幕間 スパニエルの黎明
第三位階上位
お父さんとお母さんは、いつも優しく頭を撫でてくれた。
そんな2人が、人前では帽子を絶対に取ってはいけないと言ったから、それをずっと守って来た。
2人が帰って来なくなってからも。
天使総軍と言うのに入れられてからも。
暫くして、お父さんとお母さんが、何で帽子を取ってはいけないと言っていたのか、何となく分かる様になった。
皆、私の様な耳が無かった。
おかしいのは、私だけだった。
日々、言われた仕事をこなしながら、白い粉を練った味気の無いご飯を食べる。
それだけの日々だったけど、ある時から、友達が沢山出来た。
『ちょっと、スパなんとか? こっちの掃除やっといてよ』
『……う、うん』
『おい、スパ……まぁいいや、おまえ、この荷物運んどいて』
『……ま、任せて』
『配給これじゃ足りないからさ、皆に分けてよ?』
『……そ、それじゃあ、私のご飯』
『え? 友達でしょ?』
『……う、うん、分かった』
時々ご飯は無くなっちゃうけど、皆がニコニコ笑ってるのが嬉しかった。
そんなある日の事だった。
『魔界行き!? はぁぁ!? 何であたし達が魔界なんて行かなきゃいけないのよ!!』
『ありえない! 死ねって言ってる様な物じゃないか!』
『ふざけんじゃ無いわよ!!』
『あぐっ』
皆が怒っている時静かにしてないと叩かれる、だから静かにしてたのに、蹴られた。
『うぅ』
『全部おまえのせいだろ!』
『落ちこぼれなんかに関わったのが間違いだったわ!』
『あんた、まさか告げ口したんじゃないでしょうね!』
『ぁぅ、な、何もしてな——うぐっ』
その日は何でか皆に蹴られて、叩かれた。
それから、いつのまにか私も魔界行きに立候補した事になっていた。
何もしてないけど、皆と一緒だ。
◇
『ごめんね、叩いたりして』
『……う、ううん』
『そうだよな、友達だもんな』
『友達だから許してくれるよね』
『……だ、大丈夫』
魔界に行ったら、前と同じで皆が優しくなった。
掃除とか、荷物運びとか、敵と戦ったりとか、大変だったけど、皆がニコニコしてくれるから、頑張った。
毎日、毎日。
『ちゃんと敵を引き付けなさいよ! 怪我したじゃない!』
『……ご、ごめんね』
毎日、毎日。
『お、おい、あの数はまず……おい、いつも通り囮、やれよ?』
『……わ、分かった』
毎日。
『!? 帰って……さ、さっきのは危ないから撤退しようって言ったのよ?』
『……き、聞こえなかった』
『……な、なにそれ、私達が嘘ついたって言いたい訳? 友達でしょ!』
『……き、聞いてなかった』
『そ、そうよ! 気を付けなさいよね! 私達の足を引っ張らないで!』
『……ごめんなさい』
毎日、気付けば謝ってた。
何でか分からないけど、謝ってた。
そんな日々が続いたある日——
『な、なんで敵がこんなに!』
『嘘だろ! おい、囲まれ、ぎゃぁぁ!』
『他の奴等は何してるの!』
遠征とかで、凄い数で西? に行った。
そこで、凄い数の黒い敵に囲まれた。
『あ、危ない!』
『きゃ!』
友達を1人助けたら、他の友達が黒い敵に囲まれ、森の中に連れてかれた。
『う……ぎゃ』
『おごっ、た、助けろ!! ぐげっ』
『ひっ、あ、あんた何でもっとちゃんと守らないのよ!!』
『げ、限界!』
友達が死んだ。
私には何も出来なかった。
言い訳を言う事しか、出来なかった。
◇
どうにか、黒い敵が友達を食べている間に、逃げ出す事が出来た。
そこで私は叩かれた。
その拍子に、帽子が取れる。
『あんたのせいよ! あんたがもっとちゃんとして……あ、あんたそれ』
『っ、ち、違くて』
その時の友達の目は、まるで化け物を見たかの様な、何処までも、拒絶の目だった。
『あ、あんた、獣……け、穢らわしい! 来ないで!』
『ち、違う、これは……』
言い訳しようとしたけど、何て言ったら良いか分からなかった。
『そんな物を隠して! やっぱり全部あんたのせいだわ!! 魔界堕ちも! 皆が悪魔に殺されたのも!』
『あ、あう、違くて』
何とか、その拒絶の目を変えたくて、私は言った。
『……と、友達、でしょ?』
『はぁ!!? あんたなんか、友達でも何でも無いわよ!』
『え……』
何かが崩れた様な気がした。
『獣が! 天使の振りをして私達に近付いて! 全部あんたのせいだわ!! どっか行ってよ! 消えなさい!』
『う……』
何を言っても無駄なんだなと思った。
友達だったのに、それは友達じゃなくて、そして私は天使でもなくて。
じゃあ、何だったんだろう……?
お父さん、お母さん、会いたいな。
私は友達だと、同胞だと思っていた何かを置いて、闇色の森に駆け出した。
後ろで血の匂いと悲鳴がしたけど、それはもう、私には関係のない物だった。
◇
闇を駆ける。
いつもは2足で走っていたけど、今は自然と4足で走っていた。
そちらの方が、私には当たり前だったみたいだ。
羽で姿勢を制御して、闇を駆け抜ける。
何処に向かっているのか? 分からないけど、こっちの方が良い匂いがした。
黒い敵が現れる。
それへ噛み付き、引きちぎり、切り裂いた。
いつもは武器を持って戦っていたけど、そちらの方が、私には当たり前だったみたい。
次々と出て来る敵を切り裂き、闇を駆ける。
私は誰なんだろう?
私は何なんだろう?
お父さん、お母さん、会いたい。
私を、教えて——
不意に、闇に足を取られた。
世界がひっくり返る。
『これはペルセポネのじゃない』
『うん?』
黒い敵だ、そう思って牙を剥くも、何も出来ない。
そうと思ってる内に、投げ飛ばされ、良い匂いの何かに包まれる。
『グルル』
『ふーむ、スパニエル』
……そう、私はスパニエルだった。
お父さんとお母さんがそう呼んでいた。
そう言えば、友達は一度も私の事を呼んではいなかった。
『よしよーし』
『グルルくぅーん、くぅーん』
その手はお父さんとお母さんだった。
楽しいと嬉しいに包まれていた頃を思い出す。
私はそう、スパニエル。獣で、天使に似ていて、そして……この、多分お母さんの多分子供?
違うかもしれない。
『……友達?』
『うん? 仲間か、もしくは保護者だね』
『ホゴシャ』
ホゴシャが何か分からないけど、多分お母さんの多分子供であってるに違いない。
『……お母さん?』
『……それで良いよ』
やっぱり。




