第10話 待ち人来ず
第八位階下位
あちこちで、魔界を物理的に揺るがす決戦が起きている。
そのどれもが、神話の一節を飾るに相応しい戦いだ。
その中で、最も早く決着に向かっているのは、ペルセポネとガリオンの戦場。
ペルセポネは生成した両腕を自在に操り、武術を持ってガリオンと相対する。
対してガリオンは、武を知らぬ獣そのものの振る舞いで、破壊を振り撒く様に拳を振るった。
武術においては特段強者と言う訳でも無いペルセポネはしかし、この戦いにおいては、赤子の手を捻る様にガリオンを圧倒する。
それでも尚決着が付かないのは、ガリオン生来の頑強さに対して、ペルセポネの攻撃が決定打に欠けるからだ。
そもそもこの戦闘、接触しただけで、お互いの神話は衝突しあっているのだ。
ガリオンの持つ魔界破壊の神話と、ペルセポネが編纂した悪魔獣支配、巨獣服従、異界征伐の神話。
それらは接触の度に相争い、主導権を奪い合っている。
だが、それも間も無く終わりだ。
夜が立ち昇る。
◇◆◇
ペルセポネには、30万の魂の配下達がいた。
30万の魂は、付与された情報群と公式イベント会場を利用した1日36日間と言う絶大な時間で洗練され、その演算力はペルセポネの大きな力となっている。
その戦場には、冥域があった。
冥域は何処までも広がる。
世界の壁などありはしない、弱きを狂わせる毒の海。強きを惑わせる無尽の海。
莫大な資源であるそれを、強者達が利用して来なかったのは、それが自我を汚染する強力な毒であると理解している為。
しかし、ペルセポネは違った。
——彼女は冥界の女王。
その華奢な肢体には幾万の命を宿し、冥界そのものを身に秘めたるその有り様は、生来の混沌。
それでいて全ては統一された意志の元動く、秩序の化身。
——生まれ付いての混沌の支配者。
ペルセポネはガリオンとの戦闘の最中、ひたすらに冥域を吸い込み続けていた。
そして遂に、その時は来る。
『神話降臨・冥界の女王』
呼び起こしたのは、今も纏う神話。
現れたのは対の巨腕。
『神話降臨・冥界の女王』
——2度目の降臨。
聳え立つは、合計6つの巨腕。
ガリオンは驚愕に目を見開き、後退った。
それでも尚戦わんと拳を振り上げ——
——刹那の一瞬で巨大な六腕がガリオンを取り押さえた。
『神話降臨・冥界の女王』
——3度目の降臨。
現れたのは、闇。
巨躯を誇るガリオンを遥かに超える、巨大な冥界。
それは瞬く間にガリオンへ喰らい付いた。
巨腕に捕らわれ、闇に覆われるガリオンに、抵抗する術は無し。
必死に暴れ、命懸けで滾らせた真気も、こうなっては最早ここまで。
抵抗虚しくガリオンは冥界に呑まれ、沈黙した。
◇◆◇
悪魔獣の元となる冥域の持つ特性は様々だ。
それこそ、鮫獅子のクーロスの様に、鬣から蛸の足が生えて来る様な異常進化。
そう言ったケースが散見される程度には異常が通常の範疇にある。
その理由は、冥域の中の混沌とした魔力、因子の濃度が、それぞれ全く異なるからだ。
エネルギーとして分解し切れなかった高濃度因子が、進化や魔法に形となって現れてしまう。
レベル600、即ち霊験門を越えた濁冥獣クラスならば、多少の高濃度因子も気にせず分解し、エネルギーとして使用できるだろう。
ペルセポネの場合、吸い取った冥域を30万の魂で丁寧に濾過、分解し、多少の時間を掛けて安全な利用を可能とした。
そうして冥域の莫大なエネルギーを利用したペルセポネは、創出した神話を2度、そして元から持つ冥界創造の神話を1度降ろし直し、ガリオンを捕らえた。
その身全てが冥界に囚われてしまえば、魔界破壊の神話を効かせるには工夫が必要だ。
ガリオンにはそれが出来る様子もなく、迫り来る死を前に出来得る限りの抵抗を見せている。
まぁ、全てにおいて手遅れであるが。
もし、ディアリードが手を降すなら此処だろう。
そうと警戒を続けるも、ディアリードに動きは無い。
そうこうしている内にも、ガリオンの吸収は続けられ、魂の眷属化も進んで行く。
敢えて隙を晒す様に、僕もガリオンの眷属化を手伝ってみたが、結局ディアリードからのコンタクトは無かった。
《【運命クエスト】『魔王列強・滅亡の魔王ガリオン』をクリアしました》




