掌話 燦然と戦果 四
第四位階中位
拓かれた野原の中、灌木を擦り抜けて、それ等は突如、現れた。
「ちゅー!」
「ちゅちゅー!」
それは正しく、津波と形容するに相応しいだろう。或いは土石流。
茶色いネズミの大群が押し寄せる様はまるでに現実感が無く、思わずたじろいてしまいそうになる。
そんな土砂崩れに見紛うネズミの群れは、しかし目論見通り乱杭や逆茂木をすり抜けるにあたり、減速した。
木壁の足場から石が次々と投じられるのを尻目に、障害物地帯を抜けたネズミ達が顕になる。
大きさは、ざっと膝丈より少し大きいくらい。
ネズミとしてはそれこそ最大の齧歯類、カピバラの体高程もある。
四足で走っていたそれ等は、障害物エリアを抜けるや立ち上がり、口に咥えていた木の棍棒を手に持ち此方へ迫る。
その中には、腰程もある大型の個体が混じっており、それ等は革の鎧と錆びた武器で武装していた。
「行くぞ!」
『召喚!』
ナルの兄貴の声に合わせ、モンスターを召喚する。
さぁ、何処までやれるかね?
◇
召喚と共に全線へ駆け込んだ足の早い連中。
それらは、障害物エリアを抜けたネズミ達を瞬く間に殲滅した。
——まさに鎧袖一触。
レッサーウルフロードに進化した狼達は、標的に噛み付けばそれを容易く噛み砕き、体当たりでは複数の標的をぶっ飛ばし、駆け抜ける足が当たっただけで致命傷を与える。
他にも、戦場を高速で駆け回る大根が、上位種と見られる大型の個体をピンポイントで蹴り殺しまくったり、うちの鷲や猫や蜥蜴が次々ネズミ達を鉤爪で切り裂いたりしまくる。
そうこうやってる内に後続も追い付き、外に出て来たプレイヤー達も参戦して、ネズミ達を一掃して行く。
多分だけどネズミ達、レベル一桁の初級ダンジョン並みだろう。
大型ネズミはそのダンジョンのボス並みか、いくらプレイヤー達が低レベルでも、この村まで来れるって事は実質初級は越えている。
「これは……楽勝か……?」
念の為温存し、マスター同好会で固まって戦場を見渡す。
俺の油断の呟きから数十秒後、事態は悪い方へと傾き出した。
「ちゅちゅー!」
「ちゅー!」
「ちゅちゅちゅ!」
ネズミ達の声があちこちから聞こえ、敵の圧がぐぐぐっと増して行く。
次第に前線を抜けて来るネズミが増え、プレイヤーや召喚モンスターが攻撃を受け始めた。
敵が強くなった訳では無い。
ただ、そう……圧倒的に数が多い……!
戦闘開始僅か数分で敵の波は急速に増し、最初は西側からだけだった襲撃も、今や北西側と南西側にまで広がっていた。
攻撃力は十分。ただし、手数が足りない……!
「こりゃまずいなぁ」
「いつでも行けるぞ」
ナルの兄貴の沙汰を待つ。
ざっと戦場を見回した兄貴は、直ぐに指示を飛ばした。
「サヨナキ、ソライロ、コヌカ、一、スピリトーゾは圧の強い西を支えてくれ。リーダーはコヌカ、死者を抑えるんだ」
「はい!」
「了解!」
「期待しないでね」
「まっかせてー!」
「行きます!」
連中なら大丈夫だろう。何せレベル相応の身体能力があるし、姐さんが唯一心配だが、援護を徹底するなら戦場を長く保たせられる筈。
「俺とミナモは北部、カイとアイゼンは南部を抑える。これが今できる精一杯、かなぁ」
「りょーかい」
「南部は俺達に任せてください」
「2人だけかー、まぁ妥当かな」
「それじゃあ各自、死なない様に」
『応!』
兄貴の激励に応え、南へ駆け出す。
◇
とにかく、敵の数が多い。
群がるネズミの大群へ、棍棒を振るいまくって薙ぎ倒して行く。
幸いだったのは、大型の個体も少し強く振るうだけで倒せる点だ。
まるで無双系のゲームをやってるみたいに、雑兵を蹴散らして行ける。
血みどろになるとか臭いがやばいとかはあるが、今のところ爽快感が強い。
湧き上がる様な高揚は、凄惨な光景から目を逸らす為の物か、微かに生じる痛みから身を守る為の物か。
余計な事を考える余裕があるもんだ。と、余裕の源泉にチラッと視線を向けた。
海狩、カイトが、俺の倍近い勢いで、群がるネズミの大群を薙ぎ払っていた。
俺が一振りで1匹やるのに対し、カイトは2匹以上。
見事な槍捌きで流れる様に突きや薙ぎ払いを放ち、ネズミを殲滅していた。
——攻撃に切れ目が無い。
これが俺達パンピーとマジで強いトップクラス達の差だ。
俺も真似して棍を振るってみるが、どうしても一手一手がやや遅れる。
それは被ダメージにも現れていた。
「下がる!」
「応!」
声掛けすると共に前線から大きく距離を取り、クランインベントリから作りたての下級ポーションを取り出す。
僅か数分程度の戦いで、細かい被弾により、HPが半分を割り込んでいた。
一撃一撃は大した事ないし、HPも1%減ってるかどうかってレベルだが、数がやばい。
とてもじゃないが捌ききれていない。
これを8割維持してるカイトは、流石と言った所だ。
レベル差やスキル差もあるだろうが、やはり被弾が少ないのだ。
ポーションを2本飲んだ所で、HPが十分に回復した。
そうとしてる間にも、カイトが引き付けきれなかった雑魚ネズミ達が此方に迫る。
それを瓶を咥えながら薙ぎ倒し、前線に戻ろうとした所で、視界の端に何かが映った。




