掌話 燦然と戦果 三
第四位階中位
フレンドチャットをコールすると、皆には直ぐに繋がった。
『此方、アイゼンバーン、緊急クエスト行けない人はいますか、どうぞ』
開口一番そう問うと、色々話し始めていた皆が一斉に静まり返った。
『……いない様なのでマスター同好会は皆緊急クエストに参加すると言う事で』
『取り急ぎ狩り組は町に帰還して補給と売却に、製造組は片付けをしたら山村の場所を調べるってとこかなぁ〜?』
『あぁそれなら——』
ナルの兄貴の言葉に、チラッとお嬢を見ると、ちょうど画像スキルを可視化させた所だった。
写っていたのは、クランティアの地図。
お嬢が無言でピッと指差したのは、西からやや下、西南西の辺りにある村。
西北西から西に掛けて山があり、村はその山の麓に、更に南西にも山があり、村はそこに挟まれる様に存在している様だった。
他にも幾つか村はある様子だったが、山に最も近いのはその村だけの様だった。
『西の街道を進んだ先にあるっぽい』
『そっか、じゃあ皆西門前に集合で!』
皆の応じる声を聞きつつ、大樹の洞亭へ駆ける。
街が俄かに騒がしくなって来た気がした。
◇
準備に補給にと時間を食い、西門に集合する頃には10分が経過していた。
狩り組から聞いた話だと、ギルドやカードショップにはプレイヤー達が殺到していて、とてもじゃないがイベントには間に合わなさそうだった為、急遽少し離れた黒霧さんのいるレストランに入って、料理をテイクアウトして売却と補給を済ませたとか。
そうと考えると、なんだかんだで行動は早い方だろう。
事実西門には対して人も集まっておらず、その先の街道も人影は多くない。
「急いで向かおうかー」
「だぁっしゅ!」
「間に合うかー?」
そこそこのペースで駆け出す。
レベルのおかげかスキルのおかげか、そこそこのペースでも車並みに早く、風を切って進む感覚はバイクに近い。
高速で流れる風景を置き去りに、遠い山がぐんぐん近付いてくる。
フォーメーションは、一番身体能力が高い海狩、カイトを筆頭にナルの兄貴と俺が次に続いて、他が後に続く。
カイトが道行く雑魚を蹴散らし、俺と兄貴が撃ち漏らしをぶっ飛ばして進み、スピリトーゾと一とお嬢が死骸を回収する事で、一番足の遅いコヌカの姐さんやサヨナキ、ソライロに速度を合わせて進める訳だ。
そんなこんなで疾走する事およそ15分、目的地の村に到着した。
木の壁で覆われたその村の開かれた門に駆け込む。
村人らしき人達が逆茂木や乱杭を設置中だったので、おそらくこの村が目的の村で間違いない。
「ゴール!」
「間に合ったー!」
「はぁ……はぁ……ひぃ……」
周りの視線が集中する中、ざっと辺りを見回す。
木の壁に張り付く様に組み立てられた頼りなさげな足場には、投擲用と見られる石が幾らか積まれており、女子供が壁に隠れる様にして森を覗っている。
大した装備の無い村人らしき影は、それぞれが鍬や斧、木の槍等で武装し、戦いに備えている。
また、傭兵らしきしっかり武装した連中があちこちに点在しているのも見られた。
傭兵は装備的にはミドルプレイヤー並みだが、戦闘技術は大体がトップに並ぶ程なので、頼もしい存在だ。
そして肝心のプレイヤーだが……。
ナルの兄貴が指示を出す。
「コヌカ、サヨナキ、ソライロは休憩! ミナ、スピ、一は外の手伝いをギリギリまで! カイとアイゼンはついて来て!」
『応!』
それぞれがバラバラに動き出す。
俺はナルの兄貴の方へ移動した。
「誰か、プレイヤーはいないか!」
そのハキハキした大きな声は、それなりに広い村の中に響いた。
ゾロゾロと何人かが近付いて来る。
その数、ざっくり30人。
その様子を見て、俺達は顔を顰めた。
こんな少ない……上に、トップで見た様な顔が全然いないぞ……?
「アイゼン、掲示板で状況確認!」
「了解!」
「誰か、指揮を取っている者は?」
その声に、応える者はいない。
急いで掲示板を開いて検索を掛ける。
「傭兵や村人等で指揮を取っている方はいないか!」
「それは私が」
現れたのは、白髪の老人。村長だろうか?
「状況は?」
村長とナルの兄貴があれこれ会話を交わすのを、数少ないプレイヤーや傭兵達が聞いている。
一方俺はと言うと、検索を掛け、その会話を読み込んで行くと、色々と状況が見えて来た。
どうやら、今回の襲撃イベントは4つの浮遊島で同時に起きた様だ。
火、水、風、土の4箇所で、ゴブリン、サハギン、コボルト、ラットマンがそれぞれ群れで襲撃をしているらしく、またそのクエストメッセージはそれぞれの浮遊島内でしか表示されなかったらしい。
おまけにクエスト発生地点の情報が無く、それを探している者も多い。
そしてなにより、クエスト開始までの時間が短く、プレイヤーが集まりきれない状況にあった様だ。
要は、プレイヤー10万人の内、クランティアにいるプレイヤーで、朝早い今の時間にログインしており、クエスト地点まで30分以内に行けて、クエスト地点を知っている者が、今此処にいるプレイヤーだ。
取り急ぎ、もう間に合わないかもしれないが、クランティアの襲撃地点を地図スキルと画像スキルを駆使して添付、新たに建てられていた襲撃クエスト板に投下する。
俺がそうこうやってる内に、ナルの兄貴も村長との話が進んだ。
どうやら、現時点で村側がやってるのは、防衛設備の設置と申し訳程度の投石の用意、そして壁を破られた際の白兵戦の用意だけだったらしい。事実上の非戦闘員だ。
また傭兵達は、村人達に合わせて足場から遠距離攻撃する予定の者や、白兵戦時に村人よりも前線に立つ予定の者がいるとの事。
まぁ、最悪時の予備戦力だな。
そして肝心のプレイヤー達は、皆その場の流れに乗って戦うつもりだったらしい。
取り急ぎ、短い時間で得た情報を共有して行く。
◇
どうやら、この襲撃イベントは時間経過で都市の方から救援が来るらしいので、それまで耐え忍べば勝ちらしい。
だが、救援がいつ来るかは分からないとの事だ。
また、村の中心には結界を張る神像があり、その結界は防壁の少し手前まで続いているらしく、防壁が破られても暫くは攻撃の来ない安地がある様だ。
取り敢えず他のプレイヤー達には人手不足の現状を伝え、遠距離攻撃をする予定の者には足場の上へ、壁外で戦いたい者は壁の外に出る様に伝えた。
俺達マスター同好会は全員外で戦う。
立ち並ぶ俺らに合わせて、結果的に50名程になったプレイヤー達も、その殆どが壁の外に出て来た。
レベルは大体が20から30程度で、トップクラスのプレイヤーはほぼいない。
敵の戦力は不明だが、此方の戦力はそう期待出来る物では無い。
少なくとも、残影襲撃イベントレベルの規模で来られると、超えられて第三波までだろう。
どの方角から敵が来るかは悩むまでも無い、森を切り裂く行軍の足音は、既に聞こえている。
風に乗って響く騒めきの中、緊張が張り詰めていく。
カウントダウンは今、0へと変わった。




