掌話 燦然と戦果 二
第四位階中位
講義を終え、幾らかの質問等したりしてから拠点に帰還した。
場所は首都の端の方にある工房付き一軒宿、大樹の洞亭。
マスター同好会の名義で借りた宿で、前の所と同じくらいの設備が付いた優良宿だ。
工房に顔を出すと、そこでは魔法符の生産が行われていた。
光の浮遊島シャンテアで入手した羊皮紙の魔法符への加工は、書き手がお嬢のカエルしかいないから終わるまでまだまだ時間が必要だろう。
「ただまー」
「おかえりなさい」
「早かったわね」
お嬢が育ちの良さそうな笑みを浮かべ、コヌカの姐さんはハケを片手に羊皮紙を貼り合わせながら応えた。
「で、収穫はあったの?」
「まぁ、ぼちぼちかね?」
少なくとも掲示板で見てやるよりは肌感覚が掴めただろう。
早速、空いてる作業台に移動し、クランインベントリから木箱を取り出す。
用意したのは、下位のドロップアイテム。スライム粘液の小瓶を複数に、シードリングの葉、雑魚魔物の屑魔石。
取り急ぎ力仕事は俺の仕事、そう思った時には、用意の良いマリオネットがすり鉢を準備してくれていた。
「サンキュー」
軽く礼を言いつつ、麻袋からざらざらと屑魔石を投入、ゴリゴリと砕いて行く。
その横でマリオネットはシードリングの葉を刻み始めた。
素材はそれぞれ多少厳選してあり、屑魔石は癒属性に適性の高いらしい植物系魔物由来、シードリングの葉はその中でも癒属性の多いらしい若葉を使用している。
こう言ったモノの積み重ねが、ポーションの質を良くするのだとか。
俺が魔石の粉砕を進める横で、葉の細断を終えたマリオネットは、スライム粘液の準備を始めた。
スライム粘液は多い程癒属性魔力を多くなるが、その一方で多すぎると飲みにくくなる。
掲示板に曰くその混合比は、おおよそ30%程までならそう大きな影響は無いが、半分くらいになると明らかに飲みにくくなり、70%からはもう戦いながらの補給は困難な程の物になるとか。
今回は30%の配合で水と混ぜて運用する。
また、スライム粘液は熱に弱いらしいので、混ぜるのは熱した後だ。
なんでも、火に掛けると次第に粘性が失われ、それと同時に回復量も少なくなるとか。
当然ながら、複数ポーションを煮詰めて効果を増大させる方法も取れなくなる。
シードリングの方も、素材加工の一種として乾燥を試してみたかったが、乾燥の魔法符を買うくらいなら、その分の金を貯めて何度でも使える魔法布や魔法板を買った方が良い。
……いや、良いか? 確かに自分で作る方が価格は抑えられるだろうが、結局完成品は現状低位のポーションしか作れないし、究極の所言うとそれを作る時間分アイテムを集めて素材とかも全部売っぱらって品質の良いポーションを買った方が良いまである。
……いやいや、もしかしたらそっちの方が効率が良い可能性もそれなりにある訳だが……別に非効率でも良いじゃない。
折角のゲームなんだし、やってみたい事をやってみたり、なんでも自前で用意出来る様な万能さ、所謂ロマンを求めてみたりしても良いじゃない。
それに、今やってるイベントみたいにアイテムの購入数に制限がある場合でも、ポーションを用意出来る様になると言う利点もある。
……機材持ち込むよりその分のスペースにポーション詰め込んだ方が良いという意見もあるが。
取り止めもなくそんな事を考えていたら、屑魔石の粉砕が終わった。
レベルが上がって身体能力が上がったから、こう言った作業も随分楽になった。
面白い様に潰せるからさして苦でも無いな。
「よしよし、と」
鍋に刻んだシードリングの若葉と粉砕した屑魔石を投入し、火に掛けた。
グツグツ煮立つくらいまで沸かしてアクを取って行く。
3分程度煮たら、今回はザルを使ってシードリングの若葉を取り出し、冷まして行く。
この煮込み時間にも色々あり、掲示板に曰く1分程度だと苦味は少ないが回復量も減り、3分くらいだと苦味が程々で回復量は十分。それ以降になると苦味に加えてエグ味も出て来る割に、回復量の上昇幅は激減して行くとか。
薬草の方も、入れたままだと回復量は上がるが苦味とかエグ味とかが強まり、時間経過で更に苦くエグくなって行く。取り除くと回復量は下がるが、飲みやすさは格段に上がるとか。
今回は市販の高級な方のポーション、リンゴジュースポーションを目指し、飲みやすさを優先した形だ。
更に此処で、新たな素材を一つ投入する。
