5P
参加者貢献度ランダム報酬
貢献度100%
・武器『黄昏の宝珠』
・武器『朱天之珠』
・武器『珠玉之朱』
・スキル結晶『火精創造』
・スキル結晶『爆炎耐性』
・スキル結晶『獄炎耐性』
・スキル結晶『熱耐性』×5
・スキル結晶『灼熱耐性』
エクストラ評価報酬
金月が輝く夜
ダンジョンマスター
ボス『金毛玉狐』の討伐
・スキルポイント35P
・道具『異界迷宮・金月の宮:引換券』
・武器『暁の宝珠』
・武器『陽弥狐』
・スキル結晶『天炎耐性』
——……。
「……うーん……逃げた」
……まぁ、試練としても教材としても反面教師としても十分だったし、良しとしておこう。
正しく狐に化かされた様に、朱珠がしなだれていた木からこの葉が舞い、火に巻かれて夜へ消える。
取り敢えず、死にそうな子の治療とか全力を出し切った子の調整とかをやってしまおうか。




