第19話 残骸の荒野
第八位階中位
ユキがリムお姉様と共に扉を潜ると、その扉は消滅した。
何が起きても、ユキが一緒なら大丈夫に違いない。
そこは安心をしつつルムはもう一つの扉に手を掛けた。
「それじゃあ皆、ルムについて来るのです」
そう言いつつ振り返ると、そこには文字通りの皆がいる。
あのシャルロッテやサンディア、ウルルにメロット、イェガやクリカ、単体で大陸を滅ぼせる程の戦力が、ルムが扉を開けるのを待っている。
この戦力なら負けなしなのです。
ルムは扉を押し開き、爆発的に広がった紫の光に包まれた。
◇
光が薄れ、見えて来たのは、広大な紫色の荒野。
左側にはあちこちに何かの破片が転がり、それを真っ黒な少女のシルエットが破壊吸収している。
一方右側では、色々な建物の残骸を、真っ黒な少女のシルエットが破壊吸収している所だった。
左側の奥には、よく見ると大きな黒い影が横たわり、此方をじっと見つめている。
「あれを全部倒すのです!」
「たおさずげきたいがルール」
「ちゃんと話聞いてなかったさね?」
「うるさいのです!」
皆が戦場へ駆け出して行く中、やれやれと呆れた様にクラウと白夜が話し掛けて来る。
お姉様を苦しめる物が許せなくて何が悪いのです! しかもそれがルム自身かもしれないなんて、許せなくて当然なのです!!
むしゃくしゃしつつも、ルムは街を破壊する偽物達に大声で、そして全力で命じる。
「止まるのです!!」
次の瞬間、偽物達は動きを止めて、皆に吹き飛ばされ、街から追い出されて行く。
しかし命令も長くは持たず、それら偽物はまた動き始めた。
「動くな! なのです!!」
そう命じると偽物達はまた動きを止めた。
その隙に、皆が街からの追い出しを完了させ、荒野に立つ偽物を吹き飛ばして行く。
これで取り敢えず安心なのです。
「はぁ、はぁ……」
それにしても疲れる。幾らルムが天才とは言え、これはちょっとしんどいのです。
そうと思った次の瞬間、紫色の炎が駆け抜け、世界は灰色へと変わった。
灰に染まった荒野に、不意に溢れ出すのは黒いシルエットの群れ。
偽物が本腰入れて来たのです。
でも、ルムには心強い味方の群れがいる。
街を守る様に立ち並ぶそれらに、負けていられないと気合いを入れ直した。
さぁ、どんと来いなのです!
◇
どんと来いと言ったがそれは嘘なのです。
世界が灰から黒く染まり、黒いシルエットが目視し辛くなった事だけが敵の利点。
敵は未だに貪欲にお姉様の魂を貪ろうと黒いシルエットを出し続けて、その尽くを吹き飛ばされ続けているのです。
これは単に味方が強いとか敵が弱いとかでは無く、数の暴力なのです。
考えても見るのです。
敵は一人、味方は数百。
何なら味方は一人二人でも百人力。
今ではもはや敵に対して交代性で数人が修行を行ない、強いシャルロッテとかは最終防衛ライン辺りで佇み、何人かの強者は更なる襲撃に備えて魂の外郭を警邏している始末。
もはや敵は敵の体を成せていないのです。
ルムが必要だったのは最初の数秒だけ。これが現実なのです。
街の残骸に腰掛け、そうと黄昏ていると、白夜がやって来た。
「ふいー、ちょっと疲れたから休憩さね」
「サボり屋なのです」
「そっちこそ高みの見物とはいいご身分さね」
「そう言う仕事をしてるのですー」
「ふふん」
言い返して来ない辺り、本当に疲れているのです。
こいつもなんだかんだ言ってこの領域に立てる者。
多少の小物っぽさに目を瞑って評価してやっても良いのです。
そんな事を思いつつ、戦うクラウの奴を見る。
「何見てるさねー?」
「クラウなのです。おい、目を逸らすなのです」
まぁ、逸らしたくなる気持ちは分かるくらい、クラウの奴は桁違いに強くなったのです。
今も、頭の上で光る輪っかをピカピカさせて、ハデハデに白い翼を六枚生やして、白い光る糸を使って自在に敵を操り、または拘束して、万にも及ぶ敵の軍勢、攻勢意思の粒子を押さえ付けている。
他何人かや白夜の奴が、巨人みたいな攻勢意思の塊と戦っていたのに対し、クラウの前に現れる攻勢意思は細かい粒子の様な奴ばかり。
これは、演算力の差を表しており、大きな塊と戦っている者は実質小さな攻勢意思に横を抜けられている。
おまけに、小さな攻勢意思と戦っている者は、より細かく認識する事で、敵の弱点を的確に突き、敵に消耗を強いて行けている。
勿論その分此方も消耗がある訳だが、これだけの味方の軍勢。個人の多少の消耗は差したる影響はないのです。
まぁ、攻勢意思が大型だの小型だのと言ったけど、そもそもこの空間自体が異常なのです。
敵味方問わず演算速度を同じ速度に整えて加速させ、本来人によって違う筈の意思の戦場を荒野に限定させ、戦いによって生じる余波を受け止めてもいる。
コレ全部ユキがやってる事なのです。
実質的にルム達は戦ってるだけ。
ルム達に戦い方を教えてくれているだけで、事実上敵も味方もユキに掌握されていると言っても過言ではないのです。
勿論戦いこそがメインではあるが、それにしても格の違いを感じるのです。
そうこうやってる内に敵も疲弊し、攻めて来る攻勢意思が少なくなった所で、不意に世界が黒から白に染まった。
後どのくらい掛かるかわからないけど、この数十倍の時間だって守り切れるのです。
……と言うか、敵が限界近いのです。
8周年目です。
引き続き、ユキの物語をお楽しみ頂ければ幸いです。




