第10話 vs.ルーミラ&エスカータ
第八位階下位
「望み通り、最初から全力で行くわよ」
そんな宣言と共に、ルーミラは不敵に微笑んだ。
——出でるは黄金の月。
金月の加護を受けたルーミラは、赤い瞳を一層赤く染め、サンディアを見つめた。
「♪!」
一方サンディアは、両目の色を変える。
月煌宮に白と蒼の月が輝いた。
白と蒼、リーリウムとヴァンディワルの力の付与。現状サンディアだけで出来る最大の強化だ。
「ふ、神格を降ろせるなら神と何ら変わらないわね」
パサリと不敵に髪を払い、サンディアを指差す。
「ヴリコラカス」
刹那、ルーミラが闇へと変じて消え去り、街全体が無明の闇に包まる。
闇の中から黒い狼の群れが次々と顔を出した。
ルーミラが持っていた装備の一つ、指輪の力だ。
骨を削って作られた指輪が後から変質した物で、見た目は石の無い黒い指輪である。
因子を読み解くと、色んな事が分かる。
ルーミラの詳しいルーツは分からないが、ルーミラには闇属性の精霊としての性質がある。
と言うよりも、そちらの方が本質に近いと言うべきだろうか?
闇属性に高い素養を持つ者が、吸血鬼になった。
これは格落ちに見えるが、単に力の引き出し口が吸血鬼の形をしているに過ぎない。
その骨の指輪は、そんなルーミラが闇の眷属として使役した狼の一族、初代の遺骨を用い、死した狼達の魂を込め、ルーミラの闇の力で錬磨された、神器級の代物、のレプリカだ。
「〜!」
ルーミラが展開した闇の領域とそこに蔓延る狼の軍勢へ、サンディアは楽しげに飛び込む。
『ふ、何処までも武人ね……意気や良し、来なさい……!』
確かに、今のサンディアなら力技で全部吹き飛ばしたり闇を全部浄化したり出来ただろうが、僕が何も言わずとも敢えて突っ込んで剣を振り回す辺り、サンディアは武人である。
楽しそうでなによりだよ。
そんな感想を抱きつつ、無数の闇の狼と激しい剣戟を繰り広げるサンディアを見ながら、ルーミラへの理解を深めて行く。
ルーミラの武器、キャス・ウィングスについてだ。
パッと見て分かる事は、これが何らかの猫型魔物の爪をベースに作られた武器であると言う事。
詳しいルーツは分からないが、猫と言えばこの次か最後が猫のプレートである。それと関係があるかもしれない。
闇色の剣を詳しく見るに、闇属性への適正が極めて高く、シンプルに強靭である。
その因子の構成から紐解くに、ルーミラが闇の力で強靭な猫の爪を調伏しようと何度も挑戦した痕跡が見て取れ、その度に爪は闇を啜って力を増していた様である。
何とか爪の支配に成功した後は、長い事闇の剣としてルーミラに振られていた様だが、その後猫の本体と接触し、改めて力を与えられた様だ。
闇の剣は闇そのものになれるルーミラと極めて相性が良く、やろうと思えば変幻自在にして縦横無尽に刃を振るう事が出来るだろう。
神器級の連撃が出来る次点で似た系統のフォーレンの上位互換だし、斬撃の威力と言う点で見るとウェンザードの上位互換でもあるし、出せる速度と威力を見ればセバスチャンの上位互換で、何なら練度を見ればレミアもリアラもアスフィンも上回っている。
総合力的には今のリーリウムとヴァンディワルでも戦う事は出来るだろう。
サンディアならば優に勝てる相手だ。
後は如何に手札を切らずに戦えるか。
まぁ、サンディアならば放って置いて良いだろう。
サンディアとルーミラが楽しいチャンバラに興じている一方、蟹達は波間でキャッキャしていた。
まぁ、波間と言うか弾き飛ばされた海が帰って来てはまた弾き飛ばされる津波間だが。
両者一歩も引かず激しく殴り合う剛と剛の激突。
サンディアとルーミラが余波を最小限に見事な戦いを展開するのに対し、此方は余波を気にせず派手な衝突を続けている。
大雑把なのは間違いないが、その実激突の瞬間には極めて繊細な領域での攻勢意思の衝突が起きている。
価値のある戦いが出来ている様でなによりである。
そんなエスカータをざっと見た所、どうやら長い事極寒の海域と海底火山を行き来し、星のエネルギーを保因する精霊を爆食していた様である。
知性の欠片も無い時代から美味しい星の因子を喰らう為、灼熱の極限環境に耐えられる様に氷の精霊を喰って因子を貯蔵し、星の力を持つ火の精霊を堪能し、また氷の精霊を喰い、そうこうしてる内にいつの間にか化け物になっていた。
極寒にも灼熱にも強い肉体を手にしたエスカータは変わらずの食事を続け、火山が休止すると別の火山に赴き、その内地上にも進出して島巡りを行った末人に見つかり、神として崇められたり噴火で島民が全滅したり色々あった様である。
2人の激しい闘争と属性力の衝突は海を弾くには留まらず、沖へどんどん進出しながら、海を蒸発させて大地を溶かし、また氷結させ、雷が迸り、突風が吹き荒れ、さながら嵐の様相を呈している。
此処は迷宮と同じ様に閉じられた異界だが、整備された環境が完全に崩壊して消滅するのに数分と掛からないだろう。
なに、世界の壁を穿つには足りないので、異界の中で何とか収まる筈だ。多分。




