第7話 役得
第八位階下位
シスターアルメリアの試運転は問題なく進んでいる。
相手は、アンドレアとヴィオレッタのペア。
再生特化の狂戦士と治療特化の魔術師のペアであり、良くつるんでいるのが見られる粘り強く喰らい付いて来るペアである。
そんな相手にシスターアルメリアは光翼と光輪を出し、優雅に回避と防御と攻撃を繰り返している。
敵の全てを出し切らせ、その尽くを凌駕して行く事が最大の修行になるので、その調子で頑張って欲しい。
一方クラウリア。
彼女の相手は、ヴァーミュラーことタダト君と、蘇生治療担当のシスカ。
タダト君の鋭く堅実な連撃を前に、クラウはお得意の操糸術で光の糸を操り、その場を一歩も動かずに戦っていた。
空間に糸を張って動きを阻害したり、網を放って回避や連撃を余儀なくさせたり、無数の鋭い糸を操って体へ突き刺して操ったり魔力を奪ったりと、単なる操糸術でも多彩である。
神器級の支配装備である天ノ糸を使わず、光輪の援護ですら程々に抑え、自前で編み上げた糸を行使して戦っているので、様々な方面での修行になっている。
ローネリアの方は、エミリーとエブラィジュのペアが相手だ。
エブラィジュが演奏魔法や歌唱魔法、舞踊魔法でエミリーを強化し、ローネリアへ弱体化を仕掛け、おまけで時々音撃を仕掛けて来る中、意外にも色々な能力が高いパワータイプのエミリーと斬り結ぶ形で戦いは進む。
多彩なエブラィジュの術には自己を強化する事で対抗し、竜狩りの為に多様な技を使うエミリーには同じく多様な技で対抗する。
ちょっとしたスパーリングには程良い2体であると言えるだろう。
他方、三巨像さんの相手は、防御術特化のアルベルト、影の王タンブラ、魔法特化のギラン。
アルベルト君がひたすらに防御し、タンブラがその汎用性の高さを活かして援護を行い、ギランが無数の魔法を詠唱して攻撃する。
そんなチームに対し、三巨像さん達は敢えて一方から攻め、敵の弱点では無く強みへ正面からぶつかって行った。
生じる無数の盾を次々粉砕し、隙を埋める影の妨害を迎え撃ち、飛来する炎を防ぎ、払い、斬り捨てる。
激戦の後とあってもまだ三巨像さん達には少しの余裕があり、順繰り交代しながらアルベルト達へ攻撃し、自らを追い込んでいる様だった。
強者達が連戦の中優雅に戦っている一方で三天使達はと言うと、僕が作った熾天使級ドールと死線を繰り広げている。
能力が近しく程良く精強で能力が伯仲している兵士達と、何時間も剣戟や法撃で戦っている彼女等は、既に精神力も限界近く、実に良い苦戦を出来ている。
次は聖浄のパンテオン。
きっちり整備された熾天竜君は、本日2度目となる同格の熾天使級ドールと戦い、程良く苦戦を経験出来ている。
三天使との違いは、彼が一から僕に作られた存在である点で、終始落ち着きがある。
人生経験もとい竜生経験の不足とそれに比した戦闘経験の過多が生み出す余裕は、戦闘に置いては利点でもレベル限界と言う点で若干の欠点である為、今後の皆との交流が重要となって来るだろう。
仲間の天使や天命獣達は、レベルの上では少しだけ格上のほぼ同格を相手に激戦だ。
まぁ、ドール達なんてレベルが少し高かろうが技量はそこそこでしか無いので、強敵と言うには些か不足である。
そこら辺調整が必要だろう。
取り急ぎ、うじゃうじゃいる全てのドールに情報を送信した。
若干の手間の割に強者達には大した効果が無いのが残念な所だが、これで天使達のちょうど良い鍛錬相手になった事だろう。
それじゃあ僕は寝る。
◇
まだ夜明けには遠い頃、中程度の回復を得たところで、僕は目を覚ました。
夜空に輝く月が穏やかに島を照らし、仄かに吹く柔らかな風が草木を揺らしている。
