第5話 冥域へ
第八位階下位
クエスト、グラシアの花々をクリアした事で得られた物は、スキルポイント合計60P、武器『武装書庫』。
武装書庫は背光型装備で、白と黒の光の輪に白い悪魔の三翼と黒い天使の三翼が装飾されている。
能力は、その中に収納された本の力を自在に操ると言う物。
内部には武装書架が6つあり、その演算容量に見合った本を収納可能。即ち、書架の演算力を超える程に強い力を持った魔典は収納不可と言う訳である。
では、書架一つの容量がどの程度なのかと言うと、およそレベル600分の演算力。
現状の戦域はレベル800クラスになって来ているので、装備のレベルとしては精々牽制くらいにしか使えないが、あっても良いレベルではある。
さて、グラシアの支配が終わった所で、その研究の接収だ。
ルカナやテリーがクリプトシーカーを率い、研究成果を自慢しに行くのに付いて行き、グラシアの研究を調べたが……大した事はなかった。
主に生物の進化や、ライフ系含む魔法の構造、また精霊達の働きの研究が行われていた。
やってる事は低次だが……おそらく、生物の進化や極大の魔法の使用に際して、種精霊が関与している事を突き止め、更なる進化と究極の魔法を研究しようとしていたのだろうと分かる。
つまりグラシアは、力を求めて研究を進めていたのだろう。
その一方で、数千年の時間がありながら研究が進んでいなかったのは、ローネリアがその研究に積極的ではなかったからだと推測出来る。
詳しい情報は地上に帰還次第、ローネリアから回収するが、現時点での僕の予測は……ローネリアが、究極と言うに相応しい力を持つ何者かを産み出す為に、動く様に命じられていた、と考えている。
そしてそれは、シルフィアーネの遺志に反する、または逸れる事だとも推測出来る。
ローネリアは、銀の巫女たる僕を待っていた。
つまり、銀の巫女を待つのはシルフィアーネの遺志と言う事になる。
それに反すると言う事は……僕の様な究極の存在を待つのでは無く、自力で生み出してしまおうとしたと言う事か。
……あまりにも期待していたグラシアの研究がお粗末なので、飛躍に飛躍を重ねた推測をしたが、当たらずとも遠からずだろう。
また、グラシアの研究は、メインがそれらではある様だが、ローネリアが積極的では無かったが為に、脇道に逸れまくった研究があちこちでされていた。
それこそ、どれがメインか分からないくらいには多種多様であり、少なくとも帝国よりは色々と研究が進んでいた。
そんな連中に、ルカナとテリーが持って来た研究成果は大ウケで、数少ないグラシアの名を与えられた悪魔達が施設内からぞろぞろ集まって、人混みを形成していた。
僕はそれらから離れ、ある場所に向かった。
グラシアの大型施設の中心にある、庭園だ。
そこにあったのは、大きな……情報系の神霊金属で出来た、金属柱と円盤。
これがルカナの言っていたグラシアに存在する大いなる情報源——神典碑。
莫大な魔力を対価に、情報を取得出来ると言う代物だが、果たしてどんな物か。
試しにオベリスクに触れ、その構造を調べて見た。
分かったのは、これが地脈に接続する機能を有している事。
言ってしまえば、これは鑑定と同じだ。
鑑定よりも自由度は高いが、欲する情報を地脈から引き上げるのに莫大な魔力が必要だ。
僕も自力で同じ事が出来るので、少し期待していた神典碑も用済みであった。
引っこ抜いて改造してリブラリアにでもあげた方が建設的だ。
一つ問題があるとすれば、このオベリスクを作った者が誰なのかだが……古い塗装の痕跡から、ウサギのマークがあった事を確認済みである。
つまり、白兎商会の遺物だろうと推測出来る。
まぁ、白兎商会から放置されて久しい様だし、鹵獲して文句を言われたら料金を払えば良いだろう。
僕はオベリスクを引っこ抜いた。
◇
事ここに至っては、グラシアに期待する物は何も無い。
傷心の僕は街から出ると、少しの荒野を進み、出て来た悪魔獣をぶち殺して冥域の近くまで来た。
「……ペルセポネの?」
「良いよ、あげる」
悪魔獣が出て来た辺りで転移して来たペルセポネに、悪魔獣の魂を与える。
喜ぶペルセポネを横目に、僕は冥域の闇色の海に手を突っ込んだ。
「ふむ」
「ふむ?」
これは、多種多様の属性魔力が混じりあい、くっ付きあって変質した魔力の塊だ。
半物質化したこの魔力の粒子は、正しく海の様に波立っているが、実際は霧である。
この粒子は他の純粋な魔力よりも重く、下に溜まっていく。
また、この粒子は表面上変異しやすい夢属性の様な特性を持ち、魔法の発動や進化を助けるが……一部変質し難い特性が残存し、魔法や進化を異形化させる様だ。
おそらく、この粒子と魂が接続する事によって、悪魔獣が形成されるのだろう。
言わば、無色の誕霊石の様な半物質液体、それを悪魔獣用に調整し、薄めた様な代物である。
また、この霧を形成しているのは、おそらく死した生物の魂から零れ落ちた残留思念だ。
地上からより濃い魔力、生物達の保有する魔力が地脈を通して下の世界、魔界に流れ込み、冥域の粒子へと変じていると見られる。
発生する悪魔獣は、死した者達の魂の欠片を取り込む事で、数多の生物の特質を持つ事になるのだろう。
そこまで考察した所で、ペルセポネが冥域に手を突っ込んだ。
「……何か分かった?」
「……悪魔獣の気配?」
「正解」
よしよーしとペルセポネの頭を撫でる。
すると、不意にペルセポネがひょこっと手を上げた。
そこには、ペルセポネの指に噛み付く、人の手が生えた小さな魚の悪魔獣が1匹。
「……釣った」
「人魚か何かになりそうだね」
「……育てる」
「しっかり面倒見るんだよ?」
「……見る」
お子様のジョーソーキョーイクに良さそうな感じの話をしていると、それは起きた。
冥域の果て、北西と北東。
そこから同時に闇色の海を払い除け、現れたるは巨大な影。
超巨人型の角持つ濁冥獣と、真っ白で光輪と翼を持つ鯨の濁冥獣。
ガリオン LV830MAX
エルバーナ LV830MAX
「ペルセポネの!!」
「倒してからね」
なんか冥域から濁冥獣が出て来た事例があるらしいので、そう言う事もあるのだろうと思っていたら、その声は響いた。
『ザイエェーー! ザイエをだせぇ!!』




