第17話 襲来
第四位階下位
薄暗い迷宮の最深部、コアルームに入り、直ぐにコアを黒霧化した。
《【迷宮クエスト】『バジリスクの王国』をクリアしました》
入手アイテムはスキルポイント20Pと大した事ないアイテム群。
それらを本体が入手した所で、黒霧化したコアからの緊急報告を受けた。
『コアにディアリードと思わしき悪魔の神性が接触した形跡があります』
その報告と同時に、本体が即座に演算力を割き、僕の演算力が増大した。
どうやら見た所、コアには接触して魔物の生成を行う様に脅しかけたくらいで、何か爆弾を仕込まれた様子は無い。
連鎖スタンピードが発生したのは、この迷宮の怯えが他所に伝わった為だろう。
取り敢えずこびりついた神気を削ぎ落とし、慎重に回収しておく。
そこまでやった所で、それは起きた。
「むむ」
気配の出現。
場所は東の海上。
即座に現場に向かうと、そこには見知った顔がいた。
リリス ツァーリム LV800
ディアリードの軍勢の1人、淫魔の悪魔王ツァーリム。
それ以外に気配は無い。
そうと確認した所で、僕はそれを認識した。
「っ!」
虚ろな瞳で何処かを見ているツァーリムに、刹那の一瞬で接近すると、僕はツァーリムと僕の本体にパスを繋いだ。
◇◆◇
神気に対応出来る程度に演算を割いた分体が、緊急で僕にパスを繋いで来た。
その理由を一目で看破すると、僕はツァーリムの中に潜り込んだ。
魂の内に入り込み、橋頭堡として築いたその部屋は、ツァーリムの古い記憶の影響を受けて薄暗い紫色の部屋になっていた。
ドアに嵌め込まれたステンドグラスの先では、加速した思考の中にあって尚蠢く何かが映っている。
それは、言うなれば——子供だ。
ツァーリムの魂の中で蠢き、その血肉を貪って力を増大させている、ツァーリムの子。
僕には、どうしようもなく悍ましい寄生虫の様にも見えるが、ツァーリムを貪るそれは確かにツァーリムの子であった。
もはやツァーリムの意思は殆ど残されていない。
それは、胎。
子守り唄の様に、ツァーリムとサキュバス達が紡いで来た神話が織り込まれているのが分かる。
それは、レベル800へ到達した魔王の全てを生け贄に作られる、神の揺籠。
ツァーリムが失われるまで、一刻の猶予も無い。
僕は魂を通じて、金の本からリムとルムを召喚した。
僕の演算に合わせて加速させた彼女等の思考に状況を送信する。
嘆きの声は、直ぐに聞こえてきた。
「そんな……お姉様が……!!」
「私が大変!!」
両手で口元を押さえ、その悍ましい様相に青褪める2人。
ルムは直ぐに僕へ縋り付いた。
「お、お姉様を助けて欲しいのです! ユキ!」
「そ、そうだわ! いつもみたいにパーっと救っちゃって!」
そう言う彼女等に僕は安心させる様に微笑んだ。
「その為に2人を呼んだのさ」
「出来る事があるならなんでもするのです!」
「私も! 任せて!」
そもそも、他者の魂に潜り込むのは本来至難の業。
僕は愛属性等で影響を最大限抑えて記憶領域等に潜り込んでいたりするが、それは健康な魂あってこそだ。
ツァーリムの魂は、既に限界を超えていた。
もはや、いつ崩壊し、消滅してもおかしく無い。
如何に愛属性を纏おうとも、異物たる僕が踏み込んだら、その端から崩れて行ってしまう可能性が高い。
だが、リムなら、失われた記憶を紡ぎ直し、その魂の崩壊を抑えて、最も重要な魂の根源に到達する事が出来るだろう。
……では、何故ルムも呼んだのか、その理由は——
「リムは僕本体と一緒にこっち、ルムは皆と一緒にそっちだ」
指し示したのは新たに開いた2つ目の扉。
召喚したのは、文字通り皆。
主神級やその幹部級の、実力者達。
目的は、行動の阻害。
皆が持てる神気操作の限りを尽くして、神の子の貪食を妨害する。
それと同時に、ルムが神の子の魂に接続し、その本能による活動、渇望を抑え込む。
それが出来るのは、僕を除けばルムだけだ。
何故なら、ツァーリムの魂を蝕んでいるより強力な魂は——ツァールムだからである。
より正確には、ツァールムの魂をベースに作られた特殊な魂魄。
そうでなければ、その姉妹と言う縁がなければ、この様な特殊な状況は生まれ得ない。
「わ、分かったのです!」
「こっちは任せて!」
此処からは、時間との勝負だ。
……正直言うと、僕は諦めても良いかと思うけど、多分リムとルムが悲しむから、ツァーリムの魂は必ず救い出す。
それによる此方の消耗がディアリードの狙いだったとしても、その程度知った事では無い。