取り出したるは、以前コヌカの姐さんが蟻ダンジョンから入手して来たレア目なアイテム、ビッグアントハニー。蟻蜜である。
小瓶一つで5,000MCもする高級品だが、惜しみなく投入。
十分に冷めた所で、スライム粘液を加えて混ぜ合わせ、完成。
小瓶30本分のポーションが出来た所で、黒霧さんの鑑定所に持ち込む。
◇
「此方のポーションは1瓶1,400MCで買い取り可能です」
「ほほう?」
するってぇと30本で……大体4万MCくらいか? 蟻蜜が5,000にシードリングの若葉とスライム粘液、屑魔石が合計で15,000MCくらいだから、小瓶とか工房のレンタル費とか諸々の経費をさっぴくと……おおよそ1万MCの儲けってとこか。
「材料費とかを考えると大体14,000MCくらい利益が出ますね」
「ほほう」
鑑定について来たお嬢が、正確に値段を出してくれた。
シードリングの若葉やスライム粘液、屑魔石は割と何処の町でも手に入る、蟻蜜はまだ姐さんが貴重な甘味とか言って在庫を抱えてたから……。
「ワンチャン素材を買って大量生産すれば儲けられる……?」
「うーん、素材代とかを考えて……制作に20分くらいとすると、1時間で3万MCくらいの利益ですから、探索する方がお得じゃないですか?」
「それは確かに」
仮に全部マリオネットに任せて15分、1時間4万MCくらいになったとしても、マリオネットのチャージで結構飛ぶしな。
それなら狩りに出て稼いだ方が良いわな。
まぁ、機材を導入して時間や生産量を改善する、とか、製法を改善して品質を向上する、とかやれば儲けは上がってくるだろうが……なんか闘技大会みたいなのも控えてるし、今始める事では無いな。
納得した所で、黒霧さんが値段の詳細を説明してくれる。
「このポーションは低位のプラスパワーとリジェネ効果を持つ、下級中位の回復ポーションとして使用可能です」
低位のプラスパワーとリジェネ効果と言うのは蟻蜜の効果だ。
まぁ、微々たる物だが、無いよりは幾分マシだろう。
「味は苦みが抑えられており、粘度は低く飲みやすく、使用期限も長い為、ポーションとしての品質はやや高めと評価出来るでしょう」
そこら辺少しこだわっただけあり、評価は中々良さそうだ。
「ここから考えられる低労力の品質向上方法は、薬材の乾燥処理及びより細かい粉砕。水の変更。ペーパーフィルター等の導入による濾過。魔石の厳選等が考えられます」
「ふーむ」
水の変更と言うとやっぱり温泉水とかかね? そういや探索中に湧水が出てる所で水分補給した事も何度かあったが、ああ言うのを汲んで来ると良いんだろうな。
ペーパーフィルターに関してはそこまで深く考えて無かったが、確かに薬草はざっくり切るよりすり潰した方が回復量が多くなるらしいし、すり潰して癒属性魔力を多く抽出した上でフィルターを通して苦味の素を除去してやれば、効果と味の改善が出来る訳だ。
後の魔石の厳選は……まぁ、単に上位の魔物の魔石を使うとか、治療系の能力を持つ魔物の魔石を使うとかだろうな。
パッと改善出来る物も多いし、試しにやってみても——
《《【緊急クエスト】【村クエスト】『大山鳴動せし鼠の一群』が発令されました》》
《《
【緊急クエスト】【村クエスト】
『大山鳴動せし鼠の一群』
参加条件
・村の防衛に参加する
達成条件
・村の防衛に成功する
失敗条件
・村の防衛に失敗する
達成報酬
参加者報酬
・スキルポイント3P
・防具『大鼠の指輪』
参加者選択報酬
・道具『モンスターカード:ラットマン』
・道具『タペストリー:鼠一叢』
・MC『30,000MC』
・備考
クランティアの山岳に棲まうラットマンの群勢が侵攻を開始した。
進路上にある山村を防衛せよ。
・主な出現魔物
ラットマン
ラットマンウォーリア
ラットマンナイト
ラットマンアーチャー
ラットマンジェネラル
ラットマンキング
・開始時刻
《30:00》
》》
「おぉ!」
「緊急クエスト!」
突如現れたメッセージボードを見下ろす。
村の防衛、襲撃イベントだ!
開始時間まではあと30分か、かなり短いな。
「山村って何処だ……?」
それが分からなきゃ始まらない。
なんとは無しのその呟きに、答えたのはお嬢。
「山村……確か西にあった筈です、街道を辿れば行けたかな?」
「オーケー、行ってみるか」
「御武運をお祈りいたします」
表情の変わらない黒霧さんに礼を言って、その場を後にした。