僕はぐぐっと伸びをして、周囲の状況を窺った。
どうやらシャルロッテはあの後、皆を熾天使級ドールと戦わせたらしく、英雄級の敵がセフィロタス一派とゼンゼムしかいなくなっていた。
中々無茶をさせる物だが、トップクラスの連中にはちょうど良い相手になっただろう。
味方の疲労の度合いから、三天使は最後に熾天使級ドールと3対1で戦ったらしく、気力を振り絞る様な戦いを制した様だ。
天使達も追加で強化ドール達と連戦した様で、まぁまぁな苦戦を経験出来ている。
また、戦場はセフィロタスの侵食が進み、島の半分とドールの半分が樹木に呑まれた様だ。
夥しい数の低レベルな樹木の獣が発生しており、少し残念な事になっている。
取り敢えず、残ったドール達から熾天使級ドールの生産と、残念な樹木獣達の改造をするのが良いだろう。
早速寝転がりながら制作活動を始めると、間も無く白い影が歩み寄る。
ルクス君だ。
「……」
『ルクスとアシュレイより、ユキ様にご挨拶申し上げます』
傅くルクス君に代わり、アーシュが挨拶する。
「うむ、おはよう」
僕は微笑みそれに応えた。
ルクス君、緊急出動に備えてずっと待機していただけなので、さぞや暇だった事だろう。
一応アーシュと共にそこそこの手慰みはしていた様だが、戦わずに余力を残しておかないと行けないとなると、いっそ余計に気疲れしたかも知れない。
「ご苦労様、今日もよろしくね」
「……」
『ありがたきお言葉にございます』
そこはかとなく労い、戻る様に伝える。
すると、次に現れたのは、シャルロッテとおまけのアウラ。
「……ユキ様、本日も御機嫌麗しく」
「シャルロッテもご苦労様」
「はっ、全ては神様の御心のままに」
視線を伏せ、僕を直視しない様にしていた彼女を労うと共に、ちょっと足をハンモックから投げ出して見せると、シャルロッテは躊躇なく僕の足を見つめた。
足なら見てOKと言う謎理論は一体何なのだろう。
戦場の改造を進めつつそんな事を考えていると、不意にシャルロッテがはっと何かに気付いた様な顔をした。
「……シャルロッテの考えが及ばす、申し訳ありません」
「?」
何か言い始めたシャルロッテにチラリと視線を向けると、彼女は徐に僕の足に近付いた。
「どうぞ、シャルロッテで俗世に降り立ち汚れた神様のお御足を御拭きください」
そんな事を言いつつ、僕の足に体を擦り付けて来るシャルロッテ。
何言ってるんだコイツ。役得とかじゃないし僕の足より鼻血を拭け。
そしてアウラは僕の事を白い目で見るのをやめろ。
とは言え変態の労いにはなっている様なので、取り敢えず好きにさせる事にした。
そうこうやってる内に、次に現れたのはリブラリア。
「……」
彼女は目を丸くして僕の足に体を擦り付けるシャルロッテを見下ろし、沈黙した。
すると口を開いたのはシャルロッテ。少し息を乱しながら、リブラリアへ注意する。
「……はぁ、リブラリア、ふ、神様の御前ですよ。ご挨拶なさい」
「え……わ、我が神、秘中にご挨拶申し上げます」
「うん、ご苦労様。あと秘中じゃないから」
秘中なのか? シャルロッテ的には秘中かもしれない。鼻血拭け。
珍しく困惑するリブラリア。
なんか放って置いたら永遠に終わらなさそうなので、取り敢えず指示を出そう。
「皆、下がって良いよ。戦いが始まるまでゆっくり休んでね」
「はっ、我が神の御心のままに」
「はぁ、ふぅ……神様の御心のままに」
寧ろ足に擦り寄ってる方が疲れが取れるまであるかもしれないが、絵面がちょっと正気じゃないので此処までだ。
……まぁ、踏むだけで喜んでくれるならコスパも良いし、天界を下したらご褒美に踏んであげるとしよう。




