掌話 燦然と戦果 九
第四位階中位
一見して敵の木製砦は、木壁と乱杭と逆茂木で守っていた村よりも防衛力が高く見える。
「状況はどうだった?」
兄貴の問いに、先ずは俺が口を開いた。
「北側は木壁と空堀のみ。崖までぴっちりと壁と堀があったよ」
続けて、南に行った姐さん。
「南側も同じね。壁の上には鼠が巡回してるし、綻びらしい物も無し」
そう言って、姐さんは肩を竦めて見せた。
崖沿いに存在するこの砦は、半球状に木壁と空堀が展開されている様で、南にも北にも道が無いとなると、後は正面の橋と門のみとなる。
「うーん」
兄貴が唸る。
幸にして兵器みたいな物は無いが、敵には遠距離攻撃手段が多彩で、そんな所に橋で密集して突撃なんかすると集中砲火を受けて酷い目にあうだろう。
つまり、打てる手は限られて来る。
山を迂回して崖上から攻める手もあるだろうが、投げ物には限りがあるし、降下するにはロープがいる。
仮にロープが十分にあっても、降下中に蜂の巣にされるだろう。降り切っても数が少ない内に各個撃破されるのが目に見えている。
投げ物が十分あれば一方的な攻撃が出来るんだがなぁ。
……そうなって来ると——
「……正面から行くっきゃない、か」
コクコクと皆が頷く。
「作戦を練ろう」
さてさて、どう攻めようかねー?
◇
大雑把だが、作戦は決まった。
先ずは俺がデモンズブーストで敵地へ単身乗り込み、出来る限り壁上の弓兵や魔法兵を倒す。
その陽動の隙に、レベルが40以上の精鋭15名が突撃。橋を越えて門を破壊し、敵本陣に攻撃を仕掛ける。
十分に場を荒らした所で、本隊となる低レベルだが数の多いプレイヤー集団80人が突撃、殲滅戦を仕掛ける。
あくまで俺の陽動は精鋭への集中砲火を減らす事で、重要ではあるが必須では無い。気楽に行かせて貰おう。
兄貴の合図を経て、前へ駆ける。
「デモンズブースト!」
その叫びと共に、白いオーラが発生し、身体中に力が溢れる。
急速に加速。空堀の端から跳躍した。
木壁に覆われていた視界が、バッと開ける。
見えたのは、幾らか立ち並ぶ建物と無数のネズミ。そして崖側にある大きめな洞窟の入り口。
——ボスはそこかッ。
そうと思いながら、着地。
棍棒で周辺にいた雑魚の群れをぶっ飛ばし、踵を返して壁上へ飛び乗る。
さぁ、ボコボコの時間だぜぇ。
目前にいた布の投石器持ち雑魚ネズミへ振り下ろし、続けて弓持ちの上位雑魚ネズミへ振り上げ、そう広く無い壁上通路に立ち並ぶ雑魚共を当たれば幸いと薙ぎ払って進む。
門を守る為か敵の密度が濃く、北から南へ駆ける僅か数秒の内に50は始末したか、突如その声は響いた。
「クラウドハンマー!」
一の高い声。
続けて轟音。
門が壁毎ぶっ飛ばされ、幾らかの土砂と共にネズミ達が宙を舞う。
それに気を取られて後ろへ振り返ったのが——功を奏した。
木片と土煙とネズミが舞い上がる光景を背景に、此方へ宙を這う様に滑る影。
大型のネズミ。
——ジェネラル!
その振り上げられた剣に、棍棒を合わせた。
——ガンッと鈍い音。
ジェネラルの手から離れた剣は砦の中へ吹っ飛んで行き、着地したジェネラルへ薙ぎ払い。
ドグシャッとえぐい音を立て、ジェネラルは錐揉みしながら壁外へ吹っ飛んで行った。
「あぶねぇ」
格下とは言え、後ろから奇襲されてたらやばかった。
デモンズブーストを解除し、門の周辺で鬨の声が上がるのをBGMに少し心を整える。
「……さぁーてぇ?」
さっさと合流したい所だが、本隊の為にももう少し壁上を掃除しておこうか。
「サモン」
現れたのはレッサーウルフロード。
「援護を頼む」
「ウォン!」
スピードも早いし攻撃力も耐久力もある、体もデカめで、安心感のある頼りになる奴だ。
「行くぞ!」
「ウォォーン!」
——駆け出す。
此方へ弓や杖を向けるネズミ達目掛け、狼が先行し、一息にそれらを薙ぎ払った。
駆け抜け様に生き残りをぶっ叩き、息の根を止める。
狼が上位種の首を食いちぎっているのを横目に、雑魚共をボコボコ薙ぎ払い、撃ち漏らしは狼が片付ける。
感覚的にはデモンズブースト時よりも必死だが、殲滅速度はそれをずっと下回っている事だろう。
そうこうやってる内に、後方から更に大きな鬨の声が上がる。
本隊が攻撃を開始したのだろう。
そろそろ戻っても良い頃合いだろう。
「サモン」
召喚したのはアサシンキャット。
赤黒い体毛の猫で、名の通り暗殺特化のやべぇ奴だ。
「行くぞ」
そう声を掛けた次の瞬間、アサシンキャットが此方に飛び掛かって来た。
「うぉ!?」
ドンっとそこそこの衝撃。
よろめいた刹那、壁の一部が弾け飛んだ。
振り向いたそこにあったのは、一本の矢。
「っ! どこだ……!?」
射線なんて読めないもんで、砦内部を見渡す。
「ウォン!」
「シャー!」
即座に、狼と猫が駆け出した。
場所は分からんが、この矢は明らかに雑魚の矢とは格が違う、最低でもジェネラル、下手をしたらキング級だ!
2匹任せには出来ないし、放置も出来ない以上、俺も行くしか無い……!
「サモン!」
致し方ないので、新しいネズミ以外の全てのモンスターを召喚した。
マリオネットには馬に乗って射撃に注力、矢の数が限られるから上位種雑魚ネズミを狩って貰う、鷲はその援護だ。
超巨大化した蜥蜴には、その耐久力を見込んで囮として暴れて貰い、粗末な荒屋と雑魚ネズミを駆逐しながら進んで貰う。
新しく入ったネズミは、まぁ……見た目的に高確率で背後からプレイヤーに斬られるので、今回の所は見送りだ。
「行け!」
一声叫んで駆け出し、狼と猫を追う。
追い付くにはデモンズブーストを使うしかない。
こればかりは仕方ないので、モンスターカードの延長用に買い足したマナポーションを使おう。
どのみち大した量の回復にはならないし、こう言う事も含めての緊急用マナポーションだ。




