第9話 鵺の集会場再び
第八位階下位
ふらふらするローネリアを労い、ベチョっとするシスターアルメリアを労い、ピタッとくっ付いてくるクラウを労い、シャルロッテを足蹴にして、2頭身アウラを撫で繰り回し、三巨像さんやルクスにご苦労様と声を掛け、三天使をよしよしし、リブラリアを撫で撫でし、頑張った皆にしっかり休憩を取らせた。
僕も万全に回復した所で、次に向かったのは、リソースの確保だ。
保留にしていた迷宮、『鵺の集会場』の攻略である。
到着したそこは、相変わらずの夜の学校。
魑魅魍魎が跋扈するそこを軽く見回り、解放されている六角プレートの前で立ち止まる。
少し前に一つ目をクリアしたので、残すは猫、狐、甲虫の六角プレート。
目の前にあるのは、甲虫の六角プレートだ。
となると、相手は巨大な虫か、或いは精強な甲殻人だろう。
然らば、此方が出す手も限られる。
具体的には、同じ虫系か甲殻人が良いだろう。
果たして——
六角プレートに触れ、転移した先は、街と海の境目だった。
眩しい程の月光に照らされる海は何の変哲も無く、どこまでも広がっている。
見上げた街は、白く塗られた石造りの街。所々にある青い屋根が綺麗で、まるで空を見上げている様だった。
不意に、黒い風が吹いた。
白い街を駆け抜けた風は、渦を巻いて収束し、そこには1人の女が立っていた。
やや燻んだ銀色の髪に、血の様に赤い瞳。
黒いゴスロリ衣装に包まれた肌は白く、細い。
少女は切れ長のつり目で僕を一瞥すると、ツーサイドアップの髪を払い、自然な動作で顔を逸らし、僕を見下ろした。
「……随分待たせるじゃない」
「忙しかったからね」
「ふん」
ナイト・ヴァンパイア・エンプレス ルーミラ LV680
彼女は僕が鑑定したのを知ってか知らずか名乗りを上げる。
「私はルーミラ。ただのルーミラよ」
「僕はユキ、よろしくね」
「知ってるわよ。有名だもの」
「僕だからね」
なんか神様界隈でも有名人らしいな。流石僕。
呆れた様に此方を見下ろすルーミラは、徐に海を指差した。
「まぁ、此処のメインは私じゃないから、精々見てあげなさい」
そんな事を言いつつ指差す海に視線を向けると、そこには渦潮があった。
渦潮は瞬く間に肥大化し、海を飲み込んで行く。
暴き出された海底に、仁王立ちする巨大な影が一つ。
マルガレア・ホロウ エスカータ LV680
そうと認識した次の瞬間、冷気が吹き抜け、見渡す限りの海が凍り付く。
ばっと跳ね上がったエスカータが、僕の前に降り立った。
——甲殻人だ。
真っ白な装甲に僕の2倍はある巨躯。
全体的に刺々しい装甲に腕が2本。一見してどんな虫が元になったかは分からない。
感じられる属性は火と氷が強く、次点で水、ほんのり風、そして僅かに雲と雷。メインは火と氷の2属性だろう。
エスカータはじっと僕を見下ろした。
「……」
「……」
「……よ」
「……よ?」
「……ん」
「……ん?」
「まともに会話しようとしても無駄よ」
「無駄なのかー」
「……むだ」
さては蟹の系譜だな?
基本的に情緒が無くて会話を重んじず、結果に向けてストイックだが何故か時に頑固。
まぁ何でも良いが、問題は彼等の練度とアバターのレベルである。
今までの感覚値から言って、おそらく亜神級の実力者と見るが、取り敢えず聞いておこう。
「神名を聞いても良いかな?」
「ふ……私は夜麗神よ」
「……」
ふふんと髪を払いそう言う彼女の横で、エスカータが腕をクロスした。
やっぱり神では無いらしい。
「強い武器や防具はある?」
「……み」
「ふ、来い、キャスウィングス!」
エスカータが我が身こそ矛にして盾と肉体を見せ付けるに対して、ルーミラは相変わらず気取った様子で髪を払い、手を前に出した。
呼び掛けと同時にルーミラの胸元から闇の粒子が溢れ出し、現れたのは一本の剣。
漆黒の剣身を持つ大剣、若干の反りが入っているそれは、闇属性に特化した神器級の代物である。
キャスウィングス・レプリカ 品質S レア度8 耐久力S
備考:闇の獣の爪を用い、高貴なる夜によって鍛えられた剣のレプリカ。
中々悪く無い。
防具や肉体の質、実力面から見ても、戦闘力はざっくり750分はあると見て良いだろう。
そして彼等には黄金の月と言うバフもある。
相手にとって不足無し。
呼び出すのは、サンディアとクリカだ。
召喚に応じて現れたサンディアは、瞳をキラキラに輝かせ、剣をブンブン振り回す。
一方クリカは僕の意図を汲み、甲殻人型に変身、背中にくっ付いていたマルボ君は結晶宮に取り込んだ。
「ふ、妥当な配役ね」
「……♪」
吸血鬼2人が向かい合い、互いの剣を構える。
「……」
「……」
甲殻の戦士達もまた、その拳を構えた。
さぁ、報酬は何かなー?




