第14話 火に入り消えゆ
第八位階下位
古き都が炎に巻かれ、炭と灰が舞い踊る。
命だけが無い街が焼かれて行く様は、人の歴史が火に焚べられているかの様だった。
夜を際立たせる豪火が舞う中、動きを見せたのは、三狐。
——3対1でようやく五分弱。
そんな過酷な環境下でも、ミスなく戦線を維持出来ているのは流石僕の配下と言った所。
しかしこのままでは分が悪いと感じていたであろう三狐は、知識と経験と根性を総動員し、戦いの最中で切り札を作り上げて見せた。
そう、精霊化である。
タマの使った奥義、流転陽炎と言う良質な参考資料を見ながら、必死に編み出されたそれは、流転陽炎と同様に狐火達との繋がりを最大限強くし、三狐の力を僅かに増大させた。
だが、所詮は付け焼き刃。
それを成したとてようやく五分。
一度のミスが致命傷から重傷に変わった程度。カバーするまでの間に次を受ければ終わりである。
では、状況をどう打開するのか? その答えは至極簡単だった。
流転陽炎は、狐火と言う己より生じた魂とより強く力を結ぶ為の術。
他者の魔力とは基本的に毒である。故に精霊化により繋がる魂は縁深き者でなければならない。
そして三狐は三つ子。クローンに次いで縁深き者達。
そう、融合合体スーパーキツネちゃん爆誕である。
三つの魂が寄り集まり、肉体担当菫、炎担当牡丹、幻惑看破担当桔梗でより一層の連携を実現、互いの弱点を完璧に補い合い、不足していた練度を補填している。
それぞれ9つの尾は今は3本に変わり、尾一本一本に9つの魂が宿っていた。
速度に追い付ける速度、火力に追い付ける火力、誤差の欠片も無い看破。
三つ子が交わり組み上げられたその力は、流転陽炎のタマを少し上回っていた。
このまま緩やかに追い込み、決着するかとも思われたが、そこは流石の亜神級、少しずつ追い込まれる最中、タマは更なる切り札を切って見せた。
「金光魂合」
迸るは黄金の輝き。
金月と同質のその光は、タマによる一時的に金因への適合力を高める謎の術の効果。
おそらく自己暗示の一種であり、性質的にはシャルロッテの一意専心に程近い物だろう。
勿論、その代償は大きな物となるだろうし、維持出来る時間にも限りがあるに違いない。
まぁ、本体には微々たる影響しか及ぼさないだろうし、決着に向かっているこの状況では稼働限界が短くとも然して問題は無い。
最後の、その一瞬まで、強敵として君臨してくれると言うサービスである。
金光を纏うタマは、その基礎能力を爆発的に増大させ、追い込まれた状況を少しずつ覆して行く。
これは、お互いのエネルギーが尽きるまでに、タマが盛り返すか、三狐が抑え切れるかの死戦なのだ。
一方、母娘の方はと言うと、朱珠の采配に見事に踊らされていた。
もっと言うと、朱珠は戦場を見下ろして、各朱之火弥珠の消耗状況等の情報を共有しているだけ。
その連携は既に磨き上げられた物であり、指示を出していたのも最初だけの事だった。
完全な高みの見物で、朱之火弥珠が母娘達を翻弄するのをケラケラ笑いながら見下ろしている。
そうと思えば、不意に朱珠が指示を出し、2つの朱之火弥珠がゆるりと移動する。
朱之火弥珠達がちょうど茉莉花を挟む位置に付くと、朱珠は懐から扇子を取り出し、コンッと床を叩いた。
「火弥之打針」
囁く様にそう言うや、朱珠の力が縁を通じて2体の朱之火弥珠に宿り、刹那——閃光が弾ける。
2体の朱之火弥珠を結ぶ様に、迸るのは炎の一閃。
それは戦いに勤しむ茉莉花の両足を貫き、風穴を開けた。
怯む茉莉花へ更なる追撃。
コンッと小さな音が鳴り——
「火弥之散華」
——戦場に赤い華が咲く。
茉莉花と戦っていた朱之火弥珠が、怯んだ茉莉花へ張り付き、爆発したのだ。
幸い茉莉花は足をぶち抜かれてびびって縮こまり、防御に力を使っていたので、炭になりはしなかったが、肺まで焼かれて地面へ倒れ込んだ。
そんな茉莉花の危機を察した睡蓮が、朱之火弥珠と戦いながら戦場を移動し、次の瞬間、火花が散った。
「火弥之穿矛」
鋭い三角を描く様に布陣していた朱之火弥珠。後方にいた2体から針が弾け、頂点の1体を通してそれを増大、巨大化した針、矛が、睡蓮の細いウエストの8割を消し飛ばした。
倒れ伏す母娘を今度は4体の朱之火弥珠が囲う。
朱珠はニタリと酷薄な笑みを浮かべ——
「火弥之天翔」
——火の柱が夜空を赤く染めた。




