第20話 サキュバスの姉妹
第八位階下位
今だね。
リムを通してツァーリムの深淵を引っ掴み、敵となっているツァールムから引き剥がす。
多少のダメージはもはや今更だが、皆の頑張りのおかげでダメージは最小限に収まっている。
記憶や力の大半は失われてしまっただろうが、魂の構造に致命的ダメージは無い。
取り急ぎリムを通して不足しているエネルギーを供給すると共に、寄生虫となっているツァールムの魂をツァーリムから追い出し、ツァーリムを捕獲する。
《【運命クエスト】『魔王列強・王母の魔王ツァーリム』をクリアしました》
《《【世界クエスト】『大罪の試練:色欲の試練』が『匿名』によってクリアされました》》
《【世界クエスト】『大罪の試練:色欲の試練』をクリアしました》
魔王列強で得られた物は、スキルポイント50Pに、『理壊母胎』と言う名の水晶玉。
能力は、一度使ったら壊れる代わりに、注入したエネルギーと記憶と神話ないし神気を混ぜた、最大レベル750相当の何かを生み出すと言う代物。
つまり、今のツァーリムをより高性能に作り直した代物である。
続けて大罪の試練の方は、スキルポイント80Pに、武器色欲の愛。
使役系に特化した鞭型の武器で、主に軍勢を使役して戦う事を想定された武器、神器である。
適性のある者が使えば、およそレベル600以下であれば大した消耗なく使役出来てしまう規格外の一品。
まぁ、支配系のレベル800なら同じくらいの事は容易に出来るので、特別強力と言う訳でも無いが。
逆に適性の無い者や単純に弱い者が使えば、武器に良い様に利用されてしまう。
さて、改めて、問題と向かい合おう。
皆を背後に侍らせ、僕は前に出た。
ツァーリムの体から弾かれた闇が寄り集まる。
不完全な状態での孵化。
記憶は半端で虫食いの上整合性無くばらつき、溶けて混じり合っている。それ等はサキュバス達の紡いだ女王の神性と繋がりあって辛うじて体を成していた。
その肉体は、壊れた記憶と壊れ掛けのツァールムをベースに再誕したからか、あまりにも幼く、そして歪んでいた。
無数の手足、目や口、角に翼が身体中に生えた、異形の人型。
ー LV784 状態:崩壊(微)
崩壊の状態異常は急激に進み、それは悲痛な産声を上げた。
——あアぁぁァァぁッ!!
動き出そうとしたそれを縛り上げる。
流石にレベルが高過ぎて、崩壊が急激に進むとは言え、死に切るまでにとんでもない破壊を齎らす事は自明の理。
僕は暴れようとするそれを抑えて、身体中から溢れる涙を拭った。
背後からリムの涙声が響く。
「ユキ、その子も、救ってあげて……!」
その声に応えて、僕は水晶玉を取り出した。
「君に、再誕を」
その一声と共に、水晶玉、理壊母胎を異形の人型に押し付ける。
そのまま理壊母胎を行使すると共に、異形の人型をその中に押し込んで行く。
僕も僕で、再誕の手助けをしようか。
ドロドロに溶けてぐちゃぐちゃに混ざり合った一千年の記憶を可能な限り分類し、せっかくなので操気法から真気法までの修行データ等を押し込んで、壊れ掛けのベースを記憶に合わせて再構築し、全てのサキュバスを統べると言うだけの大した事ない女王の神話を織り込んで、肉体整形を異形化しない様にだけ矯正して、完成。
《【運命クエスト】『澱みより出でし者』をクリアしました》
入手したのは、スキルポイント22P。サキュバスや低位悪魔の使役支配に効果のある防具『淫魔女王の冠』。
それはそうと光の中から現れたのは、ルムよりも更に幼いサキュバス系悪魔の少女。
此処はリムとルムの妹と言う事にでもして、レム、ツァーレムとでもしておこう。
リリス ツァーレム LV760MAX
僕は抱きかかえたそれを、ルムに渡す。
「君達の妹だよ。名前はレム」
「えっ……まぁ、ユキがそう言うのなら認めてやっても良いのです」
ルムが複雑な顔でそう言う中、レムはゆっくりと瞼を持ち上げ、本当の産声を放った。
「……あぁ、ルムお姉様なのよ。よろしくのよー」
「むむむ、まぁ、よろしくしてやっても良いのです」
姉妹が挨拶する中、続けて僕はリムとツァーリムに向かい合う。
ツァーリムの記憶と力は殆ど失われ、もはやツァーリムと言う人格を形成する物は殆ど残されていなかった。
僕は辛うじて残る崩れかけのそれを繋ぎ合わせて、幾らかの予測記憶をでっち上げたりエネルギーを供給したりして、ツァーリムを再構築して行く。
完成したそれには、一千年の残り香を宿すリムでは無い最年長として、ラム、ツァーラムの名を新たに与えた。
リリス ツァーラム LV730
「彼女はラム、君達の姉だ」
「え!? ラムお姉様って事? お姉様かー」
困惑しつつも何処か嬉しそうな彼女の腕の中で、ラムの虚ろだった瞳に理性が戻る。
「ぅ……ここは……?」
「あ、ラムお姉様おはよう! お加減いかがですか?」
「私は……ツァーラム? 貴女は……?」
「貴女の妹になりました! ツァーリムです! ラムお姉様!」
「妹に、なりました……?」
リムはラムを抱き締める。するとラムも正面からの好意を受けてか、困惑しつつもリムの背中を撫でた。
ラムは現状不安定な状態なので、早め早めの安定化をさせないと、レベルが身の丈に合わなすぎる等の理由により、場合によっては再度崩壊状態に陥る可能性がある。
一応レベル限界を維持するために操気法から仙気法までの情報を、そしてある程度1人で活動できる様にそれなりの情報は入れてあるが、それ以外のツァーリムだった頃の情報が殆ど残っていない為、ツァーラムとして新たに生きる分には問題ないだろう。
こうして少し待ち、ディアリード側から何のアプローチも無い事を確認してから、僕たちは帰還した。
・第十七節:第二項、教国の終わり——完




