第3話 ユキミン注入
第八位階下位
色欲の神気を利用した物である事が望ましい。
サキュバスの特性に近しい物である事が望ましい。
彼女の持つ歴史に即した物である事が望ましい。
以上の3点から生み出されたユニークスキル、それは——『弸天元渺茫母胎』。
概要的には、何かを産み落とす母胎となるユニークスキルである。
その実態は、魂魄内に一つの世界を形成、そこにエネルギーを投入し、備え付けられた様々な術式、ツールを駆使して望む形に成形、魔法や眷属として誕生させると言う物。
要は劣化加護の一種である。
ただ母胎と誕生と言う概念を付け加える事で色欲の神気を容易に取り込む事が可能であり、生物とは生きる魔法であると言う真理を加える事で魔法も形成出来る万能工場。
そんな訳で、ツァーラムの魂魄にスキルを構築、細かい調整……と言うには些か大規模工事を経て、スキルを定着させた。
祭壇の如き白いベットの上で、多数の研究者やツール達、またサキュバス達に見守られながらすやぁと眠るラム。
僕は『弸天元渺茫母胎』の未起動時の働きを見つつ、隣の姉妹達に声を掛けた。
「次は?」
「はいはーい!」
「レムの番のよー」
「……」
真っ先に元気良く手を上げたツァーリム。
早速別の祭壇に寝転んだ彼女を眠らせ、魂魄内に術式を形成して行く。
一意専心シャルロッテに琴乃チャンや紫藤クン、ワタヌキ兄等の便利ツールを駆使して、僕の演算は最小限に構築。
つぶさに見守り記録を残すクリプトシークやグラシアの研究者達を横目に、全ての工程を分かりやすく見せながら進めて行く。
「何と美しい構築、流石は我が君」
「色欲の神気専用の回路って事よね? 縁によるコントロール、これだけの過密さは流石神気なだけあるわ……」
「ふむ、この情報圧、神血に近しいのではないか? その方に詳しくない故我では何とも言えんが」
「ナハトロンが何だか頭の良さそうな事を言っているのだわ!? ナハトロンはこっち側の筈なのだわ!」
「神気の緻密なコントロール……一体どれ程の……」
一部見るのを諦めているアロカントがいるが、概ね力の動きは見えている様子。
少しでも学びになるなら本望である。
リムがすぴぃと寝るのを見下ろし、健康な魂の動きを見ながら、次を促す。
「次」
「今度こそレムのよー」
「……」
「ゅ?」
前に出ようとしたツァーレムを、手で制しツァールムが前に出る。
「年功序列はナシなのよー」
「黙るのです」
ルムは後ろ手にレムの頬をガシッと掴み、物理的に黙らせる。
そのまま僕を見つめ、口を開いた。
「そのスキル、埋め込ませてやっても良いのです」
「じゃあこっち——」
手で祭壇を促す僕に、ルムは食い気味に続けた。
「——ただし! 実験に付き合ってやるのだから相応の対価を要求するのです」
「こしょくにゃにょよー」
「黙るのです」
僕は肩を竦めて見せた。
ルムのこう言う厚かましい所は別に嫌いではないがね。
確かに、せっかくだから姉妹にぶち込もうと考えたのはその成長の為だけでは無い。
勿論成長は第一だが、神気を利用した神級スキルの定着実験と言う面も大きい。
こう言った物はサンプルが多ければ多い程良いのだ。
その点で言うならこの姉妹は、鬼才天才偉才俊才と上手い具合に段階が別れている。
実に都合の良い……実験対象。
偉才と俊才には施したが、鬼才と天才を外されては意味が無い。
自分達の価値を良く分かっているじゃないか。
僕は微笑んだ。
「聞くだけ聞いてあげる」
あくまで主導権は此方だと示しながら、先を促す。
するとルムはレムから手を離し、少し前に出て無い胸を張った。
「ユキの因子を要求するのです。4人分」
「流石お姉様のよー、よっ、交渉上手のよー」
すかさず勝ち馬に乗りに行く賑やかし担当レムは置いておくとして……ふむ、資源的な観点から見ると大した要求では無い。
問題はその用途だ。
魔術利用するのなら構わない、自分に混ぜて進化を促すのも良いだろう、だが、『弸天元渺茫母胎』に構築した術式を考えると……ちょっと論理的にとか優先度的にとか問題が生じるよね。
「構わないけど、誰かに背後から刺されても文句は無いね?」
「そうのよー、お姉様は愚かのよー」
「ふん、そんな事をする奴はユキが叱るから良いのです」
「そうのよー、やる奴が愚かのよー」
ギュンギュンに手のひらドリルを回しているレムは置いておいて、そっと指先に高純度の僕因子を集める。
「因みにだけど、用途は?」
「黙秘なのです」
「ご飯のよー」
色気より食い気なレムはともかくとして……まぁ、ルムの性癖を鑑みると無体な事にはならないだろう。
万が一何かをしでかしたら僕預かりの面倒事が増えるだろうが、その時はその時である。
それに……僕の因子取り込むと人によっては多幸感に包まれたり酩酊状態になったり無闇と強気になったりする事もあると聞くし、そう言う用途だろう。
僕因子を送り込みながら、ルムを祭壇に寝かせる。
「じゃあ、寝な?」
「ふへぁ……」
急激にぐるぐると目を回しながら眠りにつくルム。
お望み通りさっさと構築を済ませ、ついでに姉達にも僕因子を注入して振り返ると、レムは既に祭壇に寝転んでいた。
無駄にキリッとした顔でサムズアップする彼女へ歩み寄り、眠りにつかせる。
「ふにゃぁ……」
「良い夢を」
さてさて、イベントまではあと少し時間があるし、次のタスクを片付けようか。




