第2話 堕ちた神
第八位階下位
そう、この山の正体は、星核機装船の一部、即ち、イヴ・ハルモニアの拠点だ。
竜寝殿同様に、リスク分散の為に切り離された船の一部である。
その土地で目立たない為、土や石を被り木々を生やして山に擬態しているが、飛ぼうと思えば飛べると思われる。
この規模の擬態自体は、多少手間だがやろうと思えばレベル600もあれば可能だ。
イヴ程の存在であれば、山への擬態くらい自由自在である。
「エヴァを呼びましたか」
「ちょうど呼ぼうと思ってた所だよ」
勝手に来たエヴァを快く迎え、取り敢えず金属扉が行おうとしていた体のサーチを拒否する。
「イヴ・ハルモニア、会いに来たよ。エヴァからデータを受け取って」
「エヴァは未来のイヴにデータを送信、しました」
暫しエヴァがぴこぴこと不審な動きをした後、門が開かれた。
『どうぞ、ユキ』
「イヴは常識アップデート中だとエヴァは報告します」
「ふむ」
取り敢えず、この機体にはイヴが残ってる様で良かった。
これは神の回帰に繋がる快挙である。
ただ、エヴァの常識をイヴにアップデートって所が凄く不安ではある。
ともあれ、僕等は綺麗な真っ白の廊下へ歩みを進めた。
『常識アップデートが完了しました』
「イヴのアップデートが完了したとエヴァは報告します」
「そりゃ良かった?」
良かったのか? 僕が手ずからアップデートした方が良かったんじゃないか? 一抹の不安が居座ってぴこぴこしている。
何はともあれ、長い廊下を延々と進む。
『ユキがやろうとしている事は分かっています』
「エヴァも分かっています」
「そう、じゃあ遠慮なく」
邪魔しないと言う事は納得していると言う事だ。
イヴも、もう既に分かっていたのだろう。
エヴァは知らんが。
『ユキ、申し訳ありません』
「イヴがユキに謝っています」
「謝罪は不要だ。手向けは功績故だよ」
このままだと延々と謝罪を受けそうだから、長い廊下を飛びながら進む。
程なくして、目的地に到着した。
そこにあるのは、他の門より豪華で、今までの機能美とは打って変わった、言ってしまえば俗物的な装飾の門だった。
大きな門は開かれる。
見えて来たのは、玉座。
コントロールルームでは無く、権威以外の何の機能も無いただの玉座だ。
そこには、白髪の美男子が腰掛けていた。
「ようやく来たか、良い。近う寄れ」
王冠を被り、金銀財宝で自らを装飾するその王は、ニヤニヤと笑みを浮かべて僕を招く。
僕はそれに従い、豪華に彩られた玉座の間をまっすぐ歩む。
——虚飾だ。
空虚な彼にはきっと、それしか無かったのだろう。
——イヴの判断ミス。
……そう断定出来ないのは、命の尊さ故か。
「ふふふ、美しい娘だ」
「当然」
僕の美貌たるや宇宙一である。
まぁ、そんな事より、だ。
伸びて来た青年の手を取る。
驚く彼に構わず、その頭を抱き寄せた。
せめてもの慈愛を持って彼を送ろう。
「ごめんね。僕には君を、救えない」
「なに、を……?」
その肉体を紐解き、魂を解いて行く。
せめて、その最後が、苦しく無い様に。
只人の身で——何百年生かされたのか。
代替わりなんてしていない。彼はずっと彼のまま……いや、そうでも無いか。
その魂は、壊れる端から神血が補填して、その働きを代行していた。
後に残ったのは、まるで不死者の願望の様に、哀れな欲望のみ。
イヴの手によって補正された欲望は、イヴの手によって幻覚と言う形で満たされ、ただただ無意に生かされる。
——それはもはや生きた屍。
少なくとも、彼自身では無い。
かつての彼の残り滓。
「あ、あぁ……俺は……儂は何と言う事を……」
「大丈夫……心配しないで」
情報を与えるのは負荷になるが、どうにかイヴの10年の嘘を暴露して安心させてから逝かせてやった。
「あぁ……すまない……」
「後は任せて、ゆっくり、おやすみ」
神血の補填を抜かれた魂は、瞬く間に崩壊を引き起こし、数多の粒子に分かれて大気に拡散して行く。
これを見るのは、3度目か。
1度目は賢神グリエル。2度目は、厳密には魂では無いが人形の魔女オルメスの残留思念。そして今回の、山の神と崇められた只人。
魂の完全な崩壊。
次の無い、終わりの見送り。
これにはどうにも気が沈まざるを得ない。
今回の崩壊の原因は、本来肉体が死ぬ所を延々と延命された事による物だ。
寿命を越えて生きるには、魂の格を上げなければならない。
レベル二桁前半では、これも致し方ない結果だ。
《【運命クエスト】『堕ちた神』をクリアしました》
「……」
僕は暫し黙祷し、神血が抜かれた事で魔力への分解が始まった肉体の分解を補助、その魔力を回収する。
「……さて、行こうか」
「エヴァは頷きます」
『案内します、ユキ』
目的は、此処にある全てだ。
明けましておめでとうございます。
今年も宜しくお願いします。




